2078話 綾乃がまたやらかす
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完全戦闘装備になったこちらに来ていた妻たちを見送り、俺の事をゲラゲラ笑っていた綾乃に悪戯をするために、風魔法を使用して小さな圧縮空気弾を綾乃に向かって3発撃ち放った。
俺の魔法は何もなく綾乃の後頭部にヒットする軌道をとったが、後50センチメートルほどの距離に近付くと、俺の圧縮空気弾は掻き消えるように消滅した。その結果に、自分の感覚がおかしくなったのかと、その場に棒立ちになってしまった。
相殺されたような形跡が無いのに、俺の魔法が掻き消えるとは思っていなかったのだ。ダマにだって通用しただまし討ちの様な魔法が、無効化されたことで棒立ちになってもしょうがないと思うんだよな。
そんな様子が面白かったのか、綾乃が肩を震わせている。
「シュウ、損な甘い魔法で何かしようなんて、へそでちゃが沸かせるわよ!」
綾乃は、何の魔法か分かっていないが、俺が何かしたことは分かっており、それに対して震わせていた肩を解放して、またゲラゲラ笑いだした。どうも、俺のアホ面が面白かったらしい。
ちょっとイラっと来た俺は、ムキになって先ほどと同じ圧縮空気弾を、同じ軌道で何発も連射する。どんな方法で魔法を無効化しているのか分からないが、一点集中で突破できるのではないかと考えての魔法だ。
100発ほど打ち込んでも、どのようにして無効化しているのか分からず。綾乃からは魔法を使った形跡すら感じられないのに、現実で起こっていることが頭の理解を越えていて、思考がフリーズしかけている。
魔法の行使は、微弱な物でも完全に消しきることは難しい。弱い魔法なり限りなく行使したことを気付かせにくくできるのだが、俺の魔法をここまで完璧に相殺する魔法を目の前で使われているのに、隠しきることは不可能だと思う。
先ほどのダマの話ではないが、あいつも気付かなかった圧縮空気弾だったから、奇襲攻撃としては完璧だったはずなのに……
「何回やっても、その程度の魔法は効果は無いわよ。それに、私が魔法を使っているわけじゃないから、私の事を観察しても無効化している魔法は分からないわよ」
……?
綾乃の言っていることが理解できなかった。他人に対して防御魔法をかけることは出来る。でも、それだったら魔法の行使を隠すことは出来ないはず。綾乃に注意されて、感覚を広げてみるがそれらしき反応がない。
俺の知覚範囲は広いとは言えないが、その範囲外から使われている魔法なのか? それなら、周囲に魔法の形跡が存在してもおかしくない。それなのに感じられないのは、どういうことだ?
「やはり、綾乃殿のその発想は凄いでござるな。目の前にいるでござるが、見ているだけでは何をしているのか本当に分からないでござる」
バザールは、綾乃がどんな方法で無効化しているのか知っているようだ。だけど、目の前で見ていても何をしているのか分からない……いや違うな、知っていても見ているだけでは、何をしているのか分からないってことか。
そのことから、魔法を使っていることは間違いないだろう。魔法を無効化しているのだから、それなりの魔法を使っているということだろう。
「シュウ殿、そろそろお戯れは終わりにするでござる。悔しいのは分かるでござるが、今回は綾乃殿の方が一枚上手だったでござるよ。何をしていたのか説明しないと、奥方たちの事を安心して見れないでござるだろうから、早く席について話を聞くでござる」
バザールに注意され、妻たちの件もあることを思い出し、席に着く。
妻たちは移動を開始しているが、まだゴーストタウンには到着していない。綾乃の件が無ければ見ていることは問題ないが、今は綾乃が何をしたのか気になって集中できない。
これで妻たちの事を見ていなかったら、この件が終わったらベッドに縛り付けられて、みんなとすることになるだろうが、それでも気になってしまうのだから仕方がない……何て言ってられないのだが、とても気になる!
そんな俺の気持ちが分かっているので、バザールも綾乃も包み隠さずに説明してくれた。
俺も綾乃もバザールも、お互いに何かあればゲラゲラ笑い合う仲なので、その後の行動も大体は予想ができている。そのため、今回ゲラゲラ笑った綾乃は、俺に何かをされるだろうと考えて、俺の魔法を無効化する魔法を行使していた。
執務室なので、大規模な魔法は使わないと考えていたので、無効化の魔法を使い物理的攻撃のハリセンに対して警戒していたそうだ。
俺の魔法に関しては、綾乃は分からなかったらしいが、バザールは魔法を使ったことは感知できたようだ。さすが魔法が得意なアンデッドの最上位種だな。でも、問題はそこではない。綾乃の使った無効化の魔法だ。
行使した無効化の魔法は、大分前に理論を完成させて使えるようになっていた魔法だが、原理がこの世界でも無茶苦茶と判断されているようで、どんなに改良しても魔力の消費量が桁違いに多く放置されていた魔法だ。だけど、この魔法は大量に魔力を消費するので、行使を隠すことは不可能だ。
綾乃は、暇な時間に魔法の行使を隠す魔法をたまたま発見して、その原理を理論的に解明してから、新たに魔法の行使を隠す技術を開発したらしい。
言われてみれば、地球にも同じような技術は存在しているが、それを魔法に取り入れたこいつは正直感心した。たまたま発見した現象を、地球の知識を使って再現したのだから、本当にこういった方面では恐ろしく感じる才能だ。
魔法が感知されるのは、魔法を使うと魔力の波のようなものが発生して、それを感じ取ることで魔法を使われたと感知できるのだ。戦闘中なら魔力を大量にばらまいて誤魔化したりすることはある。だけど、それでも完全に隠しきることは出来なかった。
魔法の行使を限りなく分かりにくくする俺の技術は、魔法の行使に余分な魔力を使わないことで、魔力の波を可能な限り抑えているから分かりにくいのだ。それでも、魔法を使う時には魔法の流れ自体はなくすことができないので、僅かに波が発生してしまい、感知することは可能なのだ。
だけど、綾乃の今回の技術は、使おうと思えば誰にでも使うことができる物だった。
原理としては、簡単な物だ。魔法の波が発生するのであれば、その波を相殺すればいいというものだ。
俺が身に着けている技術は、隠したり分かりにくくするものだが、綾乃の技術は波を相殺することで、魔法の行使を隠すというものだ。
俺の技術がパッシブノイズキャンセリングに近いもので、綾乃の技術はアクティブノイズキャンセリングに近いものだったのだ。
言ってしまえば簡単なのだが、魔法を使う時に発生する魔力の波に対して、逆相違の波を発生する魔法を組み込んでいるのが綾乃の発見した技術だ。
それでも魔法を使っているのには変わりがないので、感知できると思ったのだが、魔力の波は相殺されると消滅してしまうため、感知には引っかからないのだとか。
かなりすごい技術ではあるのだが、欠点もそんざいしていて……「魔力の消費量が倍以上になって、キャパシティーの様なモノがかなり占有されるのよ」と苦笑気味に言っていた。
正面から戦闘であれば、あまり役に立たない技術だが、隠密行動には持って来いの技術みたいだな。詳しい話は、後で聞こう。今は、妻たちの様子をしっかり見ておかないとな。
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