951話 マグマの中の行軍
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灼熱地獄と言っても問題ないこのダンジョンの30階。念のために冷却魔法を使ってみたが、天井から流れ落ちるマグマは一時的に固まってもすぐに床まで落ちて、マグマの流れに合流してしまう。床のマグマは固まっても、20秒ほどで戻ってしまう厄介な状況だ。
普通マグマの近くを歩くとなれば、熱波で皮膚がじりじり焼けそうになる。防ぐためにはやっぱり装備か? 温度を下げる魔導具とか、熱を遮断する方法でもないとかなり辛いだろうな。
この階から下は、本当に選ばれた冒険者しか進めないだろうな。ダンジョンに潜る人間は自己責任だから、とは思うが関所みたいなのがあった方がいいのでは? とミリーが言っていた。
実質俺が管理する事になるんだから、あの手この手でダンジョンを改造する事は可能だろう。もしこのダンジョンにダンジョンコアが無かったとしても、それは可能なのだ。ダンジョンの特性を知っているから出来る方法であり、無尽蔵ともいえる魔力を駆使する事によって安全部屋を作る事に成功している。
まぁそれはさておき、どうやって進むかが肝心なんだよな。ウィスプはこの階から下で死んでおり、全部マッピングできている階は33階までである。一応、一部でいいのであれば37階までマッピングできているが、何処まであてになるのやら?
「結構難儀なフロアですね。ウィスプがマッピングしてくれた情報を元にすると、次に休憩ができる場所は、32階のこの部屋だと思います」
マップ先生を見ていたクシュリナから、そういう風に告げられた。俺もそこしかないと考えている。35階までは1階1階が大きな部屋になっているため、目を付けたその位置しか休めそうなポイントが無かったのだ。
そこだって行ってみないと分からないのが現状だし、その場合は野営コンテナを出せそうなところで強引に休むか、コンテナを使わずに休むか、そこまで行っての判断となる。最悪クリエイトゴーレムを使って、安全地帯を作る事も視野に入れている。
「みなさん、魔導具は問題なく起動してますね? 魔力残量は大丈夫ですか? この階層は、魔物以上に環境そのものが危険です。油断していると命取りになりかねません。マグマを泳いでいる魔物がいるので、奇襲にも気を付けないといけないです。
可能な限り広い道を通っていきますが、狭い道を通る時はフォートレスや壁を作って進んでいきます。そちらに手を取られないメンバーは、索敵と魔物の排除を中心に動いてください」
ピーチの指示を聞いて皆が動き出す。俺はシルキーたちの近くで隊列の中心にいる。ここからでは近接武器は使えないので、弓を持っている。クロスボウ型のシューティングスター改からシューティングスターを取り外して使う。
少し進んで分かった事だが、マグマの中の魔物は察知しにくいという事だ。液状にはなっているが、水中とは全く勝手が違う。感覚的には壁からいきなり魔物が飛び出してくるようなイメージだ。しかもタコの魔物に限って言えば、本体がマグマの中なのに触手を伸ばして攻撃してくるのだから質が悪い。
他に言うと、マグマから出してしまえば雑魚になる。魚が単純に勢いよく飛び出してきて、盾等に防がれたら床に落ちてぴちぴち跳ねるだけだった。ここら辺は水の中に住んでいる魚と変わらないんだな。何てどうでもいい事を考えてしまった。
マグマの中にいて分からないなら、無差別にでも攻撃してみるか? と思い付き、ピーチに確認すると「危険だと判断したら止めます」と言われた。俺もわざわざ無理をしてまで攻撃するつもりもないので、危険だったら止める予定だった。
マグマは、液状……半流動状とでも言えばいいのだろうか? 俺がイメージしているよりサラッとしている印象だが、それでも水の数十倍は抵抗があり、マグマの中に矢が入っても予想以上に威力が無かった。
タコの魔物を発見した時には、胴体のある場所に撃ち込んでみたが、ほとんど効果が無かった。タコの魔物自体が矢に強いかというと、そうではなく触手なんかは結構な範囲をえぐり取ることができているのだ。
マグマの中では矢の威力が落ちるため、魔物達に有効打を与えられないのだと、弓使いのマリア、メアリーと一緒に結論付けた。なので、目に見える範囲に魔物が出てきたら撃ち込んでいくスタイルに変化する。
30階の半ばまで進んだところで、道幅が狭くなる場所に到着した。これまでは、5~6人が並んでも余裕がある道幅だったが、2人が並んで通れるくらいの道幅があるが、両サイドにマグマが流れている事を考えると、1列になって渡るのが無難だろう。
「初めに、シュリ頼めますか? シュリは左側にフォートレスを、ライムが右側に一時的でもいいので、アースウォールを使ってください。弓と残りの魔法組は、マグマから出てくる敵の排除を! シュリ、任せました」
シュリは、何の気負いもなく道を進んでいく。まだフォートレスを発動していないが、どんなことがあっても問題なく発動できるという自信の表れだろう。右利きのシュリからすると左側からの攻撃は受け止めやすいが、反撃はしにくい。
マグマから飛び出してきた魚の魔物を、フォートレスで受け止めるのではなく、危なげなく切り捨てていた。フォートレスを使うまでもないという事なのだろう。アースウォールを張ろうとしていたライムは、シュリのジェスチャーで今はまだ発動していなかった。
50メートル程あった距離を、ただ道を歩いているかの如く進んでいくシュリはカッコよかった。前衛組や斥候組は、シュリと同じように、マグマから飛び出してきた魔物を切り落として進んでいった。後衛組とシルキー、従魔は全力でのアースウォールの間を駆け抜ける事になった。
何度もかけなおすより、そっちの方が危険がないだろうという事になり、実行に移されたが、全員が渡りきる前に壊れてしまっていた。地面の上にそれなりの厚みを持たせて作っていたのだが、アースウォールはよくわからないが、維持できなくなり崩れてしまったのだ。
後方に近い位置にいた俺は、崩れるアースウォールの向こう側から襲ってきたタコの足を切り落とし、追撃してきた他のタコの足は、一時的に強引にマグマを固まらせて、その上を跳びながら移動して撃退した。こんな狭い通路で弓を持っていても役に立たないからと言って、剣を持っていた事が功を奏した。
32階に到着した時には出発からすでに8時間が経っていた。目標の地点まで、およそ2時間。
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