第10話 一緒です
聞き覚えのある声。顔を声の方向に向けようとすると、ぐらっとして世界がひっくり返った。
「ええっ……きゃああああっ!」
私は思わず大声を上げる。空中に放り出された浮遊感。とてもゆっくりと、周りの景色がぐるっと周って……妙にゆっくり落ちていく。このまま階段に打ち付けられたら……とても痛いよね……。
せめて受け身を取ろうと身構えていると、ふわっと落下が止まった。背中と足に誰かの体温を感じた。
目に飛び込んできたのは——
「セイラン!」
皮膚を肌色に変え、額の角を隠したセイランがそこにいた。彼の体はとても大きく、軽々と私を抱えている。
だけど、そのままだと、バランスを崩して投げ出されそうだったので、しがみついた。
「レ……レイナ殿?」
「ありがとう!」
私はお礼を言うと、彼は少し顔を赤らめ視線を逸らした。うーん。お礼を言っただけなのに……照れたのか……私がしがみついたのが、嫌だったのか……どちらにしても彼の仕草は少し意外だと思う。
「あ……ああ……」
「それと、ごめんね……私を担いでた人は?」
「気にしなくていい、奴は、すぐそこにいる」
彼の目線が指す方向を見ると、さっきの黒目の人がしゃがんでいた。姿が見えるようになっていて私たちを注視している。その人がセイランに視線を向け口を開く。
「お前も黒目なのか……?」
「一緒にするな!」
……セイラン、初めて会ったとき、私にその人と同じことしたよね?
彼はゆっくりと私を階段に下ろすと、私に視線を向ける。
「レェナ殿、周囲にはコイツの仲間はいないと思うが気を付けたほうがいい!」
「うん!」
セイランは言い終わると、急に動きを加速して、私を担いでいた人に向かって行った。
私は丸腰だ。仕方なく周囲を警戒しながら、二人の戦いを見つめた。
セイランが背中に担いでいた長刀を両手で持って構えている。
刃先を下向きに構える姿が美しい。一瞬静止し、次の瞬間には素晴らしい速さで相手の懐に長刀の先端を滑り込ませ、振り払う。
それを受ける黒目の人は、短剣一つで応戦する。相手の刃先をかわしたり、短剣で弾こうとするが受けきれていない。接近戦ではセイランの方が圧倒的に強く、あっという間に追い詰めている。
魔法を使う暇を与えていない。黒目の人は防戦一方でじりじり下がっていた。
私はセイランに加勢しようと、片手を上げ、意識を集中した。
「士気と防衛の——」
最後までいい終わる前に、後ろから不意に抱えられ、口を塞がれる。はっとして、その手の主をみると、アルだった。いつの間に側にいたのか、私は全然気付かなかった。
「レェナ。それ以上はいけない。ここは目立ちすぎるし彼はそれがなくても勝つだろう。でも誰だい? 君と知り合いのようだが」
アルは不思議そうに忠告してきた。
そうだ。彼はオニだった。それがバレたら……セイランは殺されてしまうのだろうか?
「えっと、セイランと言って……ルセの街の近くで知り合いました」
「ルセ? ……しかし体は大きいのに、あの俊敏さ……フォゼオは見習って欲しいくらいだ。戦士職か?」
えっと……なんだっけ? オニの職階級も人間と同じなのだろうか? でもまあ、よかった。バレていなさそうだ。落ち着いたらすぐに滞在している宿屋に戻った方が良いかもしれない。
「多分……そう」
アルに腕を掴まれたまま、視線をセイランに向けた。
「…………くっ。何だお前は? なぜ攻撃する?」
「フン!」
セイランが見下すように一笑に付したのが聞こえた。
黒目の人は、距離を取ったかと思うと階段から飛び降りるように下り、逃げ出した。かなりの怪我を負っている。セイランは、すかさず後追いをしようとした。
「セイラン! 待って!」
「……はっ」
すぐに彼は立ち止まった。そして振り返り、アルと、抱えられたままの私を見て、険しい顔になった。
「貴様は?」
「ちょっとセイラン?」
彼は、私を抱きかかえたままのアルを睨むと、手にしていた長刀を構え、私たち……というより、アルに向かって走り出した。
周囲には何人か衛兵の人や騎士っぽい人も見えるのに……王族に武器を構えるなんて。急いで制止しないといけない。
「待って! 彼は——」
そう言いかけると、一人の背丈の大きい人が私とセイランの間に割り込んできた。
「レェナさんに武器を向けるとは……!」
フォゼオさんだ。大きな声で彼が叫ぶ。あれ? セイランが武器を向けたのは、私なんだ。
でも……次元放逐から戻ってこられたんだ。よかった……。
彼は一瞬だけ振り返って私たちを見た。私とアルを見て、ニヤリとしたような気がした。
「アイツめ。私はどうでもいいってか。まあ、いい判断だ」
アルが独り言のようにつぶやいた。彼もニヤリとしていたような気がした。
あっという間に二人が戦闘を始めた。力量が近いようで、互角に戦っているように見えた。
何度か大剣と長刀がぶつかり火花を上げる。フォゼオさんは、持っている大剣で重そうな一撃を放っている。セイランは受けるのに手一杯のようで、素早さを殺されているように見えた。
あまりに大剣の一撃が重いからだろうか? 真っ正面で受けず、できるだけ左右に受け流すようにしている。直撃を長刀で受け止めると折れそうだ。
最初は拮抗しているように見えたけど、少しフォゼオさんが押しているかもしれない。階段の下側は不利のような気がしたけど、それをものともせず、セイランが階段を上る形で後ろに下がっていた。
「あぁ。もう無茶苦茶だ……」
私は頭を抱えた。今は二人とも私の味方のはず。まあ……セイランの早とちりが原因だろうけど……。
止めなければ、と思ったけどアルに体を抱えられたままだ。嫌では無いのだけど、離して欲しいと思ってしまう。早く離れたい……。
あれ? 御影さんだとずっとそうされててもいいと思うくらい、平気だったのに……。アルのことをあまり知らないからそう思うのかな?
歳はアルの方が近いし、嫌いでは無いのだけど。
「ね、アル……いつまでそうしてるの?」
「! あっ……すまん」
彼が放してくれたので、私は二人の間に割り込むため、走り出した。




