2009話 あっさりおわた
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戦闘中の鬼人と人造ゴーレムを放置していることから見て、ブリーフィングには必要ないのか俺たち3人以外移動するメンバーはいない。到着すると、バザールからデータがタブレットへ送られてくる。
俺が確認した内容から少し肉付けした内容だった。大きく変わっていないので、ざっと流れを確認すると突入班のメンバーを発表した。
……これする意味あったのか?
うん、このブリーフィングいらなかったな。
綾乃の作った催眠弾の実験映像の方が、有意義だった。囚人を使った実験だったのだが、何もしてない人、ガスマスクの人、全身をタイツの様なものとガスマスクで身を包んだ人、マッスルスーツとは違うが全身を外気から遮断する装備を身につけた人がいた。
こいつらが街を模した襲撃訓練用の建物の中で、扉をしめた状態、扉を開けた状態、隙間を少し開けた状態など、何パターンかに分けて実験した映像だ。
扉をしめた状態では、寝る者はおらず、開けた状態と隙間は全身を空気から遮断している囚人以外は眠ってしまった。気になるのは全身タイツの囚人は、ガスマスクだけの囚人より寝るまでの時間が遅かった。
魔法薬が皮膚吸収でも効果を発揮するため、全身に隙間の無いタイツのような物を着ていれば、皮膚に魔法薬が届くまでの時間が遅らせられるということだろう。追加実験としてタイツではなく、手袋などを使い隙間なく皮膚を覆った服でも同じような効果だった。
でも、完全に遮断しないと、いずれは皮膚に魔法薬が届くので、結果寝てしまうという感じだな。魔法薬の効果が無くなる時間まで服に浸透しなければ、眠ることは無いだろうが……どれだけ厚着する必要が出てくるのやら。
毒に耐性のあるモノでなければ、催眠弾には対抗できないだろうとの結論だ。マッスルスーツの様な装備など、常に身に着けている人なんていないからな。ガスマスクも必要なければ、視界が狭くなるだけだしな。
その後は適当な雑談をして、時間を潰すこととなる。
作戦決行は日付が変わった瞬間……24時ジャストだ。30分前から移動を開始して、時間になったら各所へ突入する。侯爵の領主館があるエリア一帯と、勇者が軟禁されている工場に同時でアタックをかける。
それにしても、工場から出られないって、本当に何もできない状況だろうな。賃金とか出ているかもあやしい。だからといって、勇者を優遇するつもりは無いけど、同情はしてしまうかな。
領主館のあるエリアは広いので、タイミングを合わせて5個の催眠弾を使うと言っている。領主館って呼んでるけど、城みたいなんだよな。機能が集中しているせいか、この街は領主館周辺に主要な施設が多々存在している。
効率的に重要な場所を守れるが、民を守る布陣ではない気がする。民は勝手に増えるから、大切なところさえ守れればいい的な、クズ貴族の発想を持ってそうな奴だな。
勇者のいる工場は、その時間には稼働しておらず、一部に人が集中するので、1発で足りるようだ。もし稼働中だとしたら、2~3発は必要になるかもしれない。
時間が来ると、バザールが鬼人たちを集め装備の確認を始める。鬼人たちは全員がパワードスーツの劣化版のような、外気を完全にシャットアウトできる装備を身に着けている。鬼人たちの倍数のアンデッドが、今回投入されるようだな。
戦闘班とは別に記録できるように、カメラを回す人造ゴーレムも同行するようだな。あいつらは、見たモノをそのまま映像として保存できるので便利だ。
動員されたアンデッドを見て、吹いてしまう。街中で使うから、匂いの強いゾンビ系は排除したのだろう。いざという時に鬼人を担がせるつもりなので、アストラル系のレイスなんかも除外したのだろう。動員されたのは、バザールの様な骨だった。
ボーンやスケルトン系なら俺もまだ吹かなかった。動員された全員がS級スケルトンたちだったのだ。過剰戦力にもほどがある。レベル400越えのお守している奴を除けば、一対一で完封できるほど強い骨が、数百も街の中に解き放たれることを考えると……悪夢だな。
この戦力なら、王都でも簡単に制圧できそうなメンバーだ。だけど、今回は殺したりすることは目的ではない。勇者を拉致することが最終目標だ。
バザールの指揮の元、商会の支店の倉庫に移動していく。分けられた班ごとに、指定された位置へ移動していき、全員の準備が整ったところで、
『最終確認。突入は、2400。今から5分後。催眠弾を使うのは、各班のリーダー。時間になったら、指定の位置に投げ込み、20秒待機。待機後、工場班は勇者の確保。領主館エリアは、起きている人間の制圧だ。
可能な限り周囲への被害は抑えるように。だが手加減して怪我をするようなら、意味がない。被害を押さえられないと思ったのなら、最大の攻撃で殲滅せよ」
いつもの『ござる』口調ではないバザールのしゃべり方……違和感しかない。綾乃なんかは、手足をバタバタさせ笑っているが、緊張感が薄れるから大声で笑うな。
作戦決行時間になると、同時に催眠弾が投げ込まれる映像が映し出される。この映像は、同行している人造ゴーレムからのリアルタイムな映像だ。
特殊な装備をしていなければ、20秒もあれば効果範囲内の人間は寝てしまう。起きているのは、毒耐性や睡眠耐性などの高い人間だけだろう。スキルがなくとも体質で弾く人間もいるので、効果範囲内の95パーセントほどが眠りについてしまう。
「なぁ綾乃、この5パーセントって多くないか?」
「多い気がするわね。特に多いのは……兵士みたいね。あれじゃない、長時間の勤務とか夜勤とかあるから、睡眠耐性があったりするんじゃない?」
言われてみれば兵士って、かなり不規則な時間で働いているよな。習慣的なもので、勤務時間内は寝にくくなるのかもしれないな。後、割合で言うと下級文官の中にも、起きている人間が多い気がする。
お偉方でこの時間まで起きている人間は、淫行している奴らくらいなので、まじめに働いている下級文官は、寝る間も惜しんで働いているのだろう……そう考えると、ホロリと涙が……出てこなかったわ。激務ではあるのだろうが、自分の街ではないので何の感慨もなかった。
「もともと寝ている人たちは良いけど、部屋で待機している兵士たちや仕事している文官、下働きをしている者たちなんかは、結構起きてるね。扉が開いていないんだから仕方ないか。全体で見れば、15パーセントほどが起きていることになるみたい」
綾乃が起きている人間のカウントを教えてくれた。見回り組の大半は眠ってしまっているので、急に倒れてしまった同僚に対応している間に、突入班に昏倒させられていく。
工場の方は、高レベルの奴以外に3人ほどしか起きていなかったため、領主館のエリアの様子を見ている間に、制圧が終わってた……ちょっと早くね? すでに勇者を確保して、移動を開始している。
バザールの指示で、人のいない場所を進んでスラムの手前に移動している。
勇者を確保したなら、領主館のエリアには用は無いので、撤退が開始される。合流後、スラムを抜けて城壁の外へ。スラムの途中で、聞かれたら答えていいが、今だけ邪魔しないようにと、スラムのまとめ役に金を落としていく。俺が準備していた地下シェルターへ入り、全員が無事に戻ってくる。
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