1966話 想定できたトラブル
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さあ、狩りの時間だ! とは言ったのものの、人間を獲物に例えたマンハントはどうなのだろうか? と一瞬だけ思考をよぎるが、神の駒にされてしまった時から、戦うことを半強制されているから今更だと思うことにした。
実際に、人を探して命を摘み取っているので、マンハントと言われてもおかしくない状況である。地球でこんなことをすれば、極悪犯罪者として判決無しに撃ち殺されても、不思議はないくらいに人を殺しているからな。
地球の法律は届かないし、帰るためには殺さなければならない。ならばやるしかないだろう。
外に食料の狩りに出て俺たちに全滅させられたグループの情報では、最後に残った奴より強い人間がいるとのことだったが、正直なところあまり強いとは思っていない。魔法を使う勇者の称号持ちや、勇者の力が伝播している人間は、確かに厄介だ。
だけど、本当に魔法を使う奴が強いというのであれば、もう少し洞窟に工夫を施したり、仲間の規模を減らす気がするんだよな。自分が万能ではないと分かっているからこそ、協力できる……利用できる仲間を集めたと判断している。
特に、保存に向いた神授のスキルがあるとはいえ、この世界で20人のコミュニティーを維持するのがどれだけ大変か、数日この世界で生活すれば分かるはずだ。そんな世界で質より量を取ったと、俺たち3人は判断している。
狩りに出ていた奴ら程度でも、レベルをそれなりにあげていたり、地球から複製体をコピーして送り込まれた際の強化で、野生動物を素手で仕留めるくらいには、強くなっているからな。そんなのが5人もいるなら発見して包囲すれば、逃がすことは無く獲物をしとめられるだろう。
問題は、神授のスキルを持っているが、能力を隠している奴がいたときだな。
さて、余計な思考は捨てて、敵を狩ることに力を注ごう。
バザールの案内で入り組んだ洞窟を進んでいく。敵に遭遇することなく目標地点集ヶ所に蓋をすることができた。これで俺たちのいる洞窟は、密室となった……部屋じゃないから、密室とは呼べないか?
さて、敵が気付いた様子はまだないようなので、敵が逃げられる範囲を狭めるために移動しては蓋をする。当初目標としていた範囲の半分くらいになった所で、異変に気付いた敵が行動を開始する。
通路がふさがれているのを発見すると、非戦闘員とでも呼べる人間たちが騒ぎ始めた。それを落ち着かせるために、このコミュニティーの上層部の人間がなだめ始めた。
洞窟の所為か、良く音が響いてくる。何を言っているのかも丸分かりなほど大きな声というのもあるが、大きな音で威圧して騒ぎを収めようとでもしている感じだな。
敵のグループが、2つに分かれた。おそらく入り口側に向かったグループは、魔法を使える勇者のいるグループだと判断する。蓋をした魔法に干渉されれば、バザールの操っているエルダーリッチが気付くので、そこで最終判断ができるだろう。
もう1つのグループは一ヶ所に集まり、何かしている様子だとのこと。
グランドサーチもエコーも索敵も、正確に動向を判断できるほど精度は高くない。敵の居場所や数は範囲内に入ればわかるが、どういった行動をとっているかまでは、判断し難い。判断できるときもあるが、今回はそうではないようだ。
一ヶ所にまとまってくれるのは、こちらとしてはありがたい。通路に蓋をしながら、進んでいく。
直線距離で50メートルに入ると、敵の動きが変わる。まだ入り組んでいて、実際に移動する距離なら150メートルは必要であろう距離なのだが、索敵の範囲内にお互いが入ったのだ。
それにより敵が侵入していると、本格的に理解したようだ。声が聞こえてきているから、分かる内容でもある。洞窟の中だと、150メートル離れていても、聞こえるもんなんだな。初めの騒ぎの時は、500メートルは離れていたのに、聞こえていたけどな。
洞窟でも、これだけ響き渡るのは……おかしいんじゃないか? 神が作った物であれば、何か仕掛けがあるのかもしれない。
先ほどは非戦闘員と言ったが、この世界に送られてくる人間だけあって、それなりに戦闘をできるはずだ。リーダーの指示に従って、迎撃態勢を整え始めている。
俺たちからすれば、異変を感じた時点で迎撃態勢に入るべきだと考えている。もし敵がいなくても、安全を確保できる手段があるのであれば、ためらわずに準備するのが危機管理だ。
温い戦争か、俺たちの世界みたいにウォーゲームの様な戦争しかしていなければ、こんなものだろう。そう言う意味で危機管理能力が高いのは、冒険者の方だろう。危険を冒す冒険をするような奴らは別だが、堅実に実績を得てAランクになったような冒険者なら、俺たちと同じような行動をとるはずだ。
生温い戦争でも、レイリーの様なイレギュラーは何処にでも存在するが、考えるだけ意味がない。現状を考えれば、そのイレギュラーは存在していないということが明白だからだ。
敵の逃げる道は無くなり、入口へ行ったグループとの分断も完璧だ。
索敵で分かっていたが、グループから3人が前に出されている。リーダーの命令によるものだが、前に出されている3人には、生気の色が見えない。生ける屍の様な状態だ。
それも見れば理由は一目瞭然。このコミュニティーの男共の性欲を、3人で受け止めさせられていたのだろう。今は見る影もないが、きちんとしていれば美人に違いない。どういう経緯でこのコミュニティーにいるのか分からないが、様子を見る限り現状は本人たちの意思は無視されていそうだ。
さて困った。全員がくそったれな野郎であればよかったのだが、被害者とも呼べる女性が3人……自分の意思ではなく、強制されて戦闘をしようとしている感じだ。洗脳などの類ではないだろう。
ライガとアイコンタクトを取ると、ライガは大きく頷いた。
この時点で、俺たちは目の前の3人の女性を助けることが決まった。
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