588話 本音と建前
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目測でダギアの壁から一キロメートル程離れた場所で、門から続く道の上だ。そこで俺らは野営の準備を始める。
何故道の上に陣取っているのか、疑問に思ったのでレイリーに話を聞くと、
『街攻めでは、道に陣取って補給路を潰すことは大切です。それに後から来る補給隊のためにも、道に陣取るのは重要なのです』
と言い切られてしまった。確かに理にかなっているし、見通しの悪い所では奇襲とかが怖いからいいんだけどね。
でも、商人たちに迷惑をかけるんじゃないかと聞いたら、領主たちの所為なのでこちらは何も悪くないです、だから何の問題も無い。との事だった。
むしろ俺たちがいるとわかっていて来る商人は、商機を見ているからそういう商人からは、買うのもいいと思いますよ、とミリーからの助言があった。たくましい人たちがいたもんだな。
野営地を作成してしばらくすると、馬に乗ってニ十騎程の騎士らしき一団が近付いてきている。
「お前ら!ここがダギアの領地と知っての狼藉か!今すぐ撤収して責任者を出せ!」
「撤収は出来ない! 俺たちは皇帝からのお願いを聞いてここに来ている。ダギアの領地で反乱が企てられているため、近衛兵たちに先駆け、街の制圧をしてほしいとの事だ」
「皇帝の名前を謀るのか! その命を持っても、償いきれるものではない! 後悔する前にこちらの指示に従え!」
「だから、それは出来ない! それに俺は、お前たちが戦争準備して狙っている街の領主だ。皇帝からは俺の街、メギドには手を出すなって、勅命があったはずなのに戦争準備をしているんだから、反乱と思われても仕方がないよな。
ちなみに、皇帝はこの街とラディッシュの街を、帝国から切り離し俺の領に組みこんでくれとの事だ。他の反乱を企てた五つの街は今、近衛兵たちが向かっているらしいぞ。そうだよな」
レイリーが横で俺たちが今使っていない、ニ〇〇型の液晶テレビとスピーカーを準備している。そのテレビに皇帝が映る。
「そうだな。シュウ殿、私の代わりに迷惑をかけるな。このテレビ電話とかいうのはすごいな、こうやって離れた場所の人間と話せたりするんだからな。そこの、ダギアの騎士は……見覚えがあるな。
騎士団長のグルドと申したかな? シュウ殿が言った通り、私が出した勅命を破ろうとしている、ダギアの領主及びその領軍は反乱を企てているので、ここにいるシュウ殿とその兵力によって鎮圧していただく」
自分が目にしている物が信じられないのか、かなり慌てているようだ。
「何故皇帝がこんな場所におられる? それにその面妖な箱何なのだ!? それに皇帝がとらわれているだと? 早くお救いせねば!」
「お前は黙れ! 反乱を企てている人間の言など聞きたくない! シュウ殿よろしく頼む」
そういうと皇帝の姿が消えた。
「というわけで、お前らの街のダギアは、皇帝にお願いされた俺たちが鎮圧するからよろしくな。今回の指揮をとるのは、ここにいるレイリーだからよろしく。はやく戻った方がいいぞ、抵抗するためにせいぜい悪あがきをしてくれ」
どう反応していいか分からないグルドと呼ばれた騎士が、攻めてくる人間の近くにいたくないとでも思ったのだろう、俺たちから離れるために馬を走らせて街へ戻っていった。
「なぁ、レイリー」
「どうなさいましたか?」
「今ので宣戦布告的なあれになったかな?」
「そうですな。そもそも今回は戦争ではないですし、反乱鎮圧と言った建前があるので、本来はそんな事必要ないのですが、建前上こっちの使者をダギアに向かわせるのがいいかと思いますが、街の中での交渉はしない方がいいですね」
「街の中だとまずいか?」
「最悪の場合ですと、殺されてしまう事があるので、今回は門の外で拡声魔法で、街の中に聞こえるように建前を述べればいいと思います」
「そっか、殺される可能性があるなら、街の中に無駄に入らせる必要はないよな。どうする?」
「そうですね。私と副官のニ名を連れて行って、建前を述べてきます」
「怪我しないでくれよ」
「大丈夫でございます。副官のニ名は、攻めより守りの人材なので、大抵のものは防いでくれます」
「一応、ウォーホースに騎乗していってくれ。確か馬の扱いも得意だったよな?」
「ありがとうございます。三頭程お借りさせていただきます。では」
そういうとレイリーは副官のニ人に声をかけ、ダギアの門に向かってウォーホースを走らせていく。門の前に付くとウォーホースから降りて、拡声魔道具『メガホン』を取り出した。そのままダギアの街へ向かって建前を述べる。
要約すれば、皇帝がダギアの街が反乱を起こす準備をしていると判断したため、皇帝からのお願いを受けてこの街の反乱を鎮圧しに来た。と言っている。
それなのに、政治家が使うようなわけ分からない言い回しを使って、レイリーがメガホンを使っているので変な感じだ。そのままいうのじゃダメなのだろうか?
十分位長々と建て前を言っている最中に、矢や魔法といった攻撃がレイリーに向かってされているが、防御型の副官とはよく言ったもんだと感心する腕前だった。
片方の副官が、ウィンドウォールを使い矢と魔法の一部を防ぎ、突破してきた魔法をもう片方の副官が、盾で防いでいる。メガホンの声がウィンドウォールに邪魔されないか心配だったけど、問題ないから使ってるんだろうな。
それに、ダギアの門の上から国会でたまにある、議長が野党の話を聞かずに会議を進める時に、詰め寄ってくる野党議員みたいな感じになっている。 何か例えが悪い気がするけどそんな感じだ。
戻ってくるとレイリーが報告に来る。前に話していた通り、明日の昼頃から攻め始める事を伝えてきたそうだ。
ただ、俺たちが攻めるのは明日の昼からだけど、向こうの人間はどうか分からないので、一応ローテーションを組んで夜番をするべきだと思います。との事だった。
冒険者のみんなや兵士たちは、レイリー以外ダンマスのスキルで相手の位置が、把握できることを知らないので、見張ってもらわないといけないな。俺たちの中からも、最低一人は出しておくべきだろう。冒険者が発見できなかった時の予備のために。
決めた事をレイリーが中隊長に、中隊長が冒険者に、といった形で話が伝わっていく。今日に関しては、明日からの事があるので、必要以上の訓練を行わないように命令が出ている。必要以上に疲れられては、困るので出した指示だ。
俺は準備していたエリクサーを取り出して、中隊長に渡していく。中隊長に五個、冒険者に一個ずついきわたるように渡した。
入れ物は龍の水晶体で作っているので、簡単に壊れるものではないだろう。壊れたとしても服に付着して、それが本人に届くだろうからなんの問題も無いだろう。
何も起きないまま夜を迎えた。
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