1967話 気にし過ぎていた
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助けることは決まったが、どうやって助けるかは……助けてから決めると言った感じだ。
どうせ一度は捕らえるので、バザールに魔法版フラッシュバンスタングレネードを、先制攻撃で使ってもらう。
相手は何かすると思ったのだが、何をするか迄は分からず防御態勢をとることしかできていない。それでは、音と光の濁流は防げないぞ。俺たちの周りには、バザールが張ってくれた結界があるので、影響はない。こんなところで自爆するバカはいないよな。
バザールだけなら、光も音も効かないのだが、俺たちは生身なので守ってもらっている。
予想できた人間はいなかった。この場に残った8人+3人は、大音量と光の洪水で気絶するまではいかないが、まともに立っていることができない位には、三半規管や視力に影響が残っている。
俺は実際にくらったことが無いので分からないが、ライガの話では、数分間は目が見えず耳も聞こえなくなり、頭の中がグラグラする感覚に陥るそうだ。魔法がすごいのか、それに耐えられるライガがすごいのか……明らかに後者だな。
くらった理由は、護衛対象がいる時に不意に使われた場合の対処を考えるために、自ら志願して何度も魔法の的になったそうだ。肉体の構造はライガも普通の人も同じなので、体に直接ダメージを与える攻撃ではなく、光や音といった絡め技は同じように効果がある。
効果があるのに、目が見えなくて音が聞こえなくて頭がグラグラするのに、ライガは動くことが可能らしい。肉体の性能が、俺とは違う意味で段違いなのかもしれない。平衡感覚を失っても、まっすぐに立てるという矛盾が成立しているからな……
あ。目が見えなくても戦闘がある程度できるのは、俺や妻たちも一緒だからな。それでも、目をやられて耳も潰され、平衡感覚を失っている状態でも戦えるかと言えば……ノーである。ライガと同じ呪いのシュリならワンチャン動けるかもしれないが、俺が試させるわけがない!
そんなことを考えている間に、命令を出していたリーダーを含む8人のグループの方は、バザールがきっちりと命を刈り取っている。あいつの骨は、アダマンコーティングを施してあるので、骨の手で突かれれば簡単に貫通する。
3人の女性は、綾乃謹製の薬で眠らせておく。入り口に向かったのは、予想通り魔法の使える勇者だった。そこに時間操作系の神授のスキルを持っているやつも同行しているそうだ。今のような状況なら、一番の戦力の近くに補給の要を置いておくのは、戦略的に正しい判断だと思う。
魔法の使える勇者の干渉が予想以上に強いらしく、もうすぐしたらエルダーリッチ3体分の魔法の壁を突破しそうだとの事……このまま失うのもバカらしいので、撤退させるように指示を出す。
エルダーリッチが撤退してから30秒も経たないうちに、入り口を塞いでいた蓋は外されてしまった。
対処が終わった一行は、洞窟の奥へと移動を開始した。中にいる仲間を呼びに行くのだろう。戻ってくる通路も塞いであるので、すぐにここへ来ることは出来ないだろうが、出迎える準備はできる。
バザールは入り口近くに体を埋めて待機してもらう。呼吸が必要ないバザールならではの隠れ方だ。隠れているというか化石みたいに埋まっているので、索敵スキルでも見つけることが困難な位隠密性が高い。空洞もなく骨をすべて埋められるので、石の中に異物がなんかあるな……程度の事しか分からない。
それも、石の種類が違えば同じような反応があるので、いることを前提に探さなければ、まず見つけられない隠形の技だ。
自分たちのテリトリート考えてか、何も考えずに俺たちのいる部屋へ入ってきた。正直、この行動を見た俺たち3人は、バカの集団か? と悩むくらいにはバカな行動をとっているな……と頭をよぎる。下準備で色々したし考えてきたが、無駄だったのではないか? と考えてしまう自分がいる。
俺たちの方向を見て何やら怒鳴り始めたが、全員で一緒に怒鳴る聴き難にくい怒鳴り声が更に聴き難くなった。
そんな怒鳴り声をあげている後ろでバザールは、バレないように敵の入ってきた入り口を塞いでいる。
完全に塞ぎ終わった後で、唐突に後ろから声をかけると、全員が振り返る。それを狙ったかの如く、魔法版フラッシュバンスタングレネードをお見舞いする。
全員、あっけないほど簡単に引っかかり、その場にうずくまる。魔法の使える勇者がいるグループと戦闘になった場合は、後先考えずに殺すことになっていたので、間髪入れずにバザールが止めを刺す。
今回バザールが止めを刺しているのは、外では俺たちの方が殺す可能性が高いので、殺せるタイミングがあれば殺すように指示しておいたからだ。
バザールが一歩先に出るが、今日の探索が終わるころには、多少数が縮まっているだろうという考えだ。帰る前に調整すればいいだけだから、こだわる必要もないのだが、いざという時のためにバザールの数を冷やしている。
全員を処理し終わったが、3人の女性をどうするか頭を悩ませる。
「某が、不完全ではござるが、記憶封印もしくは記憶消去の闇魔法を使うでござるよ」
完璧に使いこなせるのはツィード君だけなのだが、闇に属するノーライフキングのバザールは、不完全だが記憶操作の魔法を使うことができるようになっているらしい。
俺たちが知らなかったのは、近くにツィード君がいるので、教える意味もなかったため黙っていたのだとか。ウルに使うには成功率が怪しいので、黙っていたようだ。
記憶封印なら9割ほど成功して、記憶消去の場合は7割ほどの成功率らしい。ウルに使うには、低すぎる。せめて小数点第4までは9が並ばないと使わせられないな。
この女性たちは、本来なら助ける必要もないのだが、助けるからにはその時点での最高を目指すとなれば、記憶操作の魔法を使っても問題ない確率だろう。3人の内2人は助かる計算だからな。
無責任にも思えるが、俺たちができることなんてこんなもんだろう。
それに、こいつらがどこからきているかが重要だ。もし地球なら、そのまま殺せばいいだけなのだが、神の遊戯盤からきているなら、可能な限り送り返してやろう。そう言う形で話がまとまった。
バザールが骨ボディーから生身に見えるように変身した。その際に何故か、漫画に出てきそうな有能な執事風の老人に姿を変えていた。
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