131 じっくりのんびり
というわけで、M-IRA(withアニー)は最下層ボス兼受付係を務めることとなり、
これに、モブ受付嬢、兼任受付嬢、下っ端受付係を加えて
ポータルの受付係は、計4人となった。
ところで懸命に沈黙を貫いた、娘さんの上腕装備がないな…
「マスターならテストして来るって、新ダンジョンに乗り込んでいきましたよ」
そこには、同じく沈黙を貫いた俺の上腕装備も乗り込んでいるのだが、
2人そろって名誉挽回のつもりだろうか?
新ダンジョンと言うのは、俺が唐突に造ってみたくなった迷宮で、
『ただ中に入って、最奥にある攻略の証を持ち帰ってくるだけ』
の迷宮探索の基本のような簡単なものだ。
ただ、これまでの迷宮は、
ギルド舎内に入り口を繋いで古代迷宮を装ったものだったが、
新ダンジョンは、ギルド舎の外に迷宮の名を表すようなデザインの、
専用ポータルを用意した、この街初の新設迷宮だ。
その名を――
「いつまでテストに時間かかってんだよぉ!」
――言おうとしたら、チンピラ冒険者の怒鳴り声で遮られた。
その新ダンジョンの公開開始予定を
「テスト終了次第」と告知していたのだが、
いつまでもテストが終了しないので、
待ちきれなくなったチンピラ冒険者が、受付で怒鳴り散らしているようだ。
例によって『はぐれモブ受付嬢』は逃走を完了し、
M-IRAがひとり取り残されてキョトンとしている。
チンピラ冒険者は数名の取り巻きと共に受付を囲み、
M-IRAの全身をなめるように見回すと、舌をなめずりながら
「待ってる間、あんたがその体で相手してくれよぉ」
などと、にやけながらM-IRAに言い寄っている。
『そのような対応は致しかねます』
と、M-IRAがマニュアル対応で断るも
「そんなこと言わずにさぁ~ほんのちょっとでいいからさぁ~」
などと、もはや下卑た欲望全開で全くのお構いなしだ。
あ、これアカンやつや…
「これは確かにマズいですね…主にチンピラの命が」
うんうん。さすが娘さん。状況判断が完璧だ!
さて、どうしたものか…
M-IRAを助けてやるべきか、
それとも、チンピラ冒険者をなだめるべきか…
「チンピラ冒険者を、娘さんの『無邪気な笑顔』で黙らせるか?」
「ん…パスですね。私の笑顔は安くないですよ?」
「なら仕方ないな。他の手を考えよう」
他の手とは言うものの、正直手詰まりなんだよな…
あ、そうだ!
「まずは、遺憾砲の連射で様子見て、極めて深刻砲に換装というのはどうだ?」
「それだと、適切に対応砲を準備する時間がありませんよ?」
「これもだめか…次の手だ!」
などと、娘さんと一生懸命最善の手段を考えていると、
アニーがM-IRAとの近接状態を解除して、まったりと話しかけてきた。
-じっくり?-
おうともよ、こういうチンピラは対応を間違えると後が大変だ。
後に禍根を残さぬよう、じっくりと策を練る必要があるのだ。
-のんびり?-
「そうですね、焦ってヘタに手を出しても事態が悪化するだけです。
ここは、多少のんびりとなっても、完璧な対応策を考える必要があるんです」
さすがは娘さんだ。現状の全てを正確に把握出来てなければ、
そのセリフは出てこない。
-で?結局のところ、どんな対応するの?-
実のところ、俺や娘さんはとっくに対応済みなのだ。
どんな対応かというと、
それはもちろん…
「ほっとく」
「ほっときましょう」
-でしょうね-
満場一致で『新人受付獣に全てを任せる』ことが採択された。




