1965話 常識がズレていく
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ライガがジャングルの中で奇襲した内の1人は、当たり所が悪かったようで、情報源としてバザールが治療する前に死んでしまったのだとか。今回の奇襲で2人は殺しているので、情報源になる敵は2人しか残らなかった。
しかって……
「シュウ様、苦い顔をしてどうなさったのですか?」
「殺すことに忌避感を覚えなくなったところまでは良いんだけど、俺が情報源になる人間が5人の内2人になっただろ? そのことに対して、2人しか残らなかったって考えた自分に若干嫌悪しているところだ。良くないとは思うけど、そう考えてしまっている自分がな……」
「気にする必要は無いと思うでござる。むしろ、2人も残ったというべきでござろう。これから、こやつらがされることを考えれば、死んでいた方がましだと思えるでござるから、死ねた人はラッキーだったと考える方が建設的でござる」
死んでしまったことを悔やんでいるわけではなく、情報源が減ったことを悔やんでいるのが嫌だって言っているんだけどな。こいつらのされることを考えれば、確かに死んだほうがましだと思わせる何かはあるな。
バザールとライガは、1人ずつ引き摺って俺から離れていく。悲鳴は聞こえるが、情報を喋っている時の声は聞こえないように工夫するそうだ。
俺は、悲鳴を聞いて洞窟から現れるかもしれない敵の迎撃態勢に入る。バザールが入り口を監視しているので、報告を受けてから体制を整えても問題はないのだが、気分の問題もあるので警戒を始める。
時々、森の中にこだまするような悲鳴が聞こえるが、それ以外はいたって平和だ。2人の搾り取っている情報は、逐一バザールから報告があるので、矛盾がないか考えるのも俺の役割だ。
10分ほどで、引き摺られていった2人は、真っ白に燃え尽きたような表情をして、口の端から涎を流している。どんなことをされていていたのかも分かっているので、耐性の無い人間であればこうなっても仕方がないと思う。
得られた情報は、
・洞窟は探索が済んでいないほど広い。
・洞窟の中では、20人ほどのコミュニティーを作って生活している。
・戦闘系は自分たち以外にも、拠点防衛のために3人残しており、その3人はこいつらより強いらしい。
・食料に関しては、現地で調達しているのだが、勇者の1人が非生物の時間を止めることができる能力を持っているらしい。そのおかげで、捕らえた獲物を腐らせることがないのだとか。
・魔法を使える人間もいるので、飲み水や生活用水などには困っていない。お風呂も毎日入れるそうだ。
大雑把に要約すれば、この5点が重要な情報だろう。
思ったより人が多かったのと、神授のスキルで時間停止系の能力の持ち主がいたこと、バザールやロジーみたいに人間じゃないやつが、魔法を使えるという事実が俺たちの表情を崩させる。
話の内容から、食料を保存している勇者と、魔法が使える勇者は別だと分かる。おそらくだが、魔法の使える勇者は、神授のスキルが魔法関係のナニカなのではないかということだ。
魔法勝負でバザールが負けるとは思わないが、勇者の称号が厄介だから困るんだよな……勇者の魔法って、ダンジョンマスターの魔法を簡単に相殺するんだよな。しかも、格下の魔法で完璧に相殺しきるので、魔法戦は肉弾戦よりリスクが高い。
「そう言うことでしたら、魔法の相手は自分の領分ですね。護衛対象を守りきるためには、遠距離攻撃をどうにかしないといけないという、シチュエーションが沢山あるので、得意分野だと思います」
ライガが自信たっぷりに宣言する。
弓矢があればもっと違う作戦を立てられるのだが、今は足りないものが多すぎるので、ここら辺の対応が限界なのだ。
昼には戻らない予定だったらしい。そこで俺たちが入り込めば、警戒度が上がるか? 夜になってこいつらが戻らなければ、どっちにしろ警戒されるか。それなら、早めに攻めるべきだな。
バザールの誘導で洞窟の前まで移動する。俺たちが移動している間に、中にいた数名が外に出てきて、ストレッチなどをして洞窟の中へ戻っていったそうだ。
いくら広いとはいえ、長時間洞窟の中で過ごしているのなら、気が滅入っても仕方がないかもな。俺たちは、食事や模擬試合でしっかりと発散したし、バザールに関しては百年単位でゴーストタウンを守っていたから、精神的には植物並みにしぶといと思う。
俺たちの立てた作戦は、こうだ。
突入するときに自ら出口を塞いで、バザールが風魔法を使って洞窟の全貌を把握する。どれだけ広いか分からないので、必要な範囲が分かってくれれば問題ない。合わせて、グランドサーチで洞窟の形と敵の位置を正確に把握してもらう。
俺たちが狙っているのは、奥に逃げる通路を塞ぐことだ。一気に駆け抜けて、逃げれなくなるように通路を塞ぐ。最後に追い詰めた所で、魔法版フラッシュバンスタングレネードを使ってもらい、一網打尽という手順だ。
魔法使いが前に出てきたらライガが対応して、近付いてくるやつは俺が対応する形だ。
今回は、バザールの見せ場が盛りだくさんである。あまり活躍できていなかったので、機会があれば活躍させてほしいと言われていたので、今回の作戦の中心を担ってもらうことにした。
個人的に言えば、俺以上に活躍しているのに、これ以上俺の仕事を取らないでくれ! と言いたいところではあるが、お互いの認識がズレているので、平行線をたどって終わりである。
ちなみに、ここに来る前に涎を垂らしていた2人は、苦しまないようにバザールが殺している。拷問で情報を引き出されるときに、十分に苦しんでいるので、一思いにやっている。
洞窟内には罠を仕掛けていないと言っていたが、あいつらがいない間だけ仕掛けている罠があるかもしれないので、注意して中を見る。
目に見えるような罠は無い。バザールのグランドサーチでも、罠らしきものは見当たらない。ここで一番注意するのは、罠系の神授のスキル持ちがいた場合だ。拷問した2人はそんな奴はいないと言っていたが、仲間にも能力を隠していることになるので、もしいた場合は注意が必要だ。
入り口付近には見張りもおらず、侵入してくださいと言わんばかりだな……一番近くで、少し入り組んだ先に動く気配があるとバザールが教えてくれた。索敵にかからないので、直線距離で50メートルは離れていることになるな。
洞窟の中に入り、バザールが入り口を塞ぐ。魔法でガッチガチに固めた後、外に配置しておいたエルダーリッチたちに、継続して強化をさせているので、勇者でもさすがにすぐに解除することは出来ないだろう。
さあ、狩りの時間だ!
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