688話 リブロフ近郊にて
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広場に戻るとバッハがくつろいで、俺の事を待っていた。俺に気付くと「キュオッ」っと鳴くのだが、それ以上に違和感がある。近付いて、料理のにおいをかいで気付いた。
「バッハ、山のように積んであった料理を食べたのは良いんだが、骨も何もかも全部食べたのか?」
頭を撫でながら聞いてみると、首を縦に振りながら「キュオキュオ」と鳴いていた。
「ドラゴンだし歯も頑丈だろうから、骨も簡単にかみ砕けるか? 喉に詰まったりしないのかな? ドラゴンは、体内まで規格外だったりするか?」
そんなことを考えながら、もう一匹のドラゴン、ハクの事を思い出す。
「そういえば、ハクも骨まで丸ごと食べてたな。ドラゴンだけじゃなく、オオカミも狐たちも骨まで食べてた気がするな。この世界の魔物は、まるまる食べるのが普通なのだろうか?」
どうでもいいことを考えながら、バッハの首に隠れながらマップ先生で、リブロフの街の様子……正確には妻たちの様子なんだけどな……を見ている。王国の軍はまだ王国とリブロフ、中立域に入ってきてはいなかった。
大体予想通りの進行速度に安心した。同時に向こうの指揮をとっている、ピーチとシュリに魔導無線で連絡を入れ、もし先行してきた兵たちがいても、一般兵には極力被害を出さないようにお願いする。
三十分経つ前に、深紅の騎士団の準備は整ったようだ。前にあってから大分時間が経っているが、何となく覚えている顔がいくつかあった。
今さっきいた団長が頭を下げて、こちらに向かってきた。それに合わせて後ろにいる騎士団のメンバーも、頭を下げて近寄って来た。そこに深紅の騎士団を運ぶための馬車も、一緒に運ばれてきた。
「フル装備の十二人が乗るには、少し小さくないか?」
「少し小さいですが、すぐに準備できる馬車で、一番大きかったものがこれでしたもので。それに自分たちでの移動を考えれば、運んでもらえる今回は、多少窮屈でも問題ありません」
そんなもんかな? 準備できたみたいだし行こうか。さすがにバッハが馬車をそのままつかんだら壊れるか? ワイヤーを収納の腕輪から取り出して、馬車の車輪に結び付けて、上に輪っかができるような形にして、バッハが掴みやすいように工夫をしている、
「準備が出来ましたので、乗り込んでください。多分四時間もあれば到着するので、それまで我慢してください」
深紅の騎士団が乗り込んでいく。食料とかはどうするんだろうな? リブロフで仕入れでもするんだろうか?
「全員乗り込んだな。俺たちも頭の上に乗ってから出発しようか。バッハ、飛び立つ時は馬車に注意してくれな!」
バッハが一鳴きすると、飛び立つ。風を操って飛んでいるため、馬車にたいした衝撃もなく飛び上がる。スピードによる体にかかる力もなく、簡単な飛び立ちだった。
俺たちは暇なので来る時と同じように、バッハの頭の上でくつろぎながら本を読んだり、ゲームを始めていた。キリエがどんな本を読んでいるのか気になったので聞いてみると、地球流のメイド、侍女の教育本だった。君は何処を目指しているんだい? 絵が多めで、姿勢などについて書かれていた。
そんなこんなで四時間経った頃に、リブロフの街が見えてきた。王国軍が攻めてくる側にリブロフから……二キロメートル位だろうか? 離れている所にワイバーンたちが寝そべっていた。バッハに声をかけて、ワイバーンが寝そべっている所に降りるように指示をする。
俺たちが飛んできたのに気付いて、みんなが天幕から出てきていた。別に出迎えてくれなくてもいいんだけど、出迎えてもらえると何となく嬉しいな。
「みんな、準備は大丈夫かな? 今日中にこの付近まで王国軍は来れるけど、攻めて来るのは明日以降だと思う。時間が無いから、国王からお願いされた内容について、みんなに教えるね。
その前に深紅の騎士団は、食事は準備しているのかな? 調理器具は積んであったみたいだけど、食材までは無かったのは……ってやっぱり持ってきてないよね。リブロフが二キロメートル程先にあるから、買い物に行ってきた方がいいのでは?」
「そうですね。何より急だったもので、天幕もない状態ですが、私たちは野宿にも慣れていますので、食材だけは現地で調達できればと、積んでいませんでした。六人程でリブロフの街に、食材を買いに行ってきてくれ。残りはここで野営の準備は出来ないから、かまどの準備だ」
「うちの天幕でよければ、貸しますよ。余分に持ってきているので……荷物を持ってるのは誰だっけ?」
「はい! 天幕の予備もしっかり入ってます!」
エレノアが元気に返事をして、天幕がある事を教えてくれる。俺に近付いてきて、目の前にどんっと置いて元居た場所に戻っていった。
「助かります。買い物に行く班は鎧は脱いで行け。武器は持って行ってもいい。借りた天幕を立てたらかまどの準備だ」
そう団長が言うと準備を始めていく。
「リンド、上から見た時にリブロフにワイバーンがいたけど、ヴローツマインから竜騎士が到着してるのか? そっか、じゃぁこの人等について行って、向こうのリーダーを連れてきてくれ。荷物運びに使えそうな荷車があったら、貸してやってくれ」
リンドが返事をして、準備のできた買い物班についていく。
「シュウ殿、つかぬ事をお聞きするが、君たちは食料品をどうしているのだ?」
「調理済みの料理も食材も、常に持ち歩いています。最低でも一週間分は準備していますね。今回は……一ヶ月分はあるんじゃないかな?」
「なるほど、シュウ殿が持っている収納アイテムは、時知らずの機能がついているんですね。羨ましいことです」
「ふ~ん、時知らずって言われてるんだ。その通りで、時間が止まる収納のアイテムだな。それにしても、食材を譲ってくれとか、買わせてくれとは言わないんだな」
「そうですね。本当は売ってほしい所ですが、軍事行動で食料がどれだけ重要なのかは、分かっていますので、どれだけ多く持っていても相手からの提案が無ければ、絶対に買わせてほしいとは言いませんね。
ですが、これが今攻めてきているような貴族たちであれば、買うとか買わないとかではなく、寄越せと言って奪っていくでしょうね」
「同じ王国でも、大分違うんだな。エレノア、今回パンを焼ける窯って持ってきてるっけ?」
「持ってきてます! 小麦粉もいいのを仕入れています!」
「じゃぁ、深紅の騎士団の分も焼いてやってくれ。大きいサイズで、二つもあれば一食分十分だろ? みんなも手伝って焼いてくれ!」
「よろしいのですか?」
「俺が嫌なのは、貴族みたいな傲慢な奴等だからな。きちんと分かっている人間にも、冷たくするわけじゃないよ。俺からのプレゼントだ。明日の朝も期待していいぞ」
騎士団長とその話を聞いていた騎士団のメンバーが喜んでいた。ちなみに今回の深紅の騎士団には、二人の女性騎士がいた。その女性騎士にみんなが簡単に調理できる方法を、レクチャーしていた。
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