615話 妻たちの怒り
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規格外の侵攻者の技量を見る事になり、かなり厄介な相手だと再認識する。撃った後に軌道の変えられない遠距離攻撃は、物の数ではないと思う。
なら、近距離でボコるか誘導性の高い遠距離攻撃を行うか、位しか方法が思いつかんな。俺も一当てしてみない事には、技量を実感できないわけだからやりますか。
全身に血が巡るように、魔力も同じように巡るイメージをして、肉体活性のスキルに魔力を注ぎ込んでいく。大きく息を吸いさらにイメージを強く、全身に魔力をいきわたらせた。地面を蹴り侵攻者に接近する。
シュリの横を抜け、上段からの切り落とし、雷付与を体内に使い神経を加速し、風付与を体に使いスピードを速め、武器に火付与をして破壊力を増大させる。
その攻撃をしっかり認識していた侵攻者は、危なげなく大剣を持って、片手剣を持っている手の籠手を使い、俺の攻撃を受け止める体制になっている。ちなみに逃げないのは、自分の方が強いと思っているからだろう。
次の瞬間、人間同士の攻防で出るような音ではなく、巨大な物体同士がぶつかった様な音が響き渡る。
「クッ! お前も思ったよりやるじゃねえか! まさか防御したのに、俺の身体にダメージが入るとは思わなかったわ。でもな、男はいらん! 死ね!」
ダメージが入ったと言ってるくせに次の瞬間には、片手剣で俺の大薙刀を横にそらして、流れるような動作で片手剣をしまい、大剣を両手持ちして切り下ろしてきた。
雷付与で神経を加速していなかったら、結構ヤバかったかもしれない。体勢を崩して薙刀を振り下ろした状態の俺は、薙刀を収納の腕輪に収めながら前に出る。
大剣の攻撃範囲の内側に潜り込み、相手の左側面にそのまま回り込む。そして背中側にフック気味のボディーブローを、浸透勁のスキルを発動して殴りこむ。
大剣での攻撃が不発に終わると感じた侵攻者は、大剣から左手を離して腕を横薙ぎにして来た。俺はそれを左手で抑えながら浸透勁を打ち込む。
俺の攻撃の方が早く当たり、鎧越しに肉体にダメージを与える事に成功したが、筋力は向こうが上であり横薙ぎの攻撃を抑えきる事が出来ずに、その場から十メートル程吹き飛ばされた。
「小賢しい、体の芯までえぐられるようなこの攻撃。んっ!? その光、お前回復魔法まで使えるのか? 奴隷にしたら、便利かもしれねえな。俺の近くにはいらんが、あいつにやるのが一番かもな」
さっきまで、キレていた雰囲気が伝わってきていたのに、今は何にも感じなくなり、凪のような状態になっていた。周りを見ると、妻たちの顔から表情が消えていた。その様子を見ると、背筋が冷たくなる感覚にとらわれる。
例えるなら、パンドラの箱を開けてしまったような感じだろうか?
みんなからすごい圧力が感じられるのだが、妻たちの中でもとびぬけた実力を持っている、シュリ・ピーチ・ライム・アリスの四人からの圧力が半端ない。俺は何もしてないのに、悪い事をした気持ちになってしまうのは何故だろう?
「ん? 何か女達の空気が変わったな。このピリピリとした空気は嫌いじゃねえな。強敵と出会った時の、この緊張感。それがこの可愛らしい娘たちから、感じられるなんてな。面白いかかってこい! すべてねじ伏せてやるよ!」
こいつ戦闘狂っぽいな。しかも、手に負えないタイプの戦闘狂だわ。でもさ、今はこいつより妻たちの動向が気になるのだが。侵攻者が移動するまでは、動かないで様子を見ているはずだったのに、その方針を忘れたのか全員が近付いてきているんだよな。
そんなことを考えていると、シュリが侵攻者に向かってチェインを発動して綱引きをしていた。スキルで作った鎖ってかなり頑丈だよな。ステータスに依存して頑丈になったりするのかな? ってそんな事考えてる場合じゃない!
シュリと同等のステータスってことだから、あり得る状況だと思うが、さすがに均衡を保っていると不気味なのだ。
シュリのこの行動はおそらく、他のメンバー、本命に注意がいかないように引き付けているのだろう。その証拠にアリスの魔法剣とライムの魔法の準備、ピーチのバフ魔法の準備が完成しているのだ。
まず先に攻撃をしたのはライムだ。自分の魔力の四割程を一気に消費して放たれた魔法は、身内でトールハンマーと呼ばれている、上空から敵をめがけて雷を落とす魔法だ。
自然にできる雷とは違い、破壊をするために作られた魔法の雷の槍であり、その効果は敵とその周辺三メートル程にたいする、小規模の範囲攻撃である。
それでも侵攻者は反応して見せた。どんな魔法かはわかっていなかった様子だが、大剣を抜き頭上に掲げ、大剣の周りを淡い光がつつみ、それを盾にしてトールハンマーをしのいでいた。
そんな強力な魔法を使った後でも、アリスの行動は遅滞なく侵攻者に向かって進んでいく。アリスの選んだ魔法剣はライムと同じ雷属性の魔法剣だ。
魔法剣は付与と違い、属性の攻撃を行うので剣速や貫通力に影響をしないのだ。純粋に肉体の力だけで、シュリに匹敵する速度で横薙ぎに切りかかっていた。
大剣を上に掲げトールハンマーをしのいでいた侵攻者は、トールハンマーの影響で動きが鈍っていたが、剣を地面に突き刺してアリスの攻撃を受け止めた。
この時、侵攻者には余裕がなかったのか、大剣の周りに光は無かった。アリスの剣は防がれたが、雷の魔法剣は意志を持ったかのように相手に食らいつく。トールハンマーの影響の上に、雷の魔法剣の影響が上乗せされ、侵攻者にダメージを与えている。
俺だったら死ねる攻撃をくらったのに、ダメージを受けた程度でしのいでいるこいつに、驚愕せざるを得ないが、妻たちの攻撃はまだ終わっていないようだ。
ライムとアリスの攻撃の影響を受けており、シュリのチェインのせいで、回避行動がほとんどとれないと判断したのか、魔法と矢による攻撃が侵攻者を襲う。
大剣をふるうだけの余力がないのか、先程しまった片手剣を取り出し、矢だけを打ち落としている。魔法はくらってはいるが、思った以上にダメージになっていない。
魔法より矢の方が、脅威と感じたのだろうか? 大剣が淡く光っている……その時に異常に気付いた俺は、声を張り上げる。
「あいつの大剣の柄にある、魔石のような物の光が強くなってる! 気を付けろ!」
「正解だ。でも今頃気付いても遅い。覚悟しろ!」
侵攻者が大剣を持ち上げ、何かを言いながら振り下ろした。
見るからに純粋な破壊力を持った魔力が、大剣から解き放たれた。
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