2291話 延長戦Part5
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俺が地面を這うように、すれすれを移動しながらサーシャに近付いたとき、ネルは何とか体を起こそうと、痛めた右腕をかばいながら体を半回転させうつ伏せになっていた。
あそこから体を起こして右腕を回復させなければ、攻撃に参加することはできないだろう。まだ少し猶予があるはずだ。
サーシャは迎えウトウトしていたが、自分より大きな俺が地面すれすれを移動してきたため、少し驚いた表情をしている。
この移動というか、攻撃の仕方はみんなの前でも見せたことあるけど、実際に目の前でやられると驚くような物なのかな? 年少組の妻たちからすれば、低い位置からの攻撃はあまりないから、驚いても不思議じゃないのかもしれない。
子どもたちの相手をしていれば、下からの攻撃に慣れているかと思うが、それは相手が小さいから当たり前の感覚であり、俺みたいに自分よりおおきな相手と戦っている時に、下から攻撃されるのはなかなかない経験だよな。
ここで短剣や片手剣であれば、動きを止める意味で足に攻撃を集めるところだが、無手では効果が薄いな。投げるために掴むにしても、手痛い反撃を受けるだけになりそうなので、左下から上に突き刺さるような攻撃で体勢を崩せれば十分だろう。
お腹付近を殴るつもりで斜め下から突き上げるように拳を伸ばす。
サーシャは、それを避けずにガードすることで、俺の攻撃を受けた。
これはチャンスなのでは? ネルを守るためにその場に留まったのに、俺の攻撃で下がるってことは無いよな。となれば、攻撃を受けて守りに徹しながら、ネルの復帰待ちってことだな。
体勢を崩すことを考えて、早くて軽い攻撃をしていたが、次の一撃は少し遅くても重めのを入れれば、体勢が崩せる!
少し踏み込んでからもう一度、右から突き上げる重い利き手の攻撃を仕掛ける。
サーシャは、この攻撃もガードする……と思ったが、俺はこの時駆け引きに負けていたことに気付いた。
先ほどより重いが遅い攻撃を狙っていたかのように、俺のお腹を狙っていた拳を半回転することで避け、右腕を脇に挟み手首を掴んで、そのままさらに回転することで俺を投げようとしていたのだ。
重心は低い位置にあるが、無理な体勢をしているので、投げをおさえられずに払い巻き込みのような投げ技を受けることになってしまった。
咄嗟だったが受け身を取ることには成功し、投げ技によるダメージはほぼなし。体を強化しておいてよかった……だけど、状況が好転したわけではない。
俺だって投げた後に追撃をしていたのだから、サーシャがしてこないわけがない。
気付いたときには、サーシャの足の裏が顔面に迫ってきていた。俺は寸止めで撃破判定を取るが、妻たちは俺に対してそんなことはしないので、避けずにいれば確実に顔を踏みつけられることになる。
でも、右腕を掴まれたままでは回転して避けることもできない。俺も追撃を避けさせないために腕を掴んでいたから人の事は言えないが、その攻撃の仕方はエグイって!
慌てて左手で強引にサーシャの顔面へのスタンプ攻撃をそらして、右足で地面を蹴り足を思いっきりあげて、サーシャの首を刈り取るような体勢になり、対応できなかったサーシャは俺の右足に刈り取られながら地面にたたきつけられる。
ここで寝技にでも持ち込みたいのだが、寝技で一瞬で落とす技がないから、1対2の時には使えないんだよな。地球でなら、骨を折る・関節を外すなど、致命傷になる攻撃はあるが、俺と妻たちとの模擬戦では、それは致命傷じゃないため、戦闘が終わらないんだよね。
回復魔法がある世界では、模擬戦も実践にかなり近い状態になるから、ヒリヒリとした緊張感があるが、とことんまで戦うことになるから厄介でもある。
すぐに掴まれている右腕を何とか振り払い、サーシャから距離を取る。
サーシャにもほとんどダメージは無く、ネルも体を起こしており、既に回復が終わっている様子だった。
ったく、ネルの腕をかばっている動きすらフェイクだったとはな。多分だけど、打ち合わせとかしたわけではなく、お互いが俺に隙を作ろうと動いた結果噛み合ったんだと思う。それを連携の拙さだと思い突っ込んで、まんまとやられた感じだ。
本気でやっていたつもりなんだけどな……
やっぱり柔道……柔術にこだわっていると、攻撃の選択肢が狭まって良くないな。色々できることがあるのに無理やり選択肢を減らすと、選択肢を減らすという工程にも時間がほんの少し、時間がとられてしまうため遅れてしまう気がする。
柔道の投げとは違うが、合気道の敵の力を利用して隙が少ない状態で飛ばす技だって、使えないことは無い。
さらにギアをあげていこうか……
体勢が整ったネルとサーシャは、始めと同じような展開で左右から攻撃を仕掛けてくる。
20秒ほどガードをしてから、相手の呼吸を見極めて、サーシャの攻撃に合わせ大きく移動する。ネルと密着する形になりながら、サーシャの手首を掴み自分の方へ引き込みながら手首を回す。
勢いを殺さずにサーシャの体勢を崩し手首を回したことで、サーシャの体は周りからみると自分から投げられたように、体が宙に浮いただろう。
原理は良く分かっていないが、こうすれば行けるという確信があったので、合気道の何かしらの技術を使ったのだと思う。スキルによる恩恵と知識なので、正確に何を使ったかまでは俺には分からない。
体を密着されたネルは、遠慮なく俺の脇腹を殴りにきたが、俺はさらに踏み込んでネルを押し倒すような体勢になる。
ネルの攻撃は踏ん張りがきかず、俺に与えられたダメージはあまりない。
そのまま首に肘を当て、撃破判定。
ネルは攻撃をかわすことができない状況だったため、そう判定する。実際に敵だったら、首の骨を折ることはできるような体勢だったからな。
体勢を立て直したサーシャが俺の方へ向かってくるが、距離をとるようにジャンプをし、サーシャから離れることに成功する。
サーシャは動かないネルを見て、撃破されたと理解したのか、悔しそうな表情だ。
サーシャからすれば意味も分からない形で投げらて、コンビのネルが落とされたのだから悔しさもあるだろう。
そこからは、俺が優勢になり、最後は、サーシャの無茶な攻撃に合わせて顔面を掴み、両足を後ろから払うようにして地面に頭を叩きつける前に手を緩めて、強打しないように畳へ寝かせることで模擬戦が終わった。
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