2507話 誰だよお前
アクセスありがとうございます。
膨れ上がったように見えた狛犬の体を見て俺は、とっさに両腕をクロスして防御態勢をとっていた。
人間って驚くと、自分を守ろうとするため、その行動はなんらおかしなものでは無かった。
俺がたまに使う、フラッシュバンスタングレネードを使われた場合、備えがない人間だと、体を丸めて耳を押さえるような体勢になるらしい。それを利用して、安全に犯人を取り押さえたりするのだが、巻き込まれた人質は大変だろうな……
両腕をクロスした次の瞬間に、衝撃が走る。
顔を腕が覆っているので、何が起きているか分からないが、体が吹っ飛ばされたのが分かる。
地面を確認し着地してから、狛犬を見る。
俺の目の前に狛犬がいて、S級スケルトンたちを無視してこちらに来たのだろう。大薙刀を握りなおし、顔を切りつけ離れる。
俺は、とんでもない物を見つけてしまう。
今俺の目の前にいる狛犬は、俺が脇腹を切りつけた狛犬ではなく、新たに現れた狛犬だったのだ。俺と対峙しているのと、S級スケルトンに囲まれているので、2匹の狛犬がいるようだ……いつ増えたんだよ……
良く分からんが、2体の狛犬の相手をしないといけないようだ。
S級スケルトンで狛犬を倒せるなら俺が耐えていればいいのだが、倒せないのであれば俺がこいつを倒して向こうも倒さなきゃいけなくなる。
バザールは、自分の体なら骨の状態でも話せるのだが、S級スケルトンを操って話すことは出来ない。なので、俺の声が聞こえていても、言葉で返すことができないんだよな……となれば、
「バザール、聞こえていたら1体こっちに寄こしてくれ」
俺の声は間違いなく聞こえているようで、1体だけ俺の方へ移動してきた。
「俺が言う質問にイエスかノーで答えてくれ。右手がイエスで、左手がノーな。回答不能だったら両手をあげてくれ、分かったか?」
バザールが右手を上げる。
「向こうの狛犬は、S級スケルトンだけで倒せそうか?」⇒右手
「時間がかかりそうか?」⇒右手
質問している間も狛犬の攻撃が止むことなく、受け流したり回避しながら質問を続ける。
「倒さなくてもいいから、3匹なら死なずに対応し続けられるか?」⇒右手
「了解した。じゃぁ、3体でこっちの相手をしてくれ。脇腹を切りつけた方を先に倒す。向こうは指示出すから、それに合わせて動かしてくれ」⇒右手
回避に専念していると、S級スケルトン3匹が2体目の俺が顔を切りつけた場所を、執拗に攻撃してヘイトを稼いでくれている。
30秒もしないうちに俺へのヘイトが無くなり、2体目の狛犬の意識が3体のS級スケルトンに向いた。
俺は迂回するように移動して、武器を持ち替えた。片手斧と盾を持ち、俺がタンクをすることで、S級スケルトン2匹に攻撃を任せる形だ。
俺が隙をついて攻撃するにも、警戒が強すぎて時間がかかると思ったので、俺がタンクで引き付けている間にダメージを稼いでもらう。
俺が持った片手斧は、片方が斧の刃になっており、その反対側はツルハシのように尖った形状をしているタイプのものだ。攻撃回数は稼げないだろうから、1回を重くしようと思い片手斧を選んでいる。大きい相手なら技術もいらないので、ちょうどいい武器だ。
1体目の狛犬へ近付き、チェインを発動する。俺の両手から伸びる魔法の鎖は、狛犬に絡みつき強引にこちらへ意識を向けさせることに成功する。
忌々しそうにこちらを見て吠えているが、2体目の狛犬に比べれば、少し動きに繊細さが足りないな。脇腹を怪我しているからだろう。ケルベロスだったら、アンデッドだったので痛みで動きが変わることはなかったのにな。
そんなことを思いながらも、手加減などすることなく力技でこちらに釘付けにする。
離れるように動き引き摺ろうとするが、俺は片手斧の尖っている方をチェインの隙間に打ち込んでダンジョンに固定する。足で踏ん張るよりこっちの方が効果的なんだよな。
これ以上離れられなくなり、狛犬がガクンと体勢を崩すとS級スケルトンがすかさず、傷付いた脇腹を攻撃する。とにかく一点突破で攻撃をするように指示を出しているので、防御は俺にまかせて、アダマンタイトの棒で叩いたり突き刺したりしてくれている。
よしよし、ダメージは稼げているな。2体目の意識もこっちに向いていないから、まだまだ攻め時かな。
チェインを固定している片手斧をとる前に、アダマンタイトの棒を取り出して片手斧の代わりに地面へ打ち込んでおく。
その状態でさらにチェインを発動して、力技で近くへ引き寄せる。
狛犬が初めは抵抗していたのだが、急に力を抜いてこちらへ走って向かってきた。
倒れそうになったがバク転をして体勢を立て直し、向かってくる狛犬を迎え撃つ。
手による引っ掻きというか、肉球パンチというか……どっちか分からないが、俺がそう思うような攻撃をしてきた。
盾を地面に突き刺し、左肩を盾の内側に押し当て耐える姿勢を作る。右手に持っていた片手斧は、タイミングよく叩き込む予定だ。力が上手く入らなくても、狛犬の速度と重量で多少ダメージを与えられるだろう。
猫パンチによる衝撃は予想以上だったが耐えることに成功し、カウンターで放った斧は手首に当たったようだ。血が流れているのを確認できた。
距離をとろうとするが、俺は追いかける。1本目のチェインに固定されて、俺を振り切れなかった狛犬に切りつけた。鼻が半分ほど削げ落ちて悲鳴をあげている。
S級スケルトンがその隙をついて、先程血を流した手首にアダマンタイトの棒を2本差し込んだ。
これが決定的となり、動きの遅くなった狛犬は、俺たちの攻撃を避けられなくなり、全身が傷だらけになり息絶えてドロップ品が現れる。
2匹目の狛犬に目を向けると、防御に専念していたであろうS級スケルトンの腕が、片方無くなっており追撃を受けている最中だった。
他のS級スケルトンの攻撃を無視して、腕を失ったS級スケルトンを執拗に攻撃している。
武器を弓に持ち替えて、攻撃に集中している時……特に止めを刺そうとしている時は、最大の隙になりやすい。しかも狙われているのが自分でなく、第三者であるなら狙うのも簡単である。
かつての顔見知りから貰った、シューティングスターを構えて、一番重い矢をつがえて解き放つ。
俺が狙ったのは、狛犬の首と頭の付け根付近だ。多少前後にズレてもそれなりのダメージを期待できるベストな位置だ。
S級スケルトンは狛犬の攻撃で吹き飛ばされるが、俺の矢も狙いを違わず首と頭の付け根に深く突き刺さる。
これで絶命するほど弱い狛犬ではないが、刺さり方が良かったのか、首を動かせなくなっていた。
これが致命的な一手となり、ほどなくしてドロップ品に変わった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




