561話 馬鹿なガーディアン
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七十六階以降の攻略も順調に進んではいるが、ちょっとした問題も出てきている。単純なのだが、一フロア全部壁をぶち抜いているため、休憩がとりにくいという事だ。いくら結界魔法で防いだといっても、結界の外でガンガンやられていたら、イラっとするのはしょうがないと思うんだよね。
他にも、魔物だけじゃなくて野生の昆虫もいるのだ。どういう原理か物理結界を張っても、小さな虫が素通りしてくるのにはビビった。特に蚊みたいな面倒な奴が、結界をすり抜けてくるから困るのだ……
七十七階で休憩している時に、右足の足首辺りを四ヵ所もさされてしまい、今俺の足首がパンパンに腫れている。ステータスが高くてもスキルが高くても、こういった事には効果がないようだ。回復魔法で治そうと思ったが、効果のある魔法がなく、かゆみと戦っている状態。魔物との戦闘より厄介だ。
どこから生まれてくるか、この大量の昆虫は面倒だな。五十センチメートル程のLv八十前後の昆虫型魔物、本当に面倒すぎる。広域冷却魔法で動きを遅くしているとはいえ、数も多いし魔法の合間に木の上からも襲ってくるし、とにかくいろんな角度からきて鬱陶しい。
上の階より、魔物のLvが下がったけど、数で補強している感じだな。
階段は見つけやすいので助かっているが、魔力と消耗の問題で、一日一階が限界といったところだ。
「ご主人様。このダンジョンって各階で、そこの階に特化した装備に変えれば、攻略簡単だよね? なのに何でここまで攻略できている人が少ないの?」
「冒険者のレベルを考えれば、ここまで来れる人は結構いるはずだけど、暗黒のフロアや溶岩フロア、黒い悪魔のフロアを突破するのにリスクが高いから、深く潜るより安定してある程度安全に、稼げる所で稼ごうとするのが人間の性みたいなもんさ」
「ふ~ん、そうなんだ。下に行けば、稼げるなら多少無理しても進まないのかな?」
「下の状況が分からないから、進まないんだと思うよ。例えばこのフロアだけど、薬草類はそれなりにあるけど、探索していない冒険者からしたら、Lvは低めだけど戦いにくい魔物が多く集まってくるフロアだよ」
「そうなんだ。先に進むより、暗黒トラップの階層を逆走したほうが安定して、稼げるかもしれないって考えるのかな?」
「そうかもしれないけど、暗黒トラップのフロアも稼げるか分からないから、どっちもどっちかな?」
「魔物の数は少ないし、明るければ倒すのに苦労しないよ? それに、フロアの途中に鉱石が取れそうな場所いっぱいあったよ。大体が鉄鉱石だと思うけど、それなりに高い品質だと思うの! それに綾乃おねーちゃんが見せてくれた、黒鋼とかの元になる鉱石もあったよ!」
「黒鋼? 何か聞いた覚えがあるけど、何だっけ?」
「シュウ、黒鋼はミスリルの前位の加工難度になる金属よ。ミスリルより硬いから、私の迷霞の外皮として使ってる。ちなみに内側はミスリルを使ってるね。まぁ他にもいろいろ使ってるけどね」
「というかネル、いつ鉱石が取れる事に気付いたんだ?」
「えっと、シェリルちゃんと手甲を装備した時に、近くの壁を叩いて崩れた石を持って帰ったら、カエデおねーちゃんが、黒鋼の鉱石だよって教えてくれたの!」
「カエデ、鉱石とれる事知ってたのか?」
「いえ、何処でとれたか聞くの忘れてたから、まさかあのフロアでとった鉱石だったとはね。そういうことなら、七十五階まで来れる人の数を増やしたら、黒鋼の装備が出回りやすくなるかな?」
「始めはとれる量が少ないだろうからいいけど、時間が経てば経つほど中級クラスの人たちの装備がよくなってくよな、そうすると周りの国との戦力差がひらくか。
ドーンボーンが今の所、外に興味がないとは言っても、それがずっと続くとも限らないし……って俺は、なんでほかの国の事をこんなに真剣に考えてるんだ? 俺の領域を犯さないなら、どうなってもいいんだから考えるのは止め! さぁ進もう!」
八十階まで、特に代わり映えのしない道中だったのでスルーする……スルーする……言ってて自己嫌悪に陥ってしまった。一応道中には貴重な薬草があったのを確認しているので、ここまで来れる冒険者が増えれば、ポーションの質が高くなるだろうな。
八十階にいたガーディアンは面白かった。面白かったというより苦笑? というべきかな。二十匹の二メートルくらいある芋虫がいて、動きが遅かったので何をするのか見守っていたら、急に糸を吐き出したのだ……自分に向かって。
M気のある魔物だろうかと思ったが、芋虫は繭を作って蛹になるのだから、実はおかしい行動でないと後で気付いた。
で、繭になってしまった芋虫たちはもちろん無防備。そもそも何でガーディアンが、完全変態するタイプの魔物なのか疑問をぶつけたい。
何で繭になったのか分からないじゃん! 変身するのを待つのも面倒だったので、のんびりと繭になった芋虫たちにとどめをさそうと思い、一つの繭を切り付けると、中から液体が噴き出してきた……のでとっさに避けてしまった。
「そっか芋虫とかって、繭の中で一回液体になるんだっけ? その液体が成体の形になるとか……確か、完全変態とかいうんだっけ? まぁいいや。で、この液体が気になるのか? アリス」
「そうですね、確かポーション等の魔法薬でも、上位の物に使う……確かBランクとかAランクに使うものだったかと。エリクサーでも、Dランクとかで使うと品質が良くなるとか、聞いた覚えがありますね」
「……何で作った事も無い魔法薬の素材を知ってるんだ?」
「ご主人様、DPで召喚できる物の中にレシピ集もあるって、前に教えてくれたじゃないですか。それをスカーレットさんに出してもらったんですよ」
「そんなこともあったな。現物見たことないのによくわかったね。レシピ集に細かい注釈でもあった?」
「よっと、そうですね。レシピ集には芋虫の形状から、成体へ変態する際に液状化するので、それを採取した物を加工すると、生命の泉という素材になって、それが魔法薬の素材になると書いてありますね」
「確かに条件に当てはまるな。一応他の繭からは採取しておこうか?」
「何に使えるか分からないですが、あって損するような物でもないので採取してしまいましょう」
巨大な繭の下に樽を置いて、繭の下から剣を突き立てて液体を樽に流し込んだ。半分程処理した時に気付いたのだが、俺の感覚では繭の状態で魔物を倒しているのに、ドロップ品にならない事を不思議に思って、近くにいたミリーに聞いてみると、
「そういえば、芋虫系から繭になる魔物は確か、繭の状態ではドロップ品を落とさなかったと思います。液体になっている時は、魔石も一緒に液体になる……みたいな話だったかと」
「魔石の力のこもった液体か、体に悪くないのだろうか? 魔力の塊だからポーションに使えるってことかな?」
という事で、最後の一体は羽化させて、ドロップ品のカードを回収した。ついでに繭も残ってしまったので回収して糸にでもしようかという話になった。
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