313 『襲撃者』の正体
俺ですら、頸動脈を突き破られて血しぶきを盛大に放出し、
朦朧とする意識の中、声ひとつ上げられない状態なんだよ!
「朦朧としていて声すら出せないというわりには、
充分元気な気もするが……
それに貴様が、声を出せる状態であったとして、
『喰神獣』だの『自称女神』だのと言われても、
ちょっと何言ってるか、わからんのだが……」
よし、そんな何もわからない副隊長に、
この俺が丁寧に説明し――
「副隊長?私は『視界に入れるな』と言いましたよ?」
「は! はい!! ミラ殿すみません!!!」
――説明させてもらえないようだ。
「さて……それた議題を戻すことにして、
『襲撃者の標的がマナトさまではなく副隊長だった件について』
を考えていきましょう。
ちなみに、この者が副隊長の毒殺を企てた『襲撃者』です」
ミラはそう言いながら〔物置〕で気絶している『襲撃者』を取り出して、
ベッドの上に横たえると、副隊長は驚愕の表情を浮かべ――
――いや、拍子抜けした様子で『襲撃者』を見つめていた。
あぁそうか……副隊長が『襲撃者』の姿を見るのは、今が初めてか。
「……まさか、本気でコレが襲撃者だというつもりではあるまいな?」
『残念ながら本気なんだよ、副隊長……
コレこそが、お前を毒殺しようとした襲撃者なんだよ!』
「……だがコレは………『ただのリス』ではないか!」
それが違うんだなぁ……
たしかにこれはどう見ても『そこらに居るようなリスさん』だが、
決して『ただのリス』ではないのだよ!
『な、なんと!『森の可愛い暗殺者』と呼ばれているリス型の魔物……
『スロウロ・リスさん』なのだ!』
「…貴様、本気で『襲撃者の正体はリスでした!』
などという、前回同様の酷いオチをつけるつもりか?!」
だから、酷いオチってゆーな!
「いやしかしだな……こういう時は
『襲撃者の正体はボーケンオーでした!』
とか、
いっそ『宿のオヤジでした!』とか言い出すべきではないのか?
それを何の脈絡もなく『リスでした』はないだろうが!」
何の脈絡もなく……だと?
おい副隊長!それは聞き捨てならないぞ!
お前、本当にわからんのか?
「そう言われても、さっぱりわからんぞ」
仕方ない…今度ばかりは副隊長に、
ちゃんと脈絡があることを、
この俺が丁寧に説明しなければならない!
『というわけで、副隊長。破り取られた資料のことを思い出せ。
その資料には、
【森の中でくろいぬの犠牲になった事故】
【孤児院のくろいぬ襲撃事故】
【猛毒のスロウロ・リスによる孤児院全滅事故】
という事故の話が記録されていただろ?』
「ああ…そう言えばそんな事故も過去に起きていたようだな……」
《ggrks》によれば、『くろいぬ』も『スロウロ・リス』も
この街の周囲に生息する魔物じゃないらしいんだ。
『生息していないにもかかわらず、
俺たちは既に『くろいぬwithボーケンオー』の夜襲をくらっているんだから、
『クロウロ・リス』の襲撃をくらっても、何の不思議もないんじゃないか?』
何の脈絡もないどころか、
むしろ『あぁやっぱりね』ってくらいの話である。
「いや、むしけらよ……
『街の周囲に生息していない魔物』の襲撃を受けている時点で、
不思議しかないではないか!」
ジーク:そう言えば前回から思ってたんスが、
なんで声を出せない状態のアニキと副隊長の会話が成立してるんス?
マナト:ミラが『激おこ』ながらも『意識《共有》』で通訳してくれてるからだよ
娘さん:あ…『ミラさんに任せる』ってそういう任せ方なんだ……
ジーク:ちなみに、この時のアニキって、どういう絵面なんス?
マナト:声は出ないが熱弁をふるってるぞ!
ただし、首からネコをぶら下げて、大量の血を滴らせながら……
ジーク:軽くホラーだったッス……




