515話 ドッペルって便利!
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この世界は、男性と女性の出生率は六対四位の割合だそうだ。それでも二十五歳を過ぎる頃には、男六人に対して女が七から八人になるそうだ。男性の方が危険な仕事につき、死ぬ確率が高い。魔物の住む世界ならなおさらである。
そのため、シングルマザーが多く生活が苦しい家庭が多く存在している。働きたくても子供を一人にしておけない。できるだけたくさん稼ぎたいから、多少危険な仕事でもこなそうとして、怪我をしたり亡くなったりしてしまうケースが多く、食べる物に困る子供が増え、盗みをしてしまうケースも少なくない。
他にも娼婦のように自分の身を売って病気にかかったり、ガラの悪い人たちに捕まりもてあそばれてから、捨てられるといった事も多くあるそうだ。
どこの街にもスラムはあるが、あそこは自分で失敗したり黒い部分があったりと、基本的には自業自得の人間が多く存在するが、中には食べ物に困った子どもたちが盗みを働いて、逃げる先にもなっていたりするのだ。
子供たちは何も悪くないのに、そういう生活をしないといけなくなってしまっている状況を、できるだけ改善できればと思って、シングルマザーが安心して稼げ子供を育てられる場所があれば、治安がもっと良くなるかな? と考えたのだ。
ゼニスと初めに話した時はそこまで深く考えずに、生活に困っているシングルマザーに救済の手を差し伸べれば、と思っていただけだ。
ゼニスが勅命だ! とか言って騒いだ次の日に色々情報を聞いて、今回の孤児院の計画は商会をあげての、一大企画みたいな感じになってしまっている。前日の話でも大概だったが、そこからさらに話が大きくなった。
「シュウ様、この件は早急に進めさせていただきます。ここグレッグでは、昨日のうちに土地の確保ができていますので、早急にドワーフの手配をしていただければと思います。他にもジャルジャンとミューズでも二、三日中には土地が確保できます。
ヴローツマインですが、リンド様が長をやっている頃から、そういった面に力を入れていることもあり、さらには長寿の種族なので付き合いが長く、街全体で子供を育てる空気があるそうです。孤児の少ないヴローツマインでは、孤児院を作っていません。
少ないだけでいる事はいますので、その子たちは保護してからグレッグに来てもらおうと思っています。商会の本店の近くであれば、いざという時にも対処しやすいので」
ゼニスは知識はあるが、手段的行動を考えるのが苦手なようで簡単に道を示すだけで、俺より有用に動けるんだから恐ろしい……俺の手間が省けるならいい事には違いない!
「ゼニスに任せて平気そうだな! 最後にもう一度忠告しておくけど、店の金は使うなよ? 足りなかったら、まず俺に連絡を入れるように! 各街に俺の資金を送り出したから、そこから使うように話しておいてくれよ! 店の金は店のために使ってくれ、特に従業員に対する福利厚生に関しては力を入れてほしい」
商人であるゼニスだが、敬礼をさせたら兵士に見える位鍛え上げられている体をしている。そのゼニスが敬礼をしているんだからどこの軍隊だよ? って思ってしまった。
この世界には労働基準監督署なんてないから、自分たちでしっかり注意しておかないと、ブラック企業も真っ青になるくらいの労働条件になるから気を付けないとな。
これで今日グレッグでやる事は終わったな。今度はどこに行こうかな、ジャルジャンにでも久々にいってみようかな? 意識を自分の身体に戻してから、ジャルジャンにいるドッペルへ意識を憑依させる。
「こっちは……ライラ、キリエ、ソフィーか。やっぱり各組から一人ずつか? ついてきてくれ。フェピーに話をしにいこうか。一応俺の事どういう存在かわかっているはずだしな」
俺の声に反応して。待機していた妻ドッペルたちが動き出す。商会の人間を使ってフェピーに先触れを出しておく。ジャルジャンを一時間程散歩しながら、フェピーの住んでいる屋敷に向かっていく。
ジャルジャンは最初に来た時から、あまり変わっていないな。違うか、変わってても目に見える程、大きな変化がないというべきか。街の大きさは決まってるけど、建築技術と素材の関係で、縦に高くすることが難しいのだ。
石材で建てればある程度大きく作れるのだが、石材で家などを建てるためには、かなりの資金が必要になり、貴族でも本当にお金を持っていないと、そこまでの物は建てられないとの事だ。
俺は建築に詳しくないけど、ドワーフたちなら普通に高い建物を建てる技術があるんだから、何とかなるのでは? と思っていたが、ドワーフと人間の技術がかなり差があるらしい。数年でどうにかなるものではないとの事だ。長く生きるドワーフならではか?
そうなるとカエデはどうなんだろう? と思ったがあれは特殊な事例らしい。
ブラブラしていると時間になったので、フェピーの屋敷へ向かった。
「シュウ、突然来るのはやめて頂きたい。私にも都合というものがあるのだ、時間を空けるのがどれだけ大変か分かってくれるよね?」
「そうなの? 帰って出直すよ」
「えっ!? ちょっと待って! もう時間を空けたんだから、話していってもらわないと困るよ! 頑張って時間を空けたんだからさ!」
「え~、だってフェピーってさ、時間があればしょっちゅう連絡してくるじゃん。どれだけ暇してるのかと思ったのに、こういう時ばっか忙しいアピールなのかな? って思ってさ」
「時間が空いたから、連絡しているだけだよ!」
「それはそれで迷惑なんだが……今日は本当に突然で悪かったと思うけど、ちょっと込み入った話があるから、人を遠ざけてもらっていいか? できれば一対一で話したい」
「ふむ、分かった。呼ぶまで誰も入れるなよ」
フェピーが指示を出すと、待機していた者たちが全員外へ出て行った。もちろん俺の妻のドッペルもだ。
「人払いはしたが、どういった内容の話なのかな?」
「うすうす気付いてると思うけど、俺ってダンジョンマスターなんだわ。それでドッペルゲンガーという魔物を俺が操作できることが分かって、自分の身の安全は確保できるから、信用できる人間には教えておこうと思ってな」
「やっぱりそうでしたか。魔法だけで死の森と言われる樹海に街を作れるとは思いますが、さすがに魔法だけでやるのには限界がありますし、何よりシュウの奥方たちの能力が、あそこまで高い人たちが集まるのが不思議でしたからね。
シュウがダンジョンマスターだからと言っても、奥方たちが強いのは関係ない気がするけど……まぁいい、シュウはシュウなんだからこれからもよろしくお願いするよ」
「やっぱり気付いてたか。一番先に寄った街の長だけあるな。樹海を進んで近くにダンジョンがあったから、街を作った的な感じで噂を広げたけど、フェピーは騙されんかったか。でもな、あの街を作ったのは本当に俺たちの魔法でだからな」
この後、一時間程話をして王国の情報をもらってから、後でお土産の和紙を大量に届けておくようにグリエルにお願いした。
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