第0話 異世界から、来ちゃった!? ★
——目の前に見知らぬ、おじさんが立っていた。それも、全裸で。
異世界召喚術の魔法を起動したのは他でもない私。そうだ、ちょっと考えれば分かったはずだ。
本当に……異世界から、来ちゃった!?
「な……なっ。裸って……」
私が驚いて言葉を漏らすと、その人は私を見つめてきた。そして一瞬、目と目が合ってお互いに固まる。
幸い肝心なところは、煙でぼやけてしか見えず、さっと目を背けることで直視せずに済んだ。
「ここどこ? 君は……なんでそんな格好なの。コスプレ? ……まあ……可愛いけど」
私の姿を見て、よく分からないことを言っている。コスプレって何だろう?
そんなことより——
「あの、前隠しません?」
「お……おお」
私は両手で目を押さえ……指と指の隙間から周囲の様子を窺う。彼は両手で股間を隠した……ようだ。
後悔は一旦脇に置いておこう。目の前に全裸の男性。この状況をどうするか、今は、それが重要なんだ。
そこからの行動は、自分でも驚くほどに速かった。走り出して、召喚部屋から、隣の父の部屋に移動する。次に、壁に掲げてある剣を鞘から引き抜き、その場で構えた。
最初からこうするべきだった。だけど、男の人の裸なんてずっと見ていないのでビックリしたし……。最後はお父さんとお風呂に入った何年も前……って、今それどころじゃない。
異世界召喚術の儀式を行った影響で、体力や魔力の消耗があるから、できれば戦いたくない。
「襲ってこないといいけど……」
どう来る? 私は少し緊張しつつ待つ。
しかし、いくら待っても動きがない。どうしようと思っていたら、その男性は隠し部屋の扉を開け、ひょっこり、顔だけ出して言った。
「あの……?」
壁で隠れて見えないけど、手で股間を隠しているようだ。あの部屋彼以外、誰もいないよね?
見る人がいないのに、恥ずかしいと思う感じが、ちょっと、かわいい。おかげで緊張も少し和らいでくる。
自分も同じ立場なら隠すかもしれないし。
私は問いかける。
「あなたは、誰ですか?」
「え、ここどこです? 鳥取県でも東京都でも……そもそも日本?」
トットリ? トウキョウ? ニホン?
なんだか、お互いに声がうわずっている。その男性からは物腰の柔らかそうな印象を受けた。たぶん、歳は父と大差ない。割と顔は整っていると思う。
普通にカッコいいと言われてそうだ。
「ここはカーラ村というところです」
「カーラ村? あの、なんで俺は裸でここにいるのでしょう? ……ちなみに変態ではないですよ!」
油断はできないけど、悪い人じゃなさそう。たぶん。瞳に何か憂いというか寂しさを感じたから、そう思った。
幸い、彼は武器は持っていない。魔法を使われると厄介だけど、それなら既に使っているはずだ。少し警戒を解く。
「それは私の、せいです。ごめんなさい」
「あっ。いや、すいません……え? あなたのせい?」
「はい…………それに、変態だとも思ってません……」
少し沈黙の時間が流れた。
「……それは助かります。でも、困ったな」
私は、とても申し訳ない気持ちになっていた。彼は何もしてないはずなのに、すいません? ちょっとした違和感がある。でも、怒ってないとは思う。
悪い人じゃなさそうだし、何か困ってるみたいだし、何か力になれたら……。
「困ってますよね……。何かできることありますか? なんでも言ってもらえると!」
私は思い切って男性に聞いた。無理なお願いをされないといいけど……。
——レェナと御影——