1992話 完成したが問題が
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色々調べるために、適当な長さの板を召喚して並べる。実際に塗装した色までは召喚する際のガイドで分からなかったので、自分たちで塗ってみてから色を決めてそれを召喚することにした。
この世界にある塗料も、向こうの世界にある塗料もたくさん召喚して、100種類ほど試すことにした。物量作戦のできる今なら、何の問題も無いはずだ。
スライムたちにしてほしいことを説明すると、全員が群がって大変だったが、それだけだ。他の仕事はスムーズに進み、俺の目的は達成された。
「ん~、やっぱりウッドデッキって言うと、個人的な意見になるけど……このこげ茶みたいな濃い色が良かったりするんだけど、飲兵衛の爺さんたちはどう思う」
「んぐんぐんぐ……かぁっ! やっぱりここのビールは美味いな! この喉を刺激するシュワシュワが最高じゃぞい! ん? ウッドデッキの色なんて、何でもいいじゃろうが。そもそも、ウッドデッキ単品で考える物でもないじゃろう。今ある家との色合いも大切じゃぞい」
まともな返事が返ってくるとは思ってなかったが、予想以上にまともな返事が返ってきてビックリしている。
確かに言われた通り、ウッドデッキだけで完結するモノじゃないから、家とのバランスを考える必要があるか……建物の外装は、少し明るめの白っぽいんだよな。何度か塗りなおして、今はこの色だったりする。
「建物が明るいから、ウッドデッキも明るめがいいのかな? ん~それだと、おかしいか? こういうセンスがないから、1人で考えても悩むだけで終わってしまいそうだ。援軍がいれば……」
そう言いながら周りを見ると、子ども部屋の窓にシンラだけじゃなく、プラムとシオンも張り付いていた。その後ろで、年長組の妻たちもこっちの様子を眺めている。
ちょうどいいので、みんなに出てきてもらうと、食堂からも人現れ、ミーシャたちも合流する。
今までの話をして、ここにウッドデッキを作ることを説明した。そこで、ウッドデッキの色について悩んでいることを話すと、何やらシンラの目がキラキラしている気がする。
そこはかとなく不安を感じるが、ヤル気になっているシンラの邪魔をするのも良くないので、下の子たちは年長組の妻たちに任せることにした。
シンラはスライムたちに指示をして、一つひとつ板を持ち上げさせては、頷いたり首を振ったりして、着色された板を別けている。
ミーシャたちは、シンラの良く分からない基準で分けられた木材を、遅れてきたウルも混ざって話し合いをしている。
妻たちも、これは違う気がするわね、これなんかどう? みたいなことを言いながら、ウッドデッキの色を考えてくれている。
「ん~、シュウよ。この塗装は、少し色が違うんじゃないか?」
「そりゃ、魔法で乾かしているので、多少色の変化はあるかもしれないですが、そこまで違うという訳でもないと思うんですけど……」
「塗って乾かしただけならそうなんじゃろうが、塗料の中には重ね塗りをしたり、上塗りと下塗りで違う薬剤を使うこともあるんじゃぞ。たくさん塗れば濃くなるのは当たり前だが、そう言うのを考えて色を調節したりもするんじゃぞ」
そう言われて、俺はハッとする。ウッドデッキとは違うけど、中学生の時に机を事業で作った際、ニスを塗ったのを思い出す。
「塗料の中には色だけじゃなく、防腐や防カビ、防虫などの効果がある物もあるから、色々組み合わせることもあるぞ。なんにしても、しっかりと乾かす必要があるから、本来なら塗って乾かしての一工程だけで3~5日かかってもおかしくは無いんじゃぞ。
その時間も、しっかりとした施設があれば、乾燥の時間を早められるから、街に一つくらいは塗装専門の攻防があったりするもんじゃぞ。裏技という訳ではないが、ステインを塗ってすぐにタオルなんかで拭き取ると、木目が強調されて好きという人もおるのう」
知らないことが沢山出てきたな。
個人的には、拭きとってないステインの色も嫌いじゃないんだが、拭き取ると木目が強調させるのか? 確かに、塗って乾かした方とは全然違うな……これも悪くない。
「もっと言うと、板材の種類でも若干色合いが変わるから、選択肢が多いと混乱することになるぞ」
悩んでいるところに、ビールをカパカパ飲んでいた老ドワーフの1人が、そう注意してきた。既に混乱してるよ! どうしろってんだ!
普通の街なら、俺みたいに木材の選択肢は多くない。多くても5種類あればいい方だろう。大半が1~2種類の街が多いはずだ。
建築材に向いている木材、向いていない木材、俺には良し悪しは分からんが、向いていない木材でも家を建てるのが、この世界の大工なんだとか。そう言う意味では、塗料や加工の仕方、魔法を駆使して使える範囲に押し上げるんだとさ。
この世界は建築技術は劣っていたが、木材加工という点では地球に勝っている部分もあるかもしれないな。工業化していないのに、工業化以上の加工技術のあるドワーフ集団が実際にここにいるし、なんかアンバランスだな。
木材の関係で使いにくい日本の技術、木組み技術を教えた時は、ドワーフどもが酒を忘れて技術習得に励んでたっけ? そう言えば、あの時に痩せたドワーフっていたっけ? あいつらは、過度のストレスがかかると痩せるのかもしれないな。
どうでもいい事を思い出しながら、ウッドデッキをどうするか悩んでいると……何やら、シンラが騒いでいるようだ。
ウッドステインを塗って拭いた、木目がキレイに出ている木材を抱いて、ギャーギャー何かを言っている。
どんな状況かは良く分からんが、シンラはあの板材を気に入った事だけは理解できた。
プラムとシオンはシンラに追従する形で、シンラの抱いている板材をペチペチと叩いている。年長組の妻たちは全員苦笑しており、姉であるミーシャたちは、自分たちも好みの物を発見しており、非常に悩んでいる様子だ。
時間をかけて話を聞いてみると、シンラは木目が気に入っているだけで、色にこだわりは無いと分かった。ミーシャたちは色にこだわり、少し明るめだが、外壁に比べるとずいぶん暗くなるブラウンっぽい色がいいと言っている。
悩んでいると、老ドワーフの1人が近寄ってきて、シンラの板材を受け取り、ミーシャたちの好みの色になるように調整してくれた……マジかこいつ! ずんぐりむっくりの酒バカなドワーフが、繊細な手つきで塗装してやがる!
「あんまり褒めんな」
酒バカというところを褒められたと勘違いした爺が、微妙に照れている。キモいわ!
だけど、どちらの意見も取り入れてくれた折衝案を作ってくれたことに感謝する。爺さんの作ってくれた板材をダンジョンマスターのスキルで複製召喚する。
子どもたちはおやつを食べながら、俺とスライムたちの作業を見ていた。俺の分も残しておいてくれよな!
全部の作業が終わり、休もうとしたところに、
「上り下りするところはいいが、ウッドデッキの縁には柵を作らんのか? シンラとか飛び降りるんじゃないか?」
そう言われて、ウッドデッキが完成したと満足しそうになっていた俺は、作業続行を決める。
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