2283話 今日の仕上げ
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元々柔術は、対応を覚えるために体験して学んでいたシェリルたち。その3人からすれば、必然だったかもしれない。俺が見せた捕縛術は、シェリルたちの関心を一気に引き付けた。
縄というか鞭を扱って、自分たちを完封したスキルが気になって仕方がないらしい。こうなったら梃子でも動かないことは、みんなも知っている。そして驚いたのはシェリルたちだけでなく、たまたま訓練を見ていたシンラたちまで興味を持ったことだ。
別に興味があるだけならいいのだが、どこから取り出したか分からない紐を適当に振って、3人で遊んでいる姿は、正直言って不安しかない。紐だって一歩間違えれば、簡単に人の命を奪うことができる道具だからな。
スライムたちをちらりと見て、危ない事をしたら止めるんだぞ! と、念を送った。知らん顔をしていたが、その後にシルキーたちに報告しておくと念を送ると、慌てたように動き出し、触手を敬礼のように使ってこっちに返事をしてきた。
最初からその姿を見せろって言うんだよ。
とはいえ今回使った捕縛術は、鞭スキルを知識と技術を応用して使ってるため、シェリルたちの関心は鞭スキルにも向いているようだ。
なんかの本に書いてあったが本当の鞭使いは、当てる一瞬だけだが音速を超える鞭で攻撃することが可能なんだとか。
鞭が音速を超えると言われているのは、鞭が伸びきる前に引くことによって、一瞬だけ音速を超える。それを武器として扱ってもいいが、この世界ではその使い方はあまり通用しないだろう。
相手も自分も動いている中で、ピンポイントで攻撃力が最大値の所で攻撃を当てられるとは限らない。それに音速を超える速度を一瞬出せるだけであって、鞭自体の攻撃はこの世界の剣より早くないのだ。
利点をあげるとすれば、離れた距離で戦えるくらいだろう。それなら槍でも十分なのでマイナーである鞭である理由は無い。
ただ鞭として扱うならその程度でも、武器として扱うのならその程度でも、捕縛術を応用すると化けるということが分かった。鞭スキルには、元々巻き付けたりして相手の攻撃を阻害するような攻撃方法があり、それが捕縛術と合わさると、今回のようなことになるようだ。
魔力で少しはミスリル合金製の縄を動かせるから出来る技術だろうが、有用であることには変わりがない。
鞭の特性か、攻撃する瞬間以外の平均速度は大して早くないから、俺がやるとこういう使い方になってしまうんだろうな。
それを聞いても、シェリルたちは興味が尽きないようで、自分たちも学ぶと言って、柔術から離れて鞭スキルを覚えることにしたようだ……ブラウニーたち、スキルを覚えてあの子たちに教えて見てくれ。特例ではあるだろうが、貴重なサンプルになるだろうしよろしく。
良く分かっていないだろうが、シンラたちはシェリルたちを追いかけて走っていった。
…………
どう考えても、シンラがプラムとシオンに、縄とか鞭で捕まる未来しか見えん。
シンラも一緒になってやってるんだから、対抗策でも考えられるようになるかね? 2対1では勝ち目がなさそうだよな。まぁ、シンラよ、気長に頑張るんだぞ。
ミーシャたちも気はありそうだが、先に柔道をある程度身につけることに目標を定めたようで、鞭スキルの方へ行かなかったシェリルたち以外が相手をしている。
シェリルたちがいなくなったので、手が空いた俺はミーシャたちの訓練の様子をながめる。
テレビで見たことのある柔道の訓練ではないが、投げ技について色々と気付き始めているような感じだな。
柔道選手なんかは、投げ技の基本を型に落とし込んで、無意識でもできるようにして応用する。応用するために、色々な型を更に身に着けていく。そして駆け引きなんかも覚え、防ぎ方も学んで強くなっていく。
だけど、ミーシャたちは柔道で強くなろうとはしていない。そもそも、彼女たちが目指している冒険者は、対人戦より対魔物との戦いの方が圧倒的に多い。人型の魔物もいるが、体のサイズが違う上に耐久力なども違ってくる。
そもそもミーシャたちは、俺との戦いに勝ちたいから、柔術の投げ技への対処法を学びたいだけなのだ。
子どもたちに向かってできない攻撃も多いが、可能な限りの対処はできるようになってもらいたいと思っている。
投げ技1つとっても、子どもたちを背中から落としているが、殺すつもりでやるなら頭から地面に落とせば、それだけで致命傷になることだって多い。他にも、投げ技ではないが、致命傷になる攻撃だってそれなりに存在している。
対処できるようになってほしいが、それを子どもたちに向かって使うことは無い。
もっと大きくなって、この子たちが冒険者として外の世界に行くなら、その時はこういった危険な攻撃があることを教えようとは考えている。最悪、死刑囚なんかを使って実演を見せることも考え始めている。
1日違うだけで体の動きが違うもんだな。ダンジョンの特性とスキルというブラックボックスがあるおかげで、地球では考えられないような速度で技術が身につくんだろうな。
今日の訓練が後30分で終わりそうになったところで、今日の確認の意味を込めてか、ミーシャたちが俺と戦いたいと言い始めた。俺はかまわないし、何より暇していたのでちょうどいい。
実戦形式に近い形での模擬戦となる。
投げ技に対応するために覚えた技術が、どこまで通用するかね。期待の意味もあり、ちょっとワクワクしている。子どもって突拍子の無い発想をすることもあるし、投げ技に対応できるなら、あの子たちに有利になるだろう。
自分をどこまで追い詰めることができるのか、正直期待している部分もある。親バカと言われようが構わないが、俺がこちらに来た時に比べれば、圧倒的に体の動かし方を知っているからな。技術という面でも圧倒的にこの子たちが上だ。
成長する子どもたちを見るのは、俺も嬉しい。
さあ、どんな戦い方をしてくれるのかな?
俺は体をほぐしながら、子どもたちの作戦会議をながめる。用意された武器は、全部木製ではあるが、重量はメインに使っている物と同じ重さになっている。
そこらへんの冒険者なら、骨折をするかもしれないが、俺なら受け止めたとしても打撲で済むだろう。そう言った事情もあるから、全力で攻撃をしてくるだろうな。
シェリルたちみたいに、捕縛術を使うほど本気になる必要性は感じられないが、子どもたちのオーダーで、捕縛術も使った俺と模擬戦をしたいと言われたので、ミスリル合金製の縄を取り出して、魔力の通りを確認していく。
本当に器用に動かせるから不思議だよな。魔力操作の応用で、伝導率の良い素材は本当に器用に動かせるから不思議である。
細かく動かすのは1本しか無理だが、大まかに動かすだけでいいなら3本くらいまではいけるな。現実的に使えそうなのは、やはり1本だろう。2本を動かすことになると、体の方が疎かになってしまうので、シェリルたちと戦った時の感じが一番ベストだったのかもな。
それにしても、予想外の収入だな。
捕縛術というか、鞭のスキルがここまで有用だとは思ってもみなかった。巻き付かせるのは難しいのだが、魔力で補助するだけで簡単に巻き付かせることができる。それだけではなく、解けにくくも簡単に解くこともできる。
遺跡発掘? 遺跡探検? 家も真っ青な技術だろう。
縄の動きを確認していると、子どもたちの作戦会議が終わり、武器も装備そしてヤル気満々の顔をしているな。
どういった作戦を練ったのか……見せてもらおうじゃないか。
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