1944話 強敵
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敵がギリースーツを着ていて自然の多い所では、俺の気配察知の精度は無いに等しかった。ここで索敵スキルをしっかり使っていれば、こいつに気付けたのかもしれないが、ライガが敵を見逃すとは考えていなかったので、油断していた。
気配を殺すのはもちろん、こいつはライガの鼻を誤魔化せるだけの能力か体質の持ち主なのだろう。この世界に来て、驚かされることが多かったけど、今回は特上だな。忍者どもの不意打ちだって、嫌な気配で回避できていたのに、まともに攻撃をくらってしまったのだ。
もしこれが毒による一撃なら、俺は死んでいたかもしれない。この森にすぐ使える毒に関する動植物がいなくて、命拾いしたな。ジャングルには、危険な植物も多々生えているから、地球みたいな環境だったらアウトだったかもしれない。俺たちが知らないだけかもしれないが……
相手は1人か? それとも複数なのか? っ! 索敵スキルを発動させる。感じられるのは、ライガとギリースーツを着ているナニカの2人だけだった。少なくとも50メートルの範囲内には、俺を含めた3人だけだな。
「ライガ、周囲50はクリア。敵は複数を仮定、目の前の敵を全力で排除する」
そんなことを言わなくても、ライガも周囲50メートル内には俺たち以外いないのは分かっているが、目的を明確するために声に出した。俺たち以外がいたとして、牽制の意味も込めている。
ライガは、俺への攻撃を見て毒物は無いと判断したのか、大胆に近接格闘戦をしかけた。
圧倒的なパワーとスピードで、ギリースーツのナニカを圧倒するかと思ったが、ライガの攻撃が当たっていない。
拳は躱され、胴体を薙ぐような蹴りも躱されている。
攻撃の気配を察知しているのか、距離の取り方も躱し方も完璧だ。身体能力に物を言わせれば、俺にもできなくはないが、明らかに劣っているはずのナニカは、完璧に躱して見せている。ライガに隠れて投げているナイフも、当たることなく空を切る。
今まで遭遇してきた奴らとは、次元が違うことをライガも感じ取っていた。本気のレイリーを相手にした時の様な、嫌な空気が漂っている。
ここにきてやっと俺の認識が現実に追いついた。
ライガに気付かれず、俺も攻撃された後に姿を見るまで、何が起こったのかを理解できていなかった。敵がいることを把握し、反撃に出るのは間違っていないと思っていた。
ここまでできる奴が、俺たちより強い可能性があることを、周回遅れの頭がやっと認識したのだ。
「ライガ、撤退だ。山の上に走るぞ!」
もしかしたら勝てるかもしれないが、エリクサーなどを潤沢に準備できる俺たちの世界ではなく、不確定要素だらけのこの世界で、無意味に冒険する必要はない。いや、してはいけないのだ。
どちらかが怪我をして、撤退できないような状態になる前に、ここは逃げるのが正解だ。
戦闘能力はあっちの方が高くても、身体能力で俺たちを上回るのは無理だ。そこは確信している。何かしらの原因はあるだろうが、それはこの際どうでもいい。俺たちの方が早く動けるということが重要だ。
俺の声に合わせてライガが、地面を強く叩き爆発させる。
相手の虚を突いた動きをして、その場から一気に頂上へ向かって走り出す。
ギリースーツは、移動するのには向いていないようだ。相手も追いかけてきてはいるが、距離は離れていく一方だ。相手が完全に見えなくなって、10分ほど走ってから方向を変えた。ギリースーツのナニカを迂回するかたちで拠点に戻るコースだ。
逃げている間にバザールに、何体かサイレントアサシンをつけるように言っておいたので、今後の動向は筒抜けだな。盗聴器も真っ青なバザールの万能さである。
それにしても、あいつは何だったのだろうか? 全身くまなく隠れていたので、鑑定をかけられなかったのだ。地球人なのか、ダンジョンマスターなのか、勇者なのか……戦闘能力が高い、こちらの認識を誤魔化せる技術か、それに相当する何かを持っている……くらいしか分からなかった。
見張らせているバザールからも、新しい情報を得られていない。
俺たちを見失ってからは、元居た場所に戻ったようだ。
神共は、本当に何がしたいんだ……俺をなんとかしたい勢力がいるのは分かっている。チビ神が煽るように行動するのも、敵が増える原因の1つだろう。
合流できた俺たちの中で、ウルを除いて一番制限がきついのは俺だ。ダンジョンマスターのスキルと魔法が使えないので、鍛えた通常のスキルだけが俺の命綱だ。
同じダンジョンマスターのバザールとロジーは、種族特性のためか魔法が使える。神授のスキルを持っている綾乃とライガは、問題なくそのスキルを使えている。捕らえた女を犯していた勇者も、神授のスキルを使えていたな。
今の状況を考えると、ただのダンジョンマスターには、かなり不利な状況だといえる。普通ならダンジョンマスターは、俺みたいにカンスト間際までレベルをあげたりしない。レベルにまでDPを回す余裕がない奴らが大半なのだ。
そのことを踏まえて考えると、ダンジョンマスターに特攻のある勇者は、結構優位にあると考えられる。
地球からの人間も、強化されて送り出されているうえに複製体のようで、頭数が多い。本人たちは、本物か複製体なのかを認識できていないが、神たちから見れば使いやすい駒ということだろう。
ピンポイントに俺を弱体化させるシステムばかりで、俺が狙われていると思わせるのが、このゲームの狙いなのでは? とミスリードを疑ってしまうレベルだ。
それ以外にも思うことはある。一番質が悪いと思うのは、食料になる物がこの世界には少なすぎるという点だ。動物はいるが、狩猟だけで生活できるほど甘くない。肉は腐るし、火を通すなら煙が上がる。リスクばかりに目が付く。
普通の森の中には、キノコなどが生えていたが、食べられるものなのかは不明だ。死にはしないが、体調不良になる可能性は、大いにあるので口にすることは出来ない。根菜類なら食べられるものがあるかもな。
余計なことを考えている頭だが、索敵はしっかりと行っており、先ほどの様な無様をさらすことは無いだろう。
拠点に辿り着いた俺たちは、遭遇した変な奴について話し合いをすることにした。
得られた情報もなく、バザールも追加で情報は得られなかったので、すぐに解散となった。でも、1つ決まったことがある。対象が眠りについたと判断したら、サイレントアサシンを使って殺すというものだ。
数がいるので、もし失敗して殺されても、痛手にならないサイレントアサシン君にお願いした。
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