番外 『リケジョ審判結審』
「まぁもしも仮に万が一……
貴女が本当に『リケジョ』でなかったとして
『貴女の側の塔』が破壊されることなく
まさかの『魔物側の塔』を破壊して
見事、魔物の進軍を阻止することができたなら……
その時は『塔の中のふたり』を解放するとともに
先ほど申しました通り
御三方を『野盗対策のスペシャリスト』として迎え入れて差し上げ――」
あら残念……最後まで言い切れぬまま
時間が来てしまいましたわ……
とはいえ
いくら相手が『金級八星』であろうとも
『ハック&クラック』無しに
あの軍勢の侵攻を阻止などできるはずもなく
故に言い切れずとも何の問題も無し――
学長ことあたくしはそう思い
モニタリングすらも止めて仕事を再開したのですが……
『You Lose!
あなたの塔は破壊され遊戯が終了しました』
――そんな『遊戯終了』の通知が
あたくしの端末に届き
『You Win!』以外にあり得ないと
思っていたあたくしはただ愕然としましたわ……
しかもそれ以外の通知が来ないということは
彼女は本当に『ハック&クラック』なしに
『遊戯』に勝利したことを示しており
その事実にあたくしは益々愕然としましたわ……
彼女は一体何をどうしてこうなったというのか?
こんなことなら
『遊戯』の様子を最後まで観ておくべきでしたわ……
とはいえこうなったからには
思考を改めましょう。
そもそもあたくしが
『リケジョ』であることを頑なに否定する彼女に対して
今回のような無理難題を彼女に強いたのは
生命の危機に陥ったとき……
もしも彼女が『リケジョ』――
『ハック&クラック』の使い手であれば
流石にそれを使って生き延びようとする……
あるいは
本当に彼女が『リケジョ』でなかったら
そのときはただの野盗に慈悲はなし。
ただ魔物の軍勢に蹂躙されるのみ……
……それを見極めるためのものでしたが
結果彼女は『ハック&クラック』を使うことなく
見事、魔物を撃退してのけました。
彼女が『リケジョ』でなかったのは残念ですが
それ以上に魔物の軍勢を撃退してしまうような
驚異的な能力の持ち主を
受け入れない手はありませんわ。
されどあの魔物の軍勢相手に
無傷で済むとも考えられず
瀕死の重症を負ってるやもしれず
ならば急いで治癒術を施さねば
貴重な人材を失うことに……
そう思いながら彼女が戻ってくるであろう
『学長室』に戻ったあたくしは
今夜最大級に愕然となるのです……
なんとそこには、まさかの全くの無傷――
――それは身体だけでなく着衣すらも――
――無傷な姿で来客席にて寛ぐ彼女と他2名……
いや、あなた方……何をなさってますの?
というか貴女、あの戦場で何をどう立ち回れば
今のように全くの無傷で済ませることができますの……?
……等々と
訊きたいこと言いたいことは
山ほどありますが
さしあたって今あたくしが
何よりも最優先ですべきことは……ただ一つ!
それは、あたくしの席に
無言で座り顔の前で手を組んでいる『むしけら』を……
『あぁた、こんの『むしけら』が……
あたくしの椅子でなにしてくれてんねや!』
……とばかりに
『むんず』と掴んで『そおい』するのみ!
「へぶしっ!
……やっと『次話完治』できた俺を
こうも軽々と掴んで投げ飛ばすとは……ばたっ」
「マナトさまあぁぁぁぁぁ!」
彼女がここにきて
今夜一番取り乱した様子で
慌てて『むしけら』に駆け寄りますが……
いや……本当にあなた方は何をなさってますの?
……等々と
訊きたいこと言いたいことツッコミたいことが
それはもう本当に山ほど……
マナト:学長ったら酷いんだよ……
俺を見るなり『そおい』しやがって……
そんなに『むしけら』が悪いのか?
ジーク:いやこれは……
『むしけら』関係なしに
アニキがフツーに悪いと思うッス……
娘さん:なんならマナトさんの方から
『そおい』されに行ってるまであるでしょ……
マナト:だって学長には俺が見えてないのかと……




