205 ゆうしゃ様の価値と冒険者の常識
「むしけらくんが素直に罪を認めないのなら、
ギルマス殿も共犯とみなして罰することになるけど、
そうなる前に、むしけらくんが素直に罪を認めるべきではないのかな?」
だめだ…俺の話は全然聞いちゃいねぇ…
ってあれ?これ、ひょっとして、
『一度容疑をかけられたが最後、絶対に無実を証明できない』
ことで有名な『魔女狩り裁判』か?
なるほど、こないだ悪魔の証明をしたと思ったら、今度は魔女狩り裁判か…
ところで、さっきから黙って聞いてれば、やれ容疑だのやれ罪を認めろだの…
ただの決めつけと言いがかりばかりで、全然《聞き流し》できないじゃないか…
だんだん腹が立ってきた…
だいたい、こいつ一体何様のつもりだ?
なんでここまで上から目線でくるんだよ…
副隊長なんて立派な呼び方しているが、結局は一介の冒険者だろ?
「もちろん『冒険者ランク見直し隊』副隊長のゆうしゃ様のつもりだよ」
そんなの、隊員でも何でもない俺にとっては、
『女神様(自称)』と同じくらい、どうでもいいのだが…
「まさか『冒険者ランクの常識』を知らないのか?
…念のために訊いておくが、なぜつわもの以上になると
『指名依頼』が許されるようになるのか?くらいは知っているだろう?」
…知らんがな…っていうか、
それは『冒険者ランクの常識』じゃなくて『冒険者ギルドの常識』だろ…
「こんな簡単なことさえも知らないのか…
さすが、むしけらの分際で『指名依頼』を受けようとすることはある…
仕方ない、むしけらくんに『常識』というものを教えてやろう。
いいかい?つわもの以上の冒険者は、
『冒険者ギルドサブマスターと同等以上の立場にある』とみなされるんだよ。
これが『ゆうしゃ』ともなれば、
『冒険者ギルドマスターと同等以上の立場にある』とみなされる。
まさに『選ばれた存在』なんだよ」
つまり『ゆうしゃはギルマスと同等以上の立場の選ばれた存在』だから、
コイツはこんな上から目線なのか…
だが《ggrks》!今の話は本当か?
<一部地域では確かにそのようですが、常識というより風習に近いです。
ちなみに、この街はその『一部地域』ではありません。
自身より上位ランクの冒険者に対して礼儀を払うべきではありますが、
ぶっちゃけ『ただの余所者冒険者』として対等に接しても全く問題ありません。
もともと一部地域の冒険者ギルドマスターが、
『自身のギルドに高ランク冒険者の登録を勧誘する際に、
その冒険者をおだてる目的で、そのように吹聴した』
または一部地域の長が、
『高ランク冒険者をギルドマスターとして擁立する際に、
その冒険者を優遇する目的でギルドマスター審査を免除した』
これらの出来事が、
『高ランクの冒険者はギルドサブマスターやマスターと同等以上』
という『低ランク冒険者の願望混じりのささいなウワサ』として、
一部地域の冒険者たちの間に拡散し、
いつしか『冒険者ランクの常識』として定着していったようです。
ところで『ゆうしゃ』以上の冒険者は絶対数が少ないので、
確かに『選ばれた存在』ではありますが、
不当に冒険者のランクを吊り上げる悪徳マスターの例もありますし、
冒険者の『ランク』よりも『実績』を重視するのが『冒険者の一般常識』です>
…やっぱり、言ってることが違うじゃねーか!
冒険者の常識どころかギルドの常識ですらない、ただの一部地域の風習じゃん…




