2044話 報告書が多い理由
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ライラに促されて、仕事に戻る。俺の仕事は妻たちとは違い、いつもと同じ書類の確認と決裁だから問題は無い。あるとすれば、いつもより書類の量が多い事だろう。仕分けされていない書類を、俺が俺の感覚で処理している。
書類の量は……大体10倍くらいはある気がする。妻たちはいつもこの書類たちを、俺が見るのに必要な物だけを抽出して、渡してくれるのだろう。俺から見れば、何が違うのか分からない書類もあるが、妻たちから見ると、俺が見る必要がない書類もあるのだとか。
「う~~ん、分からん。だって、ほぼ同じ内容じゃん。なのにこっちは確認してほしくて、こっちは別に俺じゃなくてもいいんだろ? 何が違うんだ?」
「シュウ様は分からないかもしれないですが、書類を書いている人ですね。こっちは、領主代行をして長い人で、こっちは領主代行になって間もない人ですね。他にもこれとこれなのですが、報告の上がったに日時ですね。こっちは4日前の事、こっちは昨日の事ですので、昨日のは確認してもらう必要がありますね」
何で4日前だと確認が必要なくて、昨日だと確認が必要なんだ?
「4日前のものであれば、シュウ様がわざわざ確認する必要はありません。もう解決しているか、解決できなかったためあげられた書類ということになります」
「後者なら、俺が確認する必要があるんじゃないか?」
「後者の方が確認する必要ありませんね。自分が無能だと言っているような物です。そんな者の報告書を読んでもら必要はありません。この者に関していえば、教育のし直しが必要ですので、提出された報告書を使い再教育することになりますね」
良く分からんが、妻たちやグリエルたちには、きちんとした基準があり俺が確認する必要がないと考えているのなら、それは間違っていないのだろう。気にするだけ無駄というのはあれだが、遅れて報告するような奴は邪魔ということかな。
対処できるかできないかは別として、問題が起きたならすぐに報告するべきだということは分かった。言われるまで気付かなかったが、言われてみれば確かに報告が遅くなったことは問題だ。だけど、そんな報告書を読む必要がない……というのはわからん。
問題があるのだから、反対に俺が読む必要だあるのではないかと感じている。
妻たちの話では、読んだところで意味は無いので、時間の無駄だと言われた。読んだところで、どんな問題が起こりどうして解決できないのかが分かるだけで、俺の時間を使うだけで何の線の無い事だ! と言い切られてしまった。
それなら、再教育が終わった後に、結果だけを報告するのが正解だとのことだ。
俺が再教育をするわけではないので、そんなどうでもいい報告書に俺の時間を使うくらいなら、子どもたちと一緒に遊んでいる方が俺のためでもある、と言い切られた。
俺が全てをやっているのであれば、このいい分は無視も出来るだろうが、俺は色々な人に協力してもらい、その人たちのおかげで色々自由に行動することができている。
ならば、ここは妻たちやグリエルたちの方針に従うべきだな。仕事の量を減らしてもらっているのに、文句を言ってはいけないよな。
おっと、話してないで仕事をしないとな。気になることを聞いていると、仕事が進まなくなりそうだ。時間がある時に聞けばいいだろう。
ふむふむ……ぺったんぺったん。
あ~、これも報告後少し遅いな。2日前の奴を今頃か。妻たちからするとこれはどっちなんだい? これもアウトなのか。だけど、再教育ではなく忠告で済ませるみたいだな。2日はギリセーフで、3日以降はアウトらしい。
2日と言っても、俺が呼んでいる報告書は昨日のものなので、実質1日が猶予ってところみたいだな。2日でもきちんと解決しているなら、問題ないらしい。ここら辺が一つの線引きらしい。
次いこか。
いつも読んでいない報告書は新鮮ではあるけど、確かに読まなくても問題ないものが多いな。どうでもいいとまではいは無いが、上申する報告書や日常の街のトラブルについてなど、細かい報告も多い。
うちの報告書は細かいことが多いが、これには理由がある。
厚生労働省でもピックアップされているヒヤリハットだが、多くの場合現場では、細かいヒヤリハットを書くことが難しい。
難しい理由は現場それぞれだろうが、書く暇がない・このくらいなら問題ない・書こうと思っていて業務に忙殺される・書き始めたらきりがない・そもそもヒヤリハットだと思っていない……等々、理由は様々だが、自主性に任せるヒヤリハット報告は、数が少なくなる傾向がある。
酷い所では終業後に書いて帰れみたいなところもあると聞いている。大きな事故を防ぐための物なのだが、時間外労働を無償で強制させられることで、大きな事件に発展しまったケースもあるのだとか。
高校時代の友達から、その友達の父親の働いている会社の違う部署で、時間外労働を強制させていたらしく、現場の声を無視して営業していた結果、乱雑に積まれた資材が崩れて部署の偉い人が怪我をしたという事故が起きたそうだ。
その事故があったため、その偉い人が現場の人間に責任があるとして、現場の人間に頭ごなしに怒ったそうだ。訴えを無視して、タダで強制的に働かさせられていたため、現場の人間が爆発して傷害事件に発展したそうだ。
もちろん裁判になったのだが、強制的な違法の時間外労働と理不尽な叱責など、色々なことが加味された結果、心神喪失状態にあったとして傷害を起こした社員は無罪。怪我した偉い人と会社は、反対に強制的に違法な時間外労働をさせたとして訴えられ、敗訴し多額の罰金を払ったらしい。
業績の良かった友達の父親が働いていた部署もとばっちりを受け、内部改革のため忙しくて、家に帰ってきても不機嫌だと言っていたな。
大きな事件を防ぐためとはいえ、問題になることをしては意味がない。
ならば報告書(日報に近い)として、業務の一環で書いてもらう時間を作ったため、報告書が細かい。その中からヒヤリハットを抽出する形をとったのが、俺の管理下の街である。それでも漏れは沢山あるが、自主性に任せるよりは多くなったと聞いている。
普通の企業で行っても、効果はあまりないだろうが、グリエルたちがしっかりと教育し管理して人材が上にいるので、これが上手くいっている。ヒヤリハットを抽出する部署もあるみたいだけど、俺は何処にあるか知らない……それでいいのか俺!
ヒヤリハットの件はともかく、現場の意見は最大限に聞き入れているので、現場の人間が爆発することは今のところない。聞き入れていると言っても、全部が全部ではない。しっかりと聞いて、吟味し、妥当性があれば改善という形をとっている。
現場と上の人間ではズレることが多いので、訴えが多くなれば上の人間が現場に入り、現場の人間は上の人が働いている場所を見学するようにしている。お互いの考え方、感じていることを知ることができるから導入されたシステムだ。
現場上がりの人間も多いので、効率的に仕事ができる方法を教えたりすることもあるのだとか。反対に現場の人間は、書類仕事に忙殺されている上の人間を見て、顔を青くする者もいたと聞いている。お互いが理解できていなかったと、判断されることもちらほらあるそうだ。
大半は、俺が遊び半分で提案したことを、グリエルたちが使えるように落とし込んだ結果が、俺たちの街なのだろう。
よっし、今日の仕事は終わり! 明日が終われば、2人が戻ってくるってことだな。
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