2016話 シンラの悪だくみ
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玄関に到着して、ドアノブに手をかけると、何故か嫌な予感がする……
『主殿、どうしたのですか?』
足元から俺の事を見上げて、ダマが質問してくる。
「なんというか……ドアノブに手をかけたら突然嫌な予感がして、このままドアを開けていいのか迷っているところだ。嫌な予感と言っても、俺の家で四大精霊たちが守っているから、害があることは無いと思うんだけど……どうにもな」
『嫌な予感ですか? 漠然としていてわかりにくいですが、直感のような物ですよね。害がなくとも大変なことが起こるのですかね?』
「大変なことか……ついさっき大変なことを終わらせてきたはずなんだけどな。手を放しても、嫌な感じがおさまらないのが困りものだ。どうしたものか」
『ずっと嫌な予感がするからといって、家に入らないわけにはいかないですよね? 玄関で嫌な感じがするなら、裏に回って食堂から入りますか?』
「う~ん、そうしてみるか」
ダマの助言に従って裏に回り、ウッドデッキに到着する。靴を脱ぎ登ろうとした瞬間! 玄関の時より数倍も嫌な感じがした。固まっている俺に、
『ここでも、嫌な感じがするのですか?』
「玄関より、何倍も嫌な予感がする……本能的に、こっちからは上がっちゃいけないと、警鐘もなっているからここからはないわ」
『いくつか入れる場所はありますが、そちらにも行ってみますか?』
家の中に入れる場所に行ってみるが、どこもかしこも玄関より嫌な感じがする。ゲートを使って俺の趣味部屋へ行こうとしても、同じように嫌な感じがするのだ。
このことから、家に入れば嫌なことがあるのは確定で、玄関以外から入るのとそれ以外だと、苦労に差があるという感じだろうか?
色々な予想をしながら、一番嫌な感じが少ない玄関に戻ってきた。ドアノブに手をかけると、先ほどより嫌な予感が強くなっている。それでも他の入り口から入るよりは、断然弱いので玄関が正解なのだと思う。
開けようとした瞬間に、玄関の中から声が聞こえてきた……
『シンラ殿の声ですな』
「そうだな。そのおかげで、この嫌な感じの理由が何となく分かったわ」
『朝の件への抗議みたいなものですかね?』
「多分な。玄関から以外だと、嫌な感じが強くなるのは、玄関で待機しているのにそれ以外の所から入れば、シンラがどう反応するかなんて、分かり切っていることだな……俺が悪いわけでもないのに、何でこんなことになってるんだかな」
従魔たちは苦笑している。少し離れているのは、巻き込まれないようにとのことだ。
意を決して玄関の中に入ると、玄関の上り口のど真ん中で、スライムたちを椅子代わりにして、腕を組み偉そうに座っているシンラがいた。
どう対応するのが正解か……あえてスルーするべきだろうか?
悩んでいると、先にシンラが動き出した。
最近よく見る光景だな。仁王立ちして、俺に指を指して何やら言ってきているのでが、内容は全く分からん。玄関の隅でお気に入りの椅子に座っているプラムとシオンは、シンラのセリフに合わせて拍手なんかをしているが……やはり、まったく意味が分からない状況だ。
やはりシンラは、俺の席を狙っているのだろうか? まだまだ子どもだというのに、そんなに領主になりたいのか? 俺なんていてもいなくても、仕事上の問題は無いから、シンラがどうしてもというなら、領主の席をわたしてもいいぞ。
スパーンッ!
むっ? 玄関の中には、シンラたち意外いる気配がなかったのに、不覚にも後ろを取られてハリセンで叩かれたみたいだな。で、叩いたのは誰よ?
振り向くと、カエデとリンドが並んでいた。
「シュウ、またシンちゃんに領主を押し付けようとしてたでしょ? 文章で話せるようになってきたけど、色々なことを正確に理解しているわけじゃないのよ。それなのに、押し付けるなんて、親失格じゃないかしら?」
「そうはいうけど、貴族みたいなのって、子どもが親をどうにかして、地位を得るって話があるだろ? そう考えれば、シンラの行動も腑に落ち「ないわよ!」」
食い気味にカエデが俺の言葉を否定してきた。
「20や30になれば違うかもしれないけど、まだ5歳にもなっていないのに、そんなことするわけないでしょ! 本当に困った人なんだから……こっちで話してると、シンちゃんがまた起こりだすわよ」
理不尽に怒られているのに、甘んじろとの事だ。
とはいえ、俺には最終兵器があるのだ! 収納の腕輪から、この子たち用に作った棒付きキャンディーを取り出す。シンラには見えないように、プラムたちだけに見える位置でフリフリすると、椅子から下りてこっちへ向かってきた。
シンラの視界にプラムたちが入ってくると、また何やら言っているが、プラムたちには聞こえていない。おやつに目が釘付けだ。といっても、この子たちが寄ってくるのって、俺を攻撃するか、おやつで釣った際だけなんだよな……
2人にキャンディーをあげて、3本目をシンラに渡すようにお願いする。シンラは、俺に何か言うのとキャンディーとの間で、心が揺らいでいるような表情を見せる。そして、おやつに負けて手を伸ばした。
3人で並んで飴を舐めている姿は、可愛いな。
良く喋る人で、黙ってたらカッコいいとか美人って言われる人って、こういう感じの落差があるのだろうな。この子たちも、大人しくしている時は非常にかわいいのだが、火が付くと大変だからな。
それでも悪い事をすれば怒るので、ただ甘やかしているわけではないぞ。
貴族や大商人の子どもに、この加減を間違えて、周りがよいしょばかりして、怒る人がいないから、質の悪い大人に育つケースが多いからな。
こういう事情もあって厳格な家系でなければ、代を経るごとに能力は劣化していくのだろう。初代は基本的に自分で功績をあげているのだから、貴族でない。どんな環境課は分からないが、真っ当に生きて成功しているのだから、素晴らしい人間なのだろう。
2代目辺りまではいいかもしれないが、3代目は初代がおじいちゃんになり甘やかすだろうから、冗長していきそうだな。で、代を経るごとに、能力ではなく血筋で仕事を得て、研鑽しなくなるのではないだろうか?
その点、三男以降は継承できる可能性が低いので、努力している姿が良く小説なんかには書かれているよな。
っと、どうでもいい事を考えてたら、シンラに足を蹴られた。俺は痛くないけど、また反射みたいになって、泣いても知らないぞ。
何とかシンラの攻勢を躱した俺は、3人を抱きかかえて食堂へ移動する。
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