序章・前6
示された能力…というか言語理解一択だったが…を選び終えると、
若干騙されている気分にもなってきたが、
乗り掛かった舟だし降りたところでどうなるものでもない。
ため息交じりに思案していると、一瞬ぞわりとする感覚に襲われた。
『今あなたに三つの能力を付与したわ。で、唐突で悪いけどそろそろ時間が惜しくなってきたから
転生始めたいんだけどいい?』
よくねえよ。
「過去に行った後のことを何一つ聞いてないのだが?」
『とりあえず転生後すぐに目にした奴隷商から女奴隷を買い付けて、
適当な頃合いで解放してあげればいいわ。その後は好きに生きて』
ざっくりだなおい。何の説明にもなってない。
「好きに生きろと言っても、最低限の異世界の知識とか欲しいんだが?」
『後で必要になったらその時には教えに行ってあげるから、今はそれで納得して?』
納得できんわ。
「というか、レイが転生した直後に俺を転生させてくれればいいだけの話じゃないのか?」
レイが人買いに誘拐されて奴隷として売られるというのなら、それを防げばいいのだ。
何も買い取る瞬間まで待つ必要はない。
『そうしたいけど、できないのよ…』
「なぜだ?」
『私の能力で出来るのは、さっき説明した下種な金持ちが奴隷を買うその時に、
金持ち本人に貴方を転生させるしかできないの』
なんでだよ…それって転生っていうより憑依っていうんじゃねーの?
『転生は転生よ?細かく説明すると転生先の生まれる瞬間に転生は完了するけど、
貴方の記憶が戻るのが件の時間になるの』
「つまるところ、俺自身の生前の体と記憶のままに狙った時間に転生することはできない…と?」
『そういう事。納得してもらえた?』
「まだだな。俺の記憶が戻った時、転生先の記憶は俺のものになるのか?」
『残念だけどそれは無理ね…それができるなら【言語理解】なんて能力は要らないでしょ?』
なるほど、そりゃそうだ。
それはそれで転生先の人間が急に別人のようになるわけだが…それ問題ないか?
『その辺は1日…いえ、半日ごまかしてくれればどうにかするから。今はそれでお願い!』
まだまだ知りたいことはあるが、半日後にどうにかしてくれると信じるしかないようだ
…というか、どんどんおざなりになってきてないか?この女神…
『とにかく、貴方の冷静な理解力に期待するのと、少しならペットにサポートさせるから、
今はもう納得しといてよ…』
「わかったよ…」
まだまだ情報は足らないが、ここまでの大体の流れは、ありきたりな巻き込まれ型そのものだ。
ペット…アニーだったか?いわゆるナビキャラにでもつけてくれるのだろうか?
女神に問いかけようとするが
『で、そろそろ始めていいかしら?』
どうやらこれ以上の質問は受け付けないようだ。
おそらくこいつからはもう、大した情報は得られないだろうな…
仕方ない、始めてもらおう。
女神が両手を俺の方にかざしてなにやら意識を集中し始める。
俺の方は特に何をするでもなくその様子を見ていると、周囲の光景が徐々にぼやけ始めた。
その光景が白一色になったころ俺は旅立った。
その場には女神と白猫が残された…