序章・前5
『引き受けてくれるのね?』
「どうせ俺はもう寿命だったんだろ?失うものもないわけだ。何よりレイのためだ」
俺自身が、遠い昔に死別した女のことを未だに想い続けているくらいだ。断る理由がない。
即答した俺に、女神は安堵したようだ
「ところで、能力をもらえる話だったな?」
『ええ能力ね。まず私から二つ…【時間逆行】と【過去改ざん】を渡すわ』
「その二つは『過去に戻ってその過去を変えることができる』ということでいいのか?」
『その名の通りの能力よね…それとこのリストから選んでもらえる?』
女神は能力が羅列されたリストを見せてくる。
大体、効果が予測できる、ありふれた能力のリストだな…
『この中から一つだけしか授けられないのよ…』
ふむ一つだけか…一応慎重に選ぶとしよう。
見れば見るほど、ラノベやアニメやゲーム等で出てくるような能力ばかりだが…
その中の一つの能力に俺は目をとめた。
【言語理解】
「ちょっと待て。これは普通に無条件で付与されるべきだろう?」
異世界でおそらく真っ先に不自由になるであろう言語。
元の世界ですら、ちょっと国が変われば言語で苦労するわけだが、
大抵の異世界ラノベの登場人物は、特に望まなくても普通に言語理解しているもんだ
『だってあなたはラノベみたいな架空の存在じゃないじゃない?』
女神はさも当然のことのように答えやがった…
ここまでありきたりな展開で話を進めておいて、いざ話が進むとなったらいきなりコレか…
そんなテンプレ外しは望んでないぞ…
…ん?ちょっと待て…さっきレイは何を望んだと言っていた?「健康な体でそれ以外は何もいらない」とか言って居なかったか?
「レイは【言語理解】はどうした?」
『【健康な体】しか望まなかったから持ってないわよ?』
「………」
『………』
「それを授けるにあたって10代まで若返らせたと言ったか?」
『言った』
つまるところ若い娘が人買いがいるような世界に言葉がわからない状態で放り込まれた…と?
「そりゃ簡単に人買いに誘拐されるだろうよ…」
それ以前に、どんなに安全な世界でも言葉が通じないとか、普通の生活もままならんわ…
重ね重ねこんなテンプレ外しは要らない…
というか【言語理解】とか必須能力、何を置いても選ぶ以外にないじゃないか…