674話 馬鹿の相手は疲れる
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俺は勇者のいる宿に向かって歩いている。衛兵も泊まっている場所は知っているようで、迷いなく進んでいっている。
しばらく歩くと目的の宿に到着する。衛兵が宿の主人に話を通していると、食堂にいた野次馬の騒ぎを聞きつけたのか、勇者が部屋から降りてきた。それを見つけた店主が、あの人たちが勇者一行だと告げた。
「勇者御一行様。あなたのパーティーメンバーが、色街で問題を起こしました。力に任せて女性を抱こうとしており、駆けつけて捕えようとした衛兵に向かって、武器を抜きました。
この街では両方とも重罪であることは、街に入る際に伝えてありましたが、守ってもらえませんでしたので、今は捕えて牢屋に入っています。それをお伝えしに来ました」
勇者パーティーは、慣れているのか苦笑いをしているだけだった。その中で勇者二人は、苦い顔になっていた。
「すまないが、ジェニスと話す事は出来ないだろうか?」
「正規の手続きを踏んでいただけるのであれば、面会は可能です」
衛兵が答えをかえすと、パーティーメンバーの男が出てきて、
「俺たちは、王国に召喚された勇者様のパーティーメンバーですよ」
「それは知っていますが、それと今回の件と何か関係がありますか?」
「勇者様が頼んでるのに、すぐ会えないのはおかしくないですか?」
あくまで勇者からの話なんだからと、上から目線で衛兵を諭そうとしている。あまり衛兵頼りにしていると良くないか。
「この街では、勇者も貴族も王族も一般市民も関係はない。よって自分たちが特別であると言う主張は、聞き入れられない。正規の手続きを踏んで面会するように」
「君……まだ若いのに、そんなことを言っていいのかね? 君の上司が困ったことになるよ?」
勇者は、なんで止めないのだろうか? まともな人間の方だと思ってたのにな……
「みんな、少し静かにしてくれないか? どう考えても、ジェニスが悪いのは明白だ。それなのに勇者の名を使って、圧力をかけるのはやめないか。それにこの街では、勇者の名前は通用しない。入る前に聞いただろ? それなのにルールを守らないんだ、痛い目にあってもしょうがないだろ?
みんなも考え直した方がいい。今までは何も言っていなかったが、さすがにこれ以上は俺たちも、君たちを庇う気はないよ。何も知らない俺たちを育ててくれた恩はあるけど、すでに返し終わっている。君たちも十分に、いい思いをしただろ? それもここまでだ」
何となくこいつらの関係性が見えてきた。でも、そうなると勇者のパーティーが、十人同じ所に重なっていたのは、どういう事なんだろうか? 予想では、勇者二人がボコボコにしたと思っていたが、恩があるならそこまではしないか? 謎が増えた。
「そういう関係だったわけか」
「あれ? よく見たら君は、ジャルジャンの街にいたよね?」
「そうだね。こんなに早く再会するとは、思ってもいなかったよ。ちなみに俺がここにいる理由は、この街が俺が作ったからで、勇者のパーティーが相手だから呼ばれたんだよ」
「って事は、君が噂のシュウってことか……あの時に気付けなかったとはね」
「そこらへんはどうでもいいだろ。君たち二人は、今回の件を納得しているようだけど、後ろのパーティーの方々は、納得していないようだね。すぐに納得しろと言われても無理だよな……
でもな、脅しをしているつもりが無くても、そこの男は俺や衛兵を脅しているわけで、それもこの街では犯罪なわけ。牢屋まではいかないが、詰め所で話を聞かせてもらわないといけない、レベルではあるんだよな。入る前にきいたろ?」
俺のセリフに、俺を諭そうとした男が若干キレかけていた。連れていこうとした衛兵の手を振り払い、武器を抜こうとして、勇者に蹴飛ばされる。
「これ以上罪を重ねるな。ここで実力行使に出たら、それこそ取り返しがつかなくなる」
蹴飛ばされた男は、訳の分からない事を言いながら立ち上がり、勇者に止められた抜剣をしてしまう。それにつれられて、他のメンバーも武器を抜いてこちらに向けてきた。
「店主、すまんが退避してくれ。後でゼニスをここに寄越すから、その時に賠償の話をしてほしい。野次馬してるやつらも、これ以上は危険だから逃げた方がいいぞ。ここから先は怪我をしても保証はないぞ!」
そういうと全員が宿から出て行った。
「……もう止まれないのか?」
「そうだな。お前がもっと早くこいつらを止めてたら、変わってたかもな。恩義があったとはいえ、こんな傲慢な考え方をした奴らを、のさばらせてたんだ。その罪の一端は、お前たちにもあると俺は思う」
「…………」
どんな心境なんだろうな?
「そろそろシュリが来る。一回外に引きずり出すぞ。【チェインバースト】」
パーティーメンバー九人に鎖を繋げて、強引に外に放り投げていく。追いかけて俺たちも外に出る。シュリはよく状況が分かっていないが、飛んできた勇者のパーティーの何人かを、殴り飛ばしていた。ちょっと過激すぎやしませんか?
シュリの攻撃をくらって、四人が戦線離脱。後ろから出てきた二人の勇者の顔が引きつっていた。
「シュリ、こいつらは街の中で武器を抜いた。そこで寝ている奴等みたいに、無力化したい。協力してくれ」
俺がシュリに声をかけている間に、魔術師の女が立ち上がっており、杖を構えて魔法を唱えていた。街中で魔法とか馬鹿なのだろうか?
次の瞬間には動きの速いアリスが、魔導師の女の傍にいてお腹を殴りつけていた。後衛の人間が、超攻撃的なアリスの攻撃をくらって、無事でいられるわけはないわな。
「この距離で、のんびりと魔法を唱えられると思っているの? よくそれでAランクの冒険者になれたわね? それともシングルとAランクには、私が思っている以上に差があるのかしら? 壁があるのは理解していましたが、ここまで能力や技術に差があるのかしら?」
可愛く首をかしげているが、やった事はえげつない。そんな呟きをしていたアリスに向かって、近くにいた二刀流の前衛と弓使いが、攻撃を仕掛けようとしている。弓なのに距離が近すぎる……アリスは流れるような動きで、弓使いに迫り鞘から抜いていない大剣の腹で叩き、十メートル程吹き飛ばす。
後ろから迫っていた二刀流は、アリスに攻撃する寸前に、横からシュリのシールドチャージを受けて、十五メートル程とばされていた。
残る二人はヒーラーと……何だろうな? 楽器を持ってるから、吟遊詩人的なバッファーか? と言っても見逃すわけにはいかないので、ピーチがあまり得意ではない土魔法で、土の塊を高速でぶつけて事態は収拾した。
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