2166話 訓練Part8
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「魔法の撃ち合いでは、人数差でこちらのキャパシティーが先に限界を迎えるではずです。今までは相手の有利な土俵でしたが、今度はこちらの有利な土俵へ引きずり込みましょう。おそらく、防衛陣地の前までトラップがあると思いますので、真正面から突破して乱戦に持ち込みます。
チームを細かく分けると各個撃破の危険性がありますので、タンクは守り中心で前衛が中衛は遊撃で盾の間を移動で敵へ攻撃、魔法はライムに一任します。効果的な方法を検討して、指示を出してください。タンクの負担を減らすために、適宜壁も作ってください」
口早に指示を出し、自分とキリエ、ネルには、回復中心でバフや防御魔法を使っていくように、最後に指示を出している。
妥当な判断だろう。ただ、俺への指示がないのだが……ポジション的には、前衛だから遊撃にはいるのかな? そんなことを考えていると、俺の近くに寄ってきたピーチが、
「シュウ様が突っ込むと、相手が不利になりすぎるので、魔法で援護と回復に回ってください」
俺の遊撃は無くなり、援護と回復に回るようにお願いされる。妻たちも頷いているので、妥当な判断だと思っているのだろう。レベルを下げたといっても改造した肉体なので、同レベルの兵士がいても相手にならないんだよな。
そう考えると、俺が敵に突っ込むのは、バランスブレイカーなのだろう。ただでさえこちらが有利なのだ。そんな事をせずとも勝算はあるので、こちらに有利すぎないように調整するみたいだな。
「シュウ様、トラップの撤去お願いしますね。全員、前進!」
おっと、トラップの撤去をいきなり頼まれてしまった。煙幕の中にいたときは、200メートルほどで区切っていたが、この距離1回だけなら……一気にやってしまおう。
魔力を一気に練り上げ、ある程度の幅をイメージして、強く踏み込む。強く踏み込む必要はなかったのだが、イメージが伝わりやすい気がするので、何となくだ。
踏み込んだ足から一気に魔力が流れ、敵防衛陣地の前まで土が柔らかくなるのが目に見えてわかった。
ただ、次の瞬間に地面がしっかりと舗装されたように、綺麗になった。
「ピーチ、ここには地雷系の魔道具は無いと思う。その代わり違う魔道具がある可能性が高い。もう少し深いところまで、干渉してみるか?」
数秒悩んで、
「出だしから作戦を変えるのは不本意ですが、土木組の皆さん、全員で協力して地面を割ってもらっていいですか? 地割れのようにして、大きいのを1つお願いします。残りの魔法組は、割れた後に私たちが移動する間だけもてばいい、通路をお願いします。ライム、頼みましたよ」
どんな魔導具か判断する時間が惜しいので、地面を割って無効化にする力技をするようだ。時間をかけるとこちらの士気は、下がってしまうという想定だな。俺たちなら下がらないが、想定している敵たちはかなりストレスが溜まっているうえに、出鼻をくじかれる形だから、時間は命取りになる可能性もある。
そう考えると、力技になっても仕方がないだろう。実際に俺が考えていた深くまで干渉するというのも、俺一人で起こせる地割れを作ってから、魔道具を物理的に破壊して、元に戻すというものだった。
同じやり方ではあるが、方法が違った。俺の場合は、移動できる幅が極端に狭くなってしまうので、駆け抜けるならピーチの指示の方が圧倒的に使いやすい。それだけ人数を割くわけなので、使いやすいのは当たり前だが、大人数で使うことで負担を軽減する狙いもあった。
ライムの指示で、土木組が地面を割った。その際にかなり強い地震が局地的に起こり、敵の遊撃部隊は馬が興奮してしまい制御が難しくなっているように見える。
続けてライムの指示で、魔法組が簡易的な地面を作り出した。俺は後から補強するイメージで、魔法組が置いた石の板の下にアーチを作り、重さで割れにくくした。
こんなことをしなくても、タダ移動するだけなら問題ないと思うが、敵からの攻撃がとんできている以上、移動している地面が壊れないとも限らないので、適切な処置だと思っている。
500メートルを駆け抜けると、俺たちが訓練の相手だと理解しているような声が聞こえる。そして、
『お前ら、気を引き締めろ! 領主様がいるからといって、訓練だと思うなよ。そんな事考えていると、本気で地獄を見る破目になるぞ! しっかりと指示に従って、行動しろ。数はこちらの方が多い、部隊を3つに分け波状攻撃で、敵の体力を削れ! 根性を見せろよ!』
この防衛陣地の指揮官であろう人物の声が聞こえてきた。波状攻撃を仕掛けると言っているな。間違っていないし、混戦になると体力の問題さえなければ、こちらが有利なのは理解しているみたいだな。
敵にバレる指示の出し方もどうかと思うが、俺たちなら軍の指示の出し方も理解しているので、どのみちバレてしまうのだ。それなら分かりやすくプレッシャーもかけるという意味で、攻め方を伝えるのは悪くない選択かもしれない。
数の関係で、俺たちは交代ができないので、とにかく削り切るしか方法がないんだよね。
駐屯地を攻撃するだけが条件なら、こんな真正面から戦う事なんてしないけど、レイリーからのオーダーで、部隊との戦闘もお願いされているので、白昼堂々と攻め込んでいるわけで……
一気に数を減らしていきたいところではある。
シュリが先頭で両側にタンクのメンバーがついて、一気に敵陣に切り込んでいく。周囲を囲まれる形になるが、敵は魔法や弓が使いにくくなり、一度に攻撃できる人の手が減っている。こちらは、見渡す限り的なので、どちらへ攻撃しても当たる状態だ。
俺はライムの近くへ行き、提案をする。
「ライム、ある程度敵を減らすために、津波を起こすのはどうかな?」
陸地で皮もないところで津波? と本来なら思う所だが、俺たちになら津波を起こすことができる。それでも規模は限られているので、ダメージを与えるというよりは、押し流してこちらに有利な状態に持ち込んで、対応に手間取っている敵を攻撃して減らすイメージだ。
ライムにも伝わり、すぐに実行の指示が出る。ライムからピーチに連絡が入り、遊撃に戻るように指示を出して、全員が陣営の中に戻ってきたことを確認すると、練られていた魔法が解放され、5メートルほどの津波が敵に襲い掛かる。
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