1927話 もう少し
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やはりと言っていいのか、異変の原因はこちらに向かってきているようだ。感覚的なモノなので、音がするとかそういう訳ではないのだが、確実にナニカが近付いてきているのは分かる。それも、結構な強さを持っているナニカだと思っている。
強者の気配と言えばいいのだろうか? 感覚的なモノなので、言葉にしにくいな。
これは、ゲームでよくある、ダンジョンの中などで出てくる、グリムリーパー的な反則的に強い魔物みたいな奴じゃないよな? フル装備でもないし魔法が使えるわけでもないのに、そんなインチキな裏ボスキャラ的なヤツを相手にするのか……?
ヤバいな、移動している音が聞こえてきた。ということは、かなり近い位置にいるってことだよな……覚悟を決めるか?
ナイフを右手に構え、集中する。意識を深く沈める。深呼吸して、自分を落ち着かせる。
移動してきているモノは、人型みたいだな。かなり速いスピードでこちらに向かってきている。獣人か? 俺よりも身長は高そうだな。
ふぅ。
「シュウ様! どこですか~」
と、大きな声が聞こえてきた。俺の事を知っているのか? それより、どうやって見つけたんだ? 誰だ?
「シュウ様! 俺です、ライガです! どこですか?」
おっと、お前か? 本当にライガだ。木から飛び降り、ライガの見える位置に下りると、猛烈な勢いで近寄ってきた。
「匂いがしたんで、いると思いました! 会えてよかったです! というか、ここはどこなんですか?」
こいつ、俺の残り香のようなものを嗅ぎつけて、俺を追ってきたみたいだな。
ロジーを呼んでから、ライガに分かっている範囲で、現状を説明する。
「それより、お前、ダンジョンマスターでも勇者でもないのに、何でここにいるんだ? もしかして、俺の考えが間違ってたか?」
「あれ? シュウ様は知らないんですか? 自分ちょっと前に、何故か勇者の称号を得たんです。綾乃さんやバザールさんは、現地産勇者だ! とか騒いでましたけど……」
俺が知らなかっただけで、ライガはいつの間にか現地産の勇者として、称号を得てしまったようだな。
「そうだ! 移動している間に、覚えのある匂いを嗅がなかったか?」
「ん~ウルお嬢様に似た匂いがあった気がしますが、シュウ様の匂いは、はっきりわかっていたのでこっちに着ました」
「先に俺より、ウルの匂いの方に行けよ! 匂いのした場所まで戻るぞ、走れ!」
全力でウルの匂いのした場所まで走るように指示する。匂いのした場所は、俺が降り立った場所から、川を挟んだ反対側からのようだ。ライガは、方向的には川下側から移動してきたようなので、川から大体45度の角度で離れるようなコースを進んでいく。
走っている途中で、ライガが遭遇した人間について聞いてみた。どうやら、2人は見つけたようだが、急いでいたので無視をしたそうだ。匂いで言うと、20人くらいは匂いがあったとか。
結構な数が来ているみたいだけど、本当に何が目的なのかが全く読めん。
まさかライガと合流できるとは思わなかったけど、これはこれで……
「少し問題があるかな……」
思ったことを、つい口に出してしまった。
俺の言葉を聞いたライガが、
「俺、何かいけないことしましたか!?」
半べそをかいて、俺の事を振り返った。しまったな……口に出すつもりは無かったけど、言ってしまったのは拙かった。
「いや、そうじゃなくて。ライガは英雄症候群だろ? 戦力としてはかなり頼もしいから問題ないんだけど、今は急いでいるから、食事の事が心配でな。本当にすまん、何が悪いってわけじゃないんだ」
「あ~、そう言うことですか。それなら気にしないでいいですよ。自分が食料調達できますんで、何も問題ありません」
「????」
匂いの索敵とステータスゴリ押しによる狩りか? 俺が悩んでいると、また走り出して、
「あれ? 知らなかったんですか? 自分、食料を生み出す勇者のスキルを貰ったんですよ。シュウ様たちは、食料に困らないだろうからということで、食料しか生み出せない勇者のスキルを誰に継承させるかって悩んでたらしいんです。
ディストピアでは収納の箱などのおかげで、常時新鮮なものが好きなだけ手に入りますよね? 引き継げる人で、食事に困る人もいなかったみたいですし。自分、よく食べるじゃないですか。なので、レイリーさんの推薦を受けて、スキルを貰ったんです」
なるほど、そう言われてみると、俺の周りで食事に困っている人間なんていないな。シュリでもよかったかもしれないが、シュリは俺の妻だし食事は腕輪の中に色々入ってるからな。それなら、ライガの方が有用に使ってくれそうだな。
「給金をたくさんもらっているとはいっても、母や妹に苦労させたくないから、もしもの時のために貯金をしてますし、たくさん食べるので質より量になってしまうんですよね。あのスキルなら、魔力次第で無限に食事を出せるんで、節約にもなって助かってるんです!」
ライガって、母親と妹のために自分を売り込んできたんだっけ? 家族思いの子だったな。今じゃ頭1つ以上俺よりでかいけどな。
それに、レベルをカンストさせてるから、魔力は有り余っているだろうし……食事の心配をしなくて済むのは助かるな。
「ライガ、マジで助かった。ウルを見つけたら、何が召喚できるか教えてくれ」
「分かりました。それと、ウルお嬢様の匂いらしきものが少ししてきました。少し方向を変えますね」
匂いの近くなる方へ移動を開始した。方向的には、川から垂直に移動している感じかな? すでに俺の降り立った位置から、10キロメートル以上離れているだろうな。移動距離はフルマラソンを越えたかね?
時々方向を変えてはいるが、川から離れる形で進んでいる。俺とライガの位置より、ウルとライガの位置の方が遠かったのかね。川を挟んでいるから、ウルの方が近かったんじゃないかと思ったが、そうでもなかったんだな。
「シュウ様、止まってください。ウルお嬢様の匂いが強くなってきて近付いているのですが、ウルお嬢様の近くにもう1人と言っていいのか、不思議な匂いのする何かがいます」
「ウルがすでに誰かに見つかって、捕らえられている可能性があるかもしれないのか……」
「ちょっとそこまでは分からないです」
「すまん、無理を言ったな。一応確認だけど、血の匂いはしないよな? 良かった。ひとまず、大きな怪我はしていないってことだな……ライガ、方向だけ指示をくれ。後は気配を抑えて俺に付いて来い。ロジー、少し高めに飛んで上から偵察よろしく」
ロジーは、ライガからお菓子を貰って、ご満悦な顔をして飛んでった。うん、明らかに日本の物だったな。あの勇者が召喚していたのも、日本の弁当だったしな。どんなものが召喚できるか、確認しないとな。
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