110 美の魔導士の真相
引き続き、ボス襲撃のあの日の事を振り返ってみよう。
ジークは娘さんの『悪趣味なナイフ』の効果が消え次第
《隷属の首輪》を解除するつもりでいたが、
娘さんが真っ先に望んだのは、
『解除』ではなく『首輪のデザインチェンジ』だったらしい。
解除よりもチェンジというくらいだ。
よほどデザインがお気に召さなかったのだろう。
ジークは何度もデザインチェンジしたものの、
結局娘さんを納得させることができなかった。
ジーク…お前、どんだけ個性的なデザインセンスの持ち主なんだよ…
結局娘さんは、デザインを諦めて『スカートで隠れる《足首輪》』を選んだ。
…なんで解除を選ばないんだろう…というのは野暮ですか?
娘さんはその場でジークに、
納得できるデザインの首輪を作ることができるようになるまで、
師匠のもとで毎日、ファッションデザインのお勉強を命じたわけだ。
あの日のジークが陰鬱な表情になってた理由がこれだな。
その辺りの会話はギルドの外に漏れ聞こえていたので、
オネーサマとの毎日を想像してたら、ジークにかける言葉が見つからなかった。
ちなみに娘さんが「きれいな顔してるだろ。ウソみたいだろ」だったのは、
悪趣味なナイフの効果自体は消えていたが、
それでも精神的な疲労は残ってたようで、
ジークにお勉強を命令した後に、限界を迎えて寝落ちしたようだ。
これらを踏まえて『102の後書き部分』を読み直してみると、
その文章が、まるっきり違うものに見えてくるかもしれない。
それにしても、ジークに命令するとか、ものの見事に主従逆転してるじゃねーか…
で、ある程度ジークのデザインセンスが磨かれたことで、
オネーサマが墓前試合を提案し、
ジークが『専属モデルなら《隷属の首輪》のデザインのみで勝負』ルールを提唱。
娘さんがジークの専属モデルとして名乗りを上げ、
俺とミラに対して《隷属の首輪》の自慢勝負を挑んできたわけだ。
よろしい、ならば墓前試合だ。
ちなみにギルドでの「雑貨屋と娘さんと奥さんのところだよ」というセリフを
略さずに言うと
“ミラが
『雑貨屋で』
ジークが用意した《首輪》を身に着けて待つ、
『娘さんと』
合流して、
『奥さんの墓前で勝負』”
ということになる。
とは言っても、娘さんの母上の墓前で娘さんを打ち負かすのも忍びない。
ここは娘さんに花を持たせつつ、ジークの卒業のためならと、
初めから俺は負けてもいいと思っていた。
そもそも勝とうが負けようが、俺にはなんの得も損もないし…
もっとも、タダの手抜きで負けてやるつもりもなかったけどな…
ただ極めて疑問なのは…
母の墓前で、自身の『隷属の証』を誇らしげに自慢する娘さんってどうなんだ?
ところで、クリークを今度は判りやすく解説してみよう
パンチやキックに見えたのはブレスレットやアンクレットを
対戦相手に『見せびらかして』いただけだな。
パンチやキックを連打していた娘さんが、
ミラの首元や腕を指さしながら高笑いを始めた。
娘さんが最新の《手首輪》《足首輪》なのに、
ミラは見慣れたデザインの《首輪》《手首輪》で
しかも、襟や袖に完全に隠れていて
あまつさえ一切反撃をせずにただ棒立ちでいたからだな。
さしずめ
『そんな使い古したチョーカーやバングルでは手も足も出ませんか?』
と言ったところだな。
ミラが反撃代わりに、襟と袖をまくってランウェイターンを繰り出し、
その一撃で娘さんが戦意喪失で崩れ落ちた…ということだ。
今回ミラには『攻撃は一回のみ』と命じてあった。
言ったろ?負けてもいいが、タダ負けてはやらないと。
ミラの一撃を受けても娘さんが戦意を刈り取られずに立っていられれば、
ミラにギブアップを宣言するよう命じてあったのだが、
どうやら、さくっと刈り取っちゃったようだ。
マナト:ところで、娘さんの『見せびらかし』が非常に嫌な方向で気になるんだが…
ジーク:そッス。『隷属の首輪自慢無限ループ症候群』の症状ッス
マナト:ありゃりゃ、意外なことに娘さんも発症しちまったか…
ジーク:そりゃもうみごとに。ミラ姐さんクラスの症状ッス…
マナト:ステージⅣか…もう一生根治不能だな…




