078 『時を刻むバングル』の伝承
“影猫の寝床”に挑戦する冒険者たちで賑わう街の、とある雑貨屋には
“シャドウ・ミラーの数倍の強さを持つ『M-IRA-00』を
『手加減したうえであっさりとぶっ壊しやがった』
などと酒場でわめく酔っ払いが、白猫に慰められていた”
という奇妙な伝承が語り継がれている。
その伝承では『M-IRA-00』を倒したとされる者の左手には
『時を刻むバングル』が巻かれていたとされている。
「ちきしょーんなろーばーろーヒック…ウィ~」
俺は、酒場で浴びるように酒を飲み、酩酊状態でクダを巻いていた。
巣窟都市の全設備の完全修復を終え、ポータルの詰所候補地化の改造と
自然洞窟型から始まって、熱帯ジャングル型や石造りの遺跡型を織り交ぜた、
全100階層全長1万kmの壮大なダンジョンの造成。
俺のラノベ知識をフルに活かして生み出したエネミーの数々や
俺のゲーム知識をフルに活かして生み出したお宝の数々やトラップの数々を
ダンジョンのいたるところに効果的に配置し、
元の世界の様々なRPGのボスを【俯瞰】と《ggrks》で完全データ化し、
最下層には俺が知る中で、最強の愛玩神獣を完全データ化して生み出した
オリジナルボス『M-IRA-00』を試作した。
ここまで1週間、飲まず食わず眠らずで俺の全情熱を投入している。
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※【ミラの能力】による特別な加護のもとに行っています。
※過労死の恐れがあるため、加護の無い方は絶対にマネしないでください。
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総仕上げと試作ボスの最終調整のため、
リミッター解除で、その原種に戦わせてみたところ、
一瞬で葬られたあたりで、俺の全情熱がぶっ壊されて、一気に冷めたため、
ダンジョン全てを「また気が向いたときに再設置」のつもりで凍結し、
代わりにポータル内にボス部屋をひとつだけ設置。
『M-IRA-00』に手を加えて、
全身に影をまとったかのような褐色の肌を持ち、
ネコ科の野獣のような眼光を放つ、黒装束に身を包む黒猫獣人をイメージした、
『M-IRA-01B:シャドウ・ミラー』
を生成し、『ボス部屋侵入者の不殺排除』をインプット。
本来の能力の3割程度にリミッターを設定して、
ボス部屋に放置後、核をフルオート管理に設定して、管制部から帰還した。
1週間ぶりに地上に戻った俺は、
そのまま酒場に直行して酔っ払いに転職待ったなし。
ほろ酔いから泥酔を経て酩酊にまで出世してクダを巻いていたら、
アニーとミラと、なぜかオネーサマが加わって、3人が懸命に俺を慰めてくれた。
みんなのやさしさが身に染みる。
目から流れる汗が止まらない…
【速報】俺氏復活
俺は、速攻で酔っ払いに辞表を叩きつけ、シラフに復職した。
【治癒】って酩酊状態も治癒するんだな…覚えておこう。
それはそうと…なぜオネーサマが居るのかはこの際、どうでもいい。
オネーサマに限って、言葉は悪いが考えるだけ無駄だ。
だが丁度良くいてくれたので訊いておくべきことがある。
…いや、訊きたい相手はナイスガイなんだが、別人扱いしないといけないって
【神眼】が言ってた。
訊きたいことは、『発掘された遺跡を自警団詰所として利用可能か』である。
一応街のものだし、町長に確認しておくべきだろう。
すると、「見てから決めたい」とオネーサマが言うので、発掘現場に来たのだが
埋め戻した事をすっかり忘れてた…
これを今のメンバーでどう掘ろうかと考えていたら、
オネーサマの「えい♪」という、か弱き乙女のかわいい掛け声とともに、
遺跡入口を覆う土が一瞬で取り除かれた。
一階部分の奥半分が土の中に埋まっている以外は、
完全に露出した3階建てくらいの高さの遺跡が、その姿を現した。
なるほど、こんな造りになっていたのか…
いや、そんなことよりもオネーサマ、今なにしたの?!
「何って土を〔物置〕に放り込んだだけよぉ」
………その手があったかぁ!
時間かけて発掘する必要なかったんじゃ…
「途中で〔物置〕の容量オーバーしたら
中身が全部溢れてマナトちゃん生き埋めになるわよ?」
前言撤回。やらなくてよかった…
それに容量オーバーしなくても、今度は中身の大量の土の処分に困りそうだ。
「そんなことより、早く中に入りましょうよぉ」
オネーサマはその腕をそっと俺の腕に絡めるとやさしくエスコートするように
遺跡に足を踏み入れた。
ところで、その『時を刻むバングル』だが
現在に至るまで、世界中の歴史資料や地方伝承の全てにおいて
『時を刻むバングル』なるものが
その雑貨屋の奇妙な伝承以外に登場したことはない。
当然、実物を見たものも居なければ、いかなる遺跡からも発掘されたこともなく
これをドロップする魔物を倒した冒険者も現れないことなどから
『時を刻むバングル』や『M-IRA-00』の存在そのものが疑問視されている。
そのため
「『時を刻むバングル』こそが『M-IRA-00』の討伐報酬だ」
と一部の考古学者が主張するものの
一般的には
「そもそもシャドウ・ミラーを超えるバケモノなんて居るわけがない」
と考えられており、ただの雑貨屋の戯言と結論付けられている。




