999話 フラグ回収
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さて、口約束は拙いよな。
「将軍、冒険者としてここに来ているので、冒険者ギルドに提出できるように正式な書面をいただきたい。後で言った言わないの口論になっても困りますので、よろしくお願いします」
「貴様! 我々が嘘を付くと思っているのか!」
今にも切りかかってきそうな騎士を横目に、
「こう言った事はしっかりと書面に残しておくのがルールなんだぞ。騎士なのにそんな事も分からんのか? もし書面に残せないというのであれば、連れ去られた聖国の人間は助けているので契約はここまでという事になりますね。トルメキアと冒険者ギルドで折衝して、俺に払う金額を決めてください」
これ以上話す事は無いと立ち上がるふりをする。とうとう我慢できなくなった騎士が剣を抜いてこちらに切りかかってこようとした。
俺は剣をかわし、剣を持っていた右手を引っ張り足をかけ投げ飛ばし、仰向けで背中から落ちた騎士の右腕をねじりうつ伏せにさせ、持っていた剣を取り上げて、首に当てる。
「将軍……これはどういうことですか? 殺されそうになったのに、なぜ誰も動かない? トルメキアは俺を利用するだけ利用して、殺すつもりなのか?」
そう、この騎士が切りかかってきた時に誰も動かなかったのだ。突然という事もあるが、20人程いる騎士が誰も動かなかったのは何でだ?
「シュウ殿済まない! この男はきつく注意しておく……だからこの場は許していただきたい」
「なぜ殺さない? 手を出したら殺すって話じゃなかったか? 殺せない理由でもあるのか? お前はうるさいから黙っておけ!」
腕をキメられギャーギャー足元で騒いでいる騎士がうるさかったので、頭を軽く蹴飛ばして気絶をさせた。
「シュウ殿。すまないがそれ以上は止めていただきたい。それでもこの国の王子なのだ……」
「ふ~ん、王子だからってしっかりと仕事をこなした冒険者を、殺そうとしてもいいのか? そんな事ないよな? と言うか、こいつが動いても反応しなかったのは……初めから俺に切りかかるつもりだった?
いや、何か違うな。そもそも何で王子がここにいるんだ? 前の時はいなかった気がするし……となると、もしかして将軍……俺を利用したのか?」
何となく思った事を口にすると、引きつった顔をした。おいおい、将軍が本当の事言われたからって顔に出すなよ。
「そうなると、お前らにここでこいつを引き渡す事は出来ないな。どういう風に利用したいのかは知らないが、俺はお前らの思惑に乗る程お人よしではない。こいつは冒険者ギルドに引き渡す。
交渉は冒険者ギルドとしてくれ。でも、この国の冒険者ギルドではなく……王国の街、フレデリクの冒険者ギルドに引き渡す。ピーチ、呼んだ冒険者の一部を護送の名目でフレデリクに向かわせてくれ」
「ちょっと待っていただきたい! この国の王子だと説明したのに、他国の冒険者ギルドへ連れていかれては困る!」
「俺は殺されそうになったのにな。じゃぁこいつを引き渡す代わりに、まず6万人を助けた事による報酬を、国の名の下に確約する書面をいただきたい。もし、追加依頼をしたいのであれば、正確な内容とそれに対する報酬も、明確にしていただきたい。どうかな?」
「それは私にはできないのだ。王都に戻り払える金額を決めねばならぬのだ。私の一存ではどうにもできない」
「そっか、じゃぁ俺が助けたトルメキアの人たちは渡せないな。このまま戻って街で生活を始めてしまえば、報酬についてうやむやにされる可能性が高い。すでに街へ戻って生活しているのだからといって、不当に安い報酬になる可能性が捨てきれない」
「それは話が違うではないか! 連れ去られた人たちにも生活があるのだ! 何とも思わないのか?」
「報酬を確約できません。お願いしたい依頼の報酬も明確にできません。助けた人間は街へ返してください。って、ふざけてんのか? こっちだってタダで仕事してるわけじゃないんだぞ? 言っちゃ悪いが、今のお前の態度は、元から正当な報酬を払うつもりが無いって言っているようなものだぞ」
「そんな事は無い! 私だって、払えるものなら払いたい。だが私の一存ではどうにもならない。だからお願いだ! 可能な限り報酬はお支払いする。だから連れ去られた人は街に帰していただきたい」
そういって将軍は頭をさげてくる。
「無理だな。報酬の確約ができない限り、連れ去られた人は街へ返せない。だから1つ提案しよう。今から王都に行って報酬について確約をもらいに行こう。移動は、バハムートを使うから時間はかからない。いくぞ! 早くしないと連れ去られた人たちが飢えるぞ」
と言っても、軍が強硬手段に出て街へ移動を開始するかもしれないんだよな。っという事で、
「ライム、1人でいけるか?」
「魔力を使いきりますが、問題ありませんね。シュリ、倒れたらフォローをお願いします」
魔導無線を使って、みんなに野営地から離れるように指示する。しばらくしてライムがこの野営地の周りに円を描くように穴を掘った。
「バッハ、ワイバーン位の大きさになれるか?」
そうすると、大きめのワイバーン位のサイズになった。俺たちはそのまま背中へ乗り、将軍も引き連れて飛び立つ。みんなが集まっている所に降り立った。あ、王子とやらを連れてくるのを忘れたと思ったら、しっかりとバッハが掴んで持ってきてくれていた。
「将軍、時間が無いので早く王都へ行きましょう。案内をまかせましたよ」
顔が引きつっているがしっかりと王都まで案内をしてくれた。今回、王都に向かったのは俺だけだ。いざって時のためにドッペルである俺だけが行く事にした。もしこいつが死んでも俺には影響ないからな。妻たちからは、顰蹙をかったが許してもらいたいところだ。
バッハの飛ぶ速度は速かったようで30分もかからずに王都の前まで到着した。さすがにこのまま王都に乗り込むわけにもいかないので、手前で降り将軍に説明をさせて王都に入っていく。
国の騎士のトップと言うだけあって、緊急会議と言ってすぐに人が集まった。俺は将軍の権力でその会議に参加させてもらっている。
将軍が大臣であろう人物に、今回の俺たちの働きについて説明している。6万人を助けた俺たちに対して払われるのは……金貨600枚、1人頭銀貨1枚という計算だ。全員奴隷として売れば、その数倍は確実にする。
「ちょっと待っていただきたい。そもそも、なぜ我が国が自国民を取り返したのに、金を払わなければならないのか?」
おっと~まさかの金を払わない感じか? それに対して将軍が必死になっている。
「軍では危険という事もあり助けられないから、冒険者に依頼を出したのではないですか! それを現場の判断に任せると言い、任せたのはあなたたちです。冒険者は、連れ去られた全員を助け出しているんです! それに対して報酬を払わないというのは、どういうことですか?」
「現場に判断は任せたが、金を払うとは言っていない。聖国の街を襲ったのであろう? ならば報酬はそこから出せばいいではないか?」
「あれは、冒険者たちの物です。私たちが判断して動かしていい物ではない!」
思ったより将軍はまともなんだな。なのに何でこうなるのかね。
「だから、その者たちにそこから多めに払えばいいではないか? なぜ国が金を払わねばならぬのだ? 後、その者は何なのだ? 部外者であろう?」
「この者が、国民を6万人助けてくださった冒険者の代表です」
「そうかそうか。よくやってくれた。報酬は略奪した物からもらってくれ」
「そっか、元から払う気が無かったんだな。将軍、これは冒険者ギルドに報告させてもらう。バッハ、窓の外に出たら体のサイズを大きくしろ。将軍! 戻るぞ!」
将軍の首根っこを掴んでバッハに乗り王都を後にする。
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