第9話 討伐隊の出発
宿舎の一階にある食堂に行くと、御影さん、クレフさんにモランディさんがいて遅めの朝食をとっていた。
「おはよう」
「おはよう!」
みんなが声をかけてくれる。
久々のおいしそうな食事のにおいに心が弾む。ここでは、パンに野菜やソーセージが挟まれたものが出てきた。スープもある。
さっそく頬張ると、幸せな味が口いっぱいに広がる。たった一日食べられなかっただけなのに、温かい食事ってこんなに美味しかったのか……。感極まって、うるうるしてしまった。
涙がこぼれそうになったので上を向こうとしたとき、クレフさんが私とユーユに、交互に目を向けていることに気付いた。
「クレフさん……何か?」
「……夜にユーユが……その……変なこと……ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
そう言うと、私から目を逸らす。心なしか、顔が赤くなっているような気がする。
「気がついたら一緒に寝てました」
私がニコニコと答えると、ユーユが、気まずそうな表情を浮かべる。クレフさんは溜息をつくとユーユを睨んだ。
「……すみません……本当に……可愛い女の子と一緒だと、やってしまうみたいで。それが原因で離脱してしまった子もいたんですよ……」
彼はそう言って頭を下げた。額にかなり汗をかいている。大げさだし……。
「可愛いってそんな……だったら嬉しいかな……」
「レェナさんだったら、誰だって喜んで……痛っ」
急にクレフさんの顔が歪む。
「何鼻の下伸ばしてるのぉ?」
「あ、いや……すまん」
「このむっつりがぁ。レェナはウチだけのものなのぉ」
この二人は一体何を話しているのか……。とりあえずフォローしておくことにする。
「私は気にしなかったし、むしろよく寝られたので良かったですよ」
「レェナー、ありがとおぉ」
「ユーユ! レェナさん、そんな、無理して庇わなくてもいいですよ。涙目になっているじゃないですか……」
涙は食事の美味しさに感動したからなんだけど、言い出す雰囲気ではなかった。しばらく、ユーユとクレフさんが口論を続ける。険悪なものでもないし、なんだかんだ言っても仲が良さそう。
少し羨ましい。
一方、私の目の前に座っている御影さんは、上の空のようだ。
「御影さん?」
声をかけると、何か誤魔化すような顔をして、視線を合わせなかった。ちょっと赤い顔をしているような気がするけど、結局のところは分からずじまいだった。
「討伐隊の人員を募集しているようだなぁ」
酒場の掲示板に気付いたモランディさんが声を上げた。
街の近郊に現れた、ゴブリンやオニを討伐する冒険者を探しているようだ。この街の駐屯部隊の代表者が募集をしており、報酬もあるとのこと。
「冒険者を雇うってのは変だな……妙に衛兵も少ない気がするし……」
モランディさんがそう言って首をかしげる。
「参加するんですか?」
「うーん、しばらく退屈だし……情報収集にはいいんじゃないか?」
そう言って彼はクレフさんに目配せをした。
商隊は、この街で仕入れを行うため、数日間滞在する。それに魔物に襲われたことを警戒をしており、討伐の結果を確認したいとのことだ。
「そうなんですか……セイラ——オニは分からないけどゴブリンはもういないかもしれない」
「ふむ。楽な仕事なら、参加しない手はなさそうだな。さ、そろそろ詰め所に行こうか。レェナさん達はどうする?」
「私も話を聞きたいので詰め所まで行きます」
クレフさんの言葉に、みんなが席を立った。
討伐へはユーユとクレフさんの二人が参加することになった。募集していた人員もすぐに集まり、すぐに出発する運びとなった。
街の入り口に向かうと、既に馬車が数台あって、冒険者達が乗り込んでいる。
「ユーユ、気を付けてね」
「うん。任しておいてよお。モランディ置いていくから。また帰ってきたら同じ部屋で寝ようね」
「うーん、それはどうかなあ?」
「ええええぇぇー」
ユーユが頬を膨らます。わざとなのは分かっているけど、おかしくてつい笑ってしまう。それだけだと怒られそうなので、最高の笑顔を作って彼女に向けた。
「なんてね、いいよ!」
「約束だよお。レェナ大好き!」
ぱっと顔を明るくした彼女は、私の両手を握ったと思ったら、強く抱き締めてきた。胸にすりすりと頬ずりをして……しかも、なかなか離してくれない。
周りの人たちの視線を感じる。
「あーいいにおい……やわらかい……」
「ちょ……くすぐったい……ユーユ? そろそろ……」
「えーもっと……」
なんとか引き剥がして、周りを見渡すと、私達を見ていた男の人たちが一斉に目を逸らした。ずいぶん注目を浴びてしまったようだ。
それからユーユは、ぶんぶんと手を振って馬車に乗り込んでいく。また明日すぐ会えるのに、随分大げさに感じた。
討伐隊が出発した。
私は無事に帰ってきますようにと祈りながら、その姿が見えなくなるまで、ずっと見守っていた。




