169 『下っ端作業員』の新たな夢の鑑賞会
コア・リボーン騒動も、思ってた着地点とは違ったが一応丸く収まった。
連中にも無事お帰り頂いたところで、ひと息つくべく、
お茶のお代わりをネコミミ女…じゃなかった、M-IRAに頼もうとしたら…
「クビだ!クビクビクビクビーー!」
などという『下っ端作業員』の怒鳴り声が、表から聞こえてきた。
ヒトんちの前でクビ連呼とか、作業員様はド阿呆でいらっしゃいますか?
「ちょっと見てくるッス」
「やめとけ」
…嫌な予感しかしないので、見に行こうとするジークを反射的に止め、
何も聞かなかったことにし――
「なんか、うちの前で拾ったんですけど…」
――ようとしたのに、娘さんが営業マンを拾ってきてしまった…
「飼いたいです」とか、うるうるおめめで言い出したらどうしよう…
「そんな、ミラさんじゃあるまいし…」
言い出さなくてよかった…
が、確かにミラなら言いそうだ…
「私だって、こんなの飼いたいとは思いませんよ?」
ミラも言い出さなくてよかった…
ってか、本人指さしながら『こんなの』とか、ミラも言うねぇ…
冗談はこのくらいにして、真面目な話、
目の前でこんな会話が繰り広げられるというのに、
とうの営業マンは、全く聞こえてないかのように一切反応しないね…
「娘さんは、どういう状況で拾ってきたんだ?」
「それがですね…」
娘さんが、じっくりお話するために、はぐれモブを探していたところ、
代わりにギルド舎の前で立ち尽くす営業マンを見つけたようだ。
いくら呼びかけても、返事が無く、
『下っ端作業員』の営業車が走り去ったであろう方向を、
虚ろな目で見つめたまま、途方に暮れていたとのことで…
「さすがに、ほっとくのもどうかと思ったので…」
まぁさすがの俺でも、これはちょっとほっとけないな…
仕方ない…大体想像はつくが、調べてみるか…
『契約順守の証のタトゥー』を目印に『下っ端作業員』を【俯瞰】すると、
ひとりで怒鳴り散らしながら営業車を走らせる様子が映し出された。
そこで、みんなでなかよく【俯瞰】鑑賞会となったのだが、
『作業員』の寝言が…『ひどい』というか『知ってた』というか…
皆も想定済みだったようで、映像を観ながら口々に、
「ここまで予想通りだと、逆につまらないッス…」
「私は、はぐれモブ探しに戻ります」
「やはりあの程度で許すんじゃなかった…」
などと、一様にめんどくさそうな声で呟いた。
全員の心を一言でまとめるなら『あきれた』に尽きる。
いや、娘さんは『あきた』で、
ミラさまは『きれた』御様子。
これでも、素直に契約を履行するとは、はなから思ってなかったし、
多少の愚痴や悪口を怒鳴り散らす程度なら、聞き流そうと思っていたのだが…
『行方くらまして、余所の地域でギルド立ち上げ』はダメだ。
無断で新天地を目指すとか、明白な契約違反じゃないか…
「『下っ端作業員』の即時除籍および野盗狩りの猶予取り消しを宣言するッス」
ジークが【俯瞰】に映る『下っ端作業員』を
哀れみの目で見据えながら、残念そうに宣言した。




