2028話 俺の知っているわかめじゃない
アクセスありがとうございます。
わかめを収穫して船に戻る。まとめて持ち上げたつもりだが、いつの間にか体に巻き付けられる形になっており、危うく溺れるところだった。
シンラたちは水中遊泳から戻ってきて、色々と騒いでいる。普段いけない水中にもぐることができて、テンションがマックスなんだろう。俺を玄関で迎えた時のように、言葉にならない言葉で3人が3人騒いでいるので、非常に収拾が付けづらい状況だ。
ミーシャたちもミーシャたちで、自分たちが表せる最上級の言葉で、水の中を表現していた。
それにしても、モンスター級の大きさだな。船に乗せるのは困難なので、岸まで曳航することにした。ん? 曳航は船を引っ張ることだから、わかめは曳航とは言わないか……引っ張っていったでいいかな。
岸ではブラウニーたちが調理の準備を始めていた。
わかめの大きさを知っていたのか、大きな鍋をいくつも準備していた。それなりの距離があるのだが、湯気が立っているのが分かる。すげえな……
岸についてわかめの下処理を始める。
初めに、わかめから下部についているめかぶを切り離す。
その後、わかめについている小さなごみを落とすために水洗いしていく。この時に真水で洗うと、わかめがふやけてしまうので、海水のように塩水で洗う方がいいらしい。3パーセントちょっとの塩分濃度だと塩を使いすぎてしまうので、1パーセントほどでも大丈夫とのことだ。
キレイに洗った後は、葉と茎に切り別ける。本来ならペラペラなはずなのだが、肉厚であるため葉の部分が普通のわかめの茎みたいだった。食材を切っているのに、布を切っているような感覚だ……不思議だな。
切り別けられたわかめを見たシンラたちは、いつも酢の物で食べているわかめとサイズが違うので、わかめ? と首を傾げながら、3人でつぶやいている。
めかぶと茎と葉に切り別けられたわかめを見て思う……茎がシンラたちの手首より太くないか? これって以上成長しているのではないか、大丈夫なのか? 大味だったりしないかね。
俺の疑問を感じ取ったわけじゃないが、ウルが説明を始めた。
ここまで大きくなったのには、わかめに必要な栄養素を豊富に与えたからだそうだ。植物であれば栄養過多だと枯れてしまうことが普通なのだが、そこはドリアードの協力で枯れないように、成長を促したそうだ。
海の中で栄養? と思ったのだが、肥料のように根本付近にまいたそうだ。畑エリアでも使われているカキ殻を砕いたものを使っているらしい。
ドリアードの話では、ここまで成長するとは思っていなかったが、いい方向に育ってよかったとの事だ。
む~、切った葉の部分が腰ミノのようだ。ここまで大きいと、どうやって食べるんだ? 千切って食べるべきかね。
俺が処理した分は、ここで試食のために調理をするそうだが、妻たちが収穫して下処理したわかめは、ブラウニーたちが適切に調理して、収納の箱に保存するそうだ。
初めは、わかめの味を純粋に楽しむために、しゃぶしゃぶでいただくことになった。一口大にちぎられた葉を1枚箸でつまみ、お湯にサッとくぐらせる。そうすると、色が鮮やかな緑色に変わる。
その様子を見ていたシンラたちが大はしゃぎだ。言葉で説明されていたが、実感がわかなかったのだろう。実際に目で見たことによって、自分も早くやりたいと急かしてくる。
シンラたちの突き上げを無視して、何もつけずに一口……おぉ、すげえ。わかめの味がすげえダイレクトに感じられる。そして歯ごたえがおかしい。ザクザクいってるんですけど!
シンラたちはまだ箸を使えないので、トングで挟んで母親たちに手伝ってもらい、湯にくぐらせてから少し冷やして食べている。
シンラたちは、何もつけずに食べても美味しくないみたいで、微妙な顔をしているな。母親に笑われて3人ともふくれっ面になっているが、ポン酢を渡されたシンラたちは、母親の言うとおりにちょっとだけつけて食べると、手足をバタバタさせ始めた。
子どもなのにお酢が苦手じゃないんだよな。うまうま言って食っている。多分、俺がわかめの酢の物が好きだから、小鉢で良く出てくるから食べれるのだろう。
俺もポン酢を貰い、ちょっとつけ口へ運ぶ……うめえな。これはヤバい。良く分からんけど美味い。だけどさ、これっていつも食べている酢の物には合わないよね? これがメイン! みたいな感じでだせる程強力なインパクトがあるな。
次は既に湯通しされており、千切りのようになっている物が出てきた。ミドリのはずなのに、若干茶色いのはきんぴらにしたからのようだ。千切りにされているのに歯ごたえがしっかりと残っている。どうやら使っているのは、茎の部分でそのまま食べるには太すぎたので、ひと手間加えたようだ。
うむ、これも美味いぞ! 食感がいいから、ついつい箸が進んでしまう。飲兵衛のドワーフコンビは、お酒が欲しくなるわ! と、ブラウニーたちの方をチラチラ見ながら、お酒が出てこないか様子をうかがっている。飲みたければ飲めばいいのに。
葉の方も炒め物にして問題ないようで、普段はサラダや酢の物にしか使われないわかめが、温かい状態で出てくるものだから、頭が少しこんがらがっている。美味いんだけど、わかめはスープとか以外では冷たいのが普通なので、ちょっと戸惑っている自分がいる。
でさ、わかめも好きだけど、俺の本命はめかぶなのだが……まだですかね?
俺の心の声が届いたのか、めかぶが調理されて出てきた。俺が知っているめかぶの調理法なんて1つしかないけどな。
茹でられた後に刻まれて出てきたのだが、いつも食べている物とは違い、少し厚みがある部分が存在していた。葉や茎があれだけ太かったのだから、めかぶの部分も同じように太いよな。
まだ味付けをしていないようで、昆布と鰹節で取った濃いめの出汁と、かえし醤油が準備された。
出汁だけでも美味しいし、かえし醤油だけでも美味い。だけど、2つが合わされば……最強と言わざるを得ないだろう! 食感も良く、出汁や醤油もめかぶの味を引き叩ている。試食だけど、ごはんにガッツリかけて食いてえ!
俺の気持ちを汲んでくれたのがブラウニーだった。
「今日の夕食にお出ししますので、それまで我慢してください」
近寄ってきたから、俺の気持ちを分かってくれたと思っていたのに違った。ここでは食べれないと悟った俺は、口の中をリセットするために、茎わかめのきんぴらをポリポリしている。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




