1939話 増えんな
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加速した意識の中で俺は、今回の神共の遊戯で何がしたいのかが、まったくわからない。何で忍者?
危機を回避して安心している自分がいるのか、少しずれた思考をしているのが分かった。意識を忍者の格好をしている人間に向ける。不意打ちじゃなければ、何とかなる!
俺は忍者の格好をした奴に集中する。
右手には……短刀だろうか? 何かを持っている。俺は体勢を低くして、四足歩行獣のように手を地面へつけた。武器を持っていたらこんな格好は出来ないが、今は回避をすればいいからこの体勢で問題ない。
短く一気に息を吸い、ユックリと吐く。忍者の動きがない。こいつは何がしたいんだ? 待て待て、余計なことは考えるな。敵をよく見ろ、余計な思考はするな。
視界が広くなったわけではないのだが、加速した意識の中視界の外から何かが近付いてくるのが見えたのだ。普通ならありえないのだが、その時にそんなことを理解することは無かった。
位置にすると、俺と忍者姿が対峙している状態で、右後方から何かが飛んできているのが見えた。進行方向だったはずなのに、発見することができていなかったのだ。手で地面を砕く勢いで突き飛ばした。
両手をついていない状態だったら、結構ギリギリの回避になっていた可能性が高かった。
後ろに飛ぶと同時に、昨日作った麻痺毒の投げナイフを2人に向かって投擲する。
気配だけで投げた右後方への投げナイフの先を見ると、そこにも対峙していた奴と同じ姿をした忍者がいたのだ。思わず分身かと疑ったが、魔物のドッペルゲンガーでもない限り、それは無いだろうという思考に辿り着く。
となると、こいつらはここにきて合流したか、もともと同じ所へ移動してきたかのどちらかだろう。俺とライガたちみたいなものなのだろう。
2人だけだと判断するには早いので、他にも複数人が潜んでいると仮定して動こう。
そんなことを考えていると、加速していた思考が徐々に戻ってきている気がする。さっきくらいの攻撃であれば、加速していなくても回避は可能だ。不意打ちに注意が必要だな。
挟まれた状態で戦闘するのは、良くないので2人が視界に入る位置取りをする。数の有利のある忍者たちは、俺を挟むように動く。二対一ならそう動くよな。注意を散らし、隙をつきやすくなる配置だ。3人目以降がいるとすれば、左右か頭上だよな。
完全に挟まれないように距離を取りつつ移動する。
投げナイフを取り出し両手に持って、木を一気に登っていく。勢いをつけた状態で木を走って登り、15メートルほど登ったところで勢いがなくなってしまったので、ナイフを刺し腕の力を使い近くの枝へ乗り移る。
おそらく殺すだけなら簡単なのだが、地球からきていると思われるこいつらからは、こっちにいつ来たのかを聞いておきたいんだよな。
バザールに小声で、もし俺が無力化が難しそうだったら、サイレントアサシンに足首を切断するようにお願いし、合図を決めた。
「さて、いきなり襲ってきた忍者姿のあなたたちは、何者かな?」
答えを期待しての問いではなかった。
「お告げを聞いた巫女のため、この地に住む悪党どもを始末する者だ」
まさか返ってくるとは思わず、少し呆けてしまう。
こいつは何て言った? 巫女がお告げを聞いたって言ったよな? 地球でお告げを聞ける人間がいて、そいつの命令でこの地に派遣されたってことか? 地球からの人間は、ある程度自分の意思で来れるのか? 服生体がこの地に来るだけ……というのであれば、志願する人間は多いか?
また、一気に分からないことが増えやがった!
「お告げね……そんな超常現象を信じる、オカルト集団から派遣された戦闘員ってところか? 何で忍者姿なのかは理解に苦しむが、あれは大名や領主に使える裏の人間だろ? 巫女とか宗教的なものとの繋がりは無かったと思うが?」
「私たちは忍者ではない。忍術使いだ」
「違いが分からんな。自分たちの身分を話すとは思わなかった。忍者ならそんなことはしないよな? いや、人じゃというだけならありなのかね? でも、巫女のためとか言って、自分たちの所属団体を特定されるような情報は、普通言わないか……」
「忍者は、お主が言ったように地位の高い人間の裏の仕事をやっているが、忍術使いは技術を引き継ぎ里のために活動している者の総称だ。忍者は、里から地位の高い者たちへ派遣されているのだ」
俺の知っている忍者や忍術使いとは違う気がするが、忍者の里があってそこで修行している者が忍術使いで、里から派遣されている者が忍者ってことか?
「お前らの行動は、里のためになると……そう言うことなんだろう。だけど、巫女にお告げか、どっちにしろ超常現象を信じる、オカルト集団には変わりないってことか。忍者でも忍術使いでもどっちでもいいか、そのお告げが俺の知っている神たちからの物ならば、俺たちをどうにか殺そうと画策しているってところか」
1つの仮説が浮かんだ。ターゲットが俺だけなのかは分からないが、地球から送り込む人材で殺せるかの実験だと思う。明らかに強化をされていて、あいつの話ではこの地にいる者がターゲットになっているのだから、実験的な要素があるんじゃないか?
実験だったとして、どうやったら帰れるのか不明過ぎて困る。
……待てよ、終了条件が個人で何人殺す、みたいな内容だったらウルたちが困ったことになる。
「バザール、ライガに殺すのは止めるように伝えてくれ。遭遇したら瀕死にして、シャドウアサシンで拠点の近くまで運んでくれ。理由は終わってから話す」
もし特定人数を殺すことが帰ることのトリガーとなるなら、ロジー・ウル・綾乃を先に帰らせたい。実験でウルに殺しをさせるくらいなら、綾乃にお願いしたいところだな。もし違っても、綾乃なら多分問題ないからな。
っと、3人目発見。上手く隠れていたが、俺の移動が早かったせいか、隠れきれなかったのだろう。木の天辺近くを、見つからないように移動していたのを発見した。
枝を飛び移りながら、上に移動していく。慌てた3人目が逃げようとジャンプしたところで、ナイフを投げた。回避できないタイミングを狙い投げたナイフは、的確に3人目を捉え肩付近に刺さる。
着地には成功したが、麻痺毒で上手く動かなくなった体が、枝から落ちた。
仲間を助けるかと思ったが、無視してこちらを攻撃しようとしたため、こちらが慌ててしまった。1人くらい死んでも問題ないと思うが、出来るだけ確保したいというのが俺の気持ちだ。
助けるといっても、そのまま落ちると首の骨が折れそうだったので、地上に落ちる前に横から攻撃をくわえ、地面に転がるように吹き飛ばした。受け身も取れず吹き飛ばされた3人目は、重傷を負っていそうだな。
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