第一話 本能
二作品目です。こちらはいろいろとはっちゃけて書いています。よろしくお願いします。
諸君は自分の中の抗えない何かと相対したことがあるだろうか?それと相対したとき、諸君らはどのようにふるまっただろうか。人間は高度な知的生命体であり、社会を作り、その中で生きている。社会を乱すことは自分の生命にかかわる重大な関心事であるということだ。社会を乱しそうになった時、我々は空気を読むなどして周りに合わせ、いさかいを回避する。いや、しなければならない。そのコミュニティの中で生きていけなくなるからだ。それだけではなく、第三者をも巻き込みコミュニティを破壊しつくす結果になるかもしれない。我々を取り巻くこのような環境(社会)の中では、本能のままに動くことは一般的に悪とされている。
一方で、本能という原始的欲求に抗うことは非常に難関であることも私はよく理解している。人間とは社会と本能にうまく折り合いをつけて生きていかなければならない生物になってしまったと言えるだろう。
だが、我々は本当にそれらに折り合いをつけているのだろうか?答えはノーである。強盗や強姦がなくならないのがその最たる証拠と言える。今あげた例は過激な例となっているので、諸君らの中には次のようなものもいることだろう。すなわち、完璧に折り合いをつけて生きていけているので、これらの犯罪を犯すものを人間ではなくけだものだと考え一種の壁を創り出す者である。では、学校という諸君らと少なからず影響を与えたコミュニティでのことを考えてみよう。
学生、特に中学生や高校生というものはとにかく多感な時期で、子供と大人の間をさまよっている。諸君らはここで本能の抑制方法を学んだのだろう。しかし、クラスの中に(ごく少数だが)全く欲望に忠実でまるで本能のままに動いている者がいなかっただろうか?諸君らはその者に対し憤りを覚えただろう。しかし一方で自信満々に容易に本能を見せる彼らに羨望に近い驚きを覚えたこともあっただろう。自分もあんなふうにふるまえたらどんなに楽だろうか?と。
なんとなくのイメージができただろうか?さて、ここで先ほどの強盗、強姦といった犯罪に話を戻そう。今、諸君らの心の中には「好きに強姦が出来たらどんなに素敵だろう」と考えた者がいたのではないだろうか。このような犯罪も学校の例の延長での話なのだ。何かのはずみで抑え込まれた欲望が噴火してしまう。我々はその欲望をまるで線香花火を落とさず終わらせるときのような、コップいっぱいに張った水をこぼさず運ぶ時のような最大限の集中のもと何とか今の今まで抑え込むことに成功し続けている。折り合いをつけるというよりまるで本能という猛獣を檻の中に閉じ込めているかのような厳重さだ。
私はこう考えている。人間とは本能と折り合いをつけているのではなく、ため込んで本能を爆発させる機会をうかがっている、他のどの生物よりも本能に従って生きている生物なのではないだろうか?
「まあ、私が何を言いたいかっていうとね。」
散々長い講釈を垂れたうえ急に素のしゃべり方に戻ると、えらっそうに椅子にふんぞり返って座っている女はこう続けた。
「君たちは全く使えないゴミカスどもの集まりだったってわけ。普通なら候補の4、5人はいるのに、たった一人だけなんだもん。」
話を整理しよう。俺こと現在高校二年生の才葉 波人が所属するこの2ー1組はいきなりクラスごとこの一面真っ白い空間に放り込まれた。いわゆる転移だとあの女…女神(自称)はクラスのみんなに告げたのだが、もちろんそんなことは俺を含め誰も信じていなかった。どよめく俺たちを無視し、女神は話を続けた。要約するとこうだ。
①クラスごと異世界に転生させる。
②しかし転生させるにあたり私(女神)の選別が必要だ。
③その結果異世界に行ける人間は一人だけ。ほかは残りカス。
④あーあ、せっかくクラスごと呼び出したのに期待外れ。どうやって責任取ってくれるの?
…そして今に至るわけだ。もちろんこんな話も信じる者はおらず、女神に対し口論する者、テレビか何かのドッキリだと叫ぶ者、ただただ慌てふためく者と大騒ぎだ。俺はどこに入っているのかって?…傍観者だよ。なるようにしかならないから、この場が収まるのを待っている。他の者はすべて三者のどれかに入っているが、俺一人傍観だ。こんな人とちょっとズレた考えをしているからくらすにもなじめなかった…。クラスのやつらも子供っぽく見えてしまうし、なじもうと思ってもどこか一線をひいちゃうんだよなぁ。嫌われているわけじゃないとは思うんだけど。
と、そんな物思いにふけっている場合じゃなかった。女神(自称)の言うことが正しいなら俺たちはなんだ?無理やり呼び出された上に罵倒されているということなのか?
そう考えると急に女神に対し何とも言えないいらだちが募ってきた。騒ぎ立てるというほどではないがそろそろ俺も口論に参加させてもらおうではないか。と、女神のほうへ歩き出した途端。
…目の前から、俺以外のクラスメイトが消えた。まるで、初めからそこに誰もいなかったかのように。
「へぇ、そんなに驚かないんだ。普通なら結構びっくりすると思うんだけどね。」
いつの間にか女神が俺の目の前に来ていた。間近で見ると、結構かわいいな…。
「おや、私に見とれちゃったのかい?異世界に旅立ったら、もう私の姿は見れないからねぇ、今のうちに堪能しておくといいよ。」
蠱惑的な男の本能をくすぐるような甘い誘惑をはらんだ声、金色の豊かな髪は腰のあたりまで伸ばしておりその一本一本に至るまできれいに整えられている。絹のドレスのようなものを身に着けていて、一見清楚な感じに見えるが胸のあたりは窮屈そうで今にもはち切れんばかりである。身長は俺の肩くらいかな。俺の身長が男子の平均である170であることから考えるとおそらく150くらいであろう。
正直、かなり好みのタイプである。クラスメイト達が消えたことよりも俺の心をゆらしている。
「ふふふ、私に惚れちゃった?」
彼女はまるで俺の心を読んでいるかのように透き通った目でこっちを見てくる。こいつ…。
「そ、そろそろ本題に入ってくれ。こっちは何が何だかわからないんだ。」
「お、やっとしゃべってくれたね。いいよいいよ、話かけるという行為はコミュニケーションにおいて基本にして重要な行為だ。」
なんとなく小ばかにされている感じがするな。
「馬鹿にはしていないさ。君、ここにきてからさっきまで全く言葉を発しなかったろ?寡黙なんだね。心の中ではおしゃべりさんなのにね?」
「なっ!」
「私、神様なんだよ?これくらいできるさ。」
も、もしかして心の中を読まれてる?
「そうだよ♪さっきからずっと君の心の中の言葉に対してコメントしているじゃないか。」
文字通り言葉が出ない。心の中を読むということはつまりさっきの好みのタイプというのも聞かれてたり…。
「ばっちり聞こえてたよ?」
ああああああああああああ!!!
よければ感想など書いてくれたらうれしいです。