2012話 原因判明
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勇者は、回復魔法という言葉から、これから行われることを連想したのだろう、観念して話し出した。
召喚された経緯は、この世界に来た全員と同じで、急に呼び出されたようだ。そこで与えられたスキルは、薬品関係のスキルだったようだ。効果的には他のスキルと同じで、薬品関係の知識が強制的に流れてくるのと同時に、検索のようなことも出来るらしい。
初めて聞くタイプの内容だった。知識が強制的に増えるのはいつも通りだが、それを検索できる能力は初めてだ。検索という意味では、ダンジョンマスターに近い能力だと感じた。
でも、知識と検索ができるだけでは、フレデリクで起こった事件をなんとかできるとは思わない。この勇者は、今回の事件の黒幕ではないのか……?
捜査が振り出しに戻ってしまうのかと思った。
勇者がさらに情報を話し始めた。
薬品関係のスキルと大雑把に表現していたのは、もう1つ今回の事件を起こせる能力があったのだ。最後に予想していた、数倍も想像以上にヤバい能力だった。
最後の能力は、神授のスキル単体では効果が無かったのだが、錬金術や製薬のスキルと合わせることによって、効果を発揮する特殊な能力だった。
その能力とは、自分のスキルで生成した薬品関係のアイテムに、鑑定スキルでも分からない効果を付与することができるというものだった。この能力で作られたサプリメントで、フレデリクで事件が起きたそうだ。
事の始まりは、軟禁に近い状態で研究をさせられていたこいつが、製薬中に特定の人間が飲んだら死ねばいい! と考えて作った薬が、効果を発揮してしまった事だ。特定の人物だけを狙って、毒のような効果を付与できると知った侯爵の息子が、勇者を工場に閉じ込め、思うように薬を作らせたらしい。
その結果というべきか、侯爵の息子の邪魔になる人間が、ゆっくりとだが確実に王国から減っていったそうだ。侯爵を継いだ時に、自分が王に成り代わるつもりだと勇者に話していたのだとか。
フレデリクとリーファスを合法的に手に入れてやると、息子は画策していたようだが、フレデリクやリーファスなど、俺の息のかかっている街では、安価で一般市民が必要とするランクの魔法薬が買えるし、治療師もおおく存在していたため、付与効果のある薬を送り込めないと騒いでいたらしい。
そこでサプリメントが開発され、加速度的に息子の影響力が高くなってきたそうだ。裏で手を回し、国王がアンタッチャブルとして指定している、俺の街へのちょっかいをかけ始めたのが、今回の騒動の始まりだったようだ。
ということは、こいつが共犯者で、侯爵の息子とやらが元凶ということだな。
そこまで話したところで、バザールが情報の対価として、この世界の事を話し始めた。勇者は驚いていたが、事実なら今までの事にも納得がいくと言っていた。
そして最後に、爆弾を落とす。
『何か安心しているようだが、私たちはフレデリクの関係者だ。不可解な死が立て続けに起きて、捜査線上にあんたが現れ、犯行を自供してくれたな。可能性は高いと思っていたけど、まさかドンピシャで犯人にたどり着くとはね……』
爆弾を渡された勇者は、顔を青くしている。
「シュウ、こいつはいらないけど、この能力はあったら便利かもね。それに、隠蔽のスキルと同じで、神たちには返したくないスキルだよね、どうする?」
「魔法陣は潰して召喚は出来なくなってるけど、ダンジョンマスターみたいに送り込むことは可能なはずだから、こっちで確保しておきたいな。でも問題は……誰に引き継がせるべきか」
「シュウ君、製薬関係なら、キリエが適任だと思うわ」
ミリーから、キリエに引き継がせるように提案があった。でも、今までとは状況が違うので、妻たちに手を汚させるのは……
「シュウ、あいつは人間じゃない。敵よ。フレデリクの人間を何人も殺し、それ以外でも王国の人間を数多く手にかけているんだよ。そんな奴を生かしておく方が、この世界にとって有害なの。スキルの効果を考えると、引き継いだ方がいいのは明白。なら私たちは、手を汚すことを是とするわ」
リンドに強く進言される。最後に「私たちはシュウと一生連れ添うと決めているの。あなたの背負うカルマを一緒に背負うと覚悟しているわ。良い事も悪い事もすべて分け合いましょう」だってさ。本当に、俺にはもったいないくらいの、良い妻たちだ。
今は深夜なので、明日……もう今日だな。今日の朝食後にでも、今回の件を伝え、話し合うことになった。
現地人でないと神授のスキルを引き継げないという縛りが無ければ、俺が全員殺すのにな……
俺たちの会話は、バザールも把握しているので、しばらく沈黙の続いた取調室で口を開く。
『どうやら、敵だったようなので、拘束してください。死ねないように猿轡も嵌めておいてください。近日中に判決が出ると思いますが、強制的に従わされていたとはいえ、害をなしたことには変わりはありません。国王にも話を伝え、侯爵の息子にはこの世界から退場してもらいましょう』
バザールが判断することじゃないけど、勇者の件は国王に話すべきだし、侯爵の息子は主犯なので死んでもらうつもりだ。こちらの意図を組んでの発言だったのかね?
健司はここにいないが、今の話を記録しているので、明日の朝には完成しているはずだ。それを持って、妻たちに説明しますかね。健司、頼むぞ!
勇者は絶望したような顔をして、猿轡を嵌められた状態でモガモガ言っているが、何を言っているのかは分からない。おそらく、助けてほしい的な何かだろう。
『ここが地球で日本だったら、あんたの主張は通っただろうな。だけどな、ここは異世界なんだよ。あんたを操っていた主犯が、私たちを狙った事を呪うといい。あんたのスキルは、この世界では脅威すぎるんだよ。フレデリクに手を出していなければ、命は助かったかもな。
そうだ、あんたはこの世界に詳しくないようだから、1つ教えておいてやろう。神が決めたルールだが、自分の力ではどうにもならない状況以外は、全て本人の罪として罰賞がステータス欄につくんだ。今回のような自分の命が大切だから他の人間を害す、みたいな行動でもこの世界的にはアウトなんだよ』
そう、こいつのステータスの中に罰賞が表示されていたので、何かしらの犯罪を犯しているとは考えていたのだ。わずかだが、軟禁される前に犯罪を犯していた可能性もあったわ訳だ。
あまりにもうるさかったようで、鬼人が後ろからチョークスリーパーのように、首に腕を回し締め落としていた。その後、自殺できないように入念に拘束されている。排泄などの世話は、治療に使ったあの湯船を使うことで解消された。
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