1898話 娘たちのセンス
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「ミーちゃん、スーちゃんは、オーガ2匹を引き付けて遅滞戦闘。ムーちゃんは、1匹を引っ張って私と集中攻撃で落とすよ。離れ過ぎないでね! リジェネ!」
戦闘開始前にウルの指示が飛ぶ。リジェネは持続的に回復する魔法だが、この時に使ったのは疲労をためない工夫だろう。俺たちは使わなくても問題ないが、戦闘におけるスタミナの消費は激しい。普段通りやっていても、何割増しかで消費してしまう。それは俺たちでも変わらない。割合と最大値が違うだけだね。
前衛の3人は指示された通り、オーガを2と1に分けた。ミーシャとスミレの方は一撃離脱を心掛け、オーガの膝にダメージを蓄積している。
それに対してブルムは、自分の戦いやすい距離で戦っているな。いつの間にか棒をしまって両手に、少し幅広で突き出す部分が尖っているナックルダスターを装備していた。小指側に短いナイフ状の物も付いており、刺したりもできるようだ。
何で持ち替えたのか気になったが、戦い方を見てすぐに理解した。
オーガは大きい2メートル半から3メートルはあるだろう。それに対してミーシャは110センチメートルほど、スミレとブルムは100センチメートルほどだ。ちなみにウルは、125センチメートルほどだ。
近くでまとわりつき、超至近距離で戦っているのだ。体が大きいオーガは武器を使えなくなり、武器を捨て捕まえようにも、近過ぎて捕まえにくいのだ。三対一の時にこれをしなかったのは、3人で近付けばお互いが邪魔になるからね。長い武器で戦ったのだろう。
基本的に膝を中心に狙っているが、ナイフの部分を上手く利用し、細かい傷をたくさんつけている。
ウルはブルムの動きに合わせて、魔力節約を意識して小さなストーンバレットで、関節などを中心に魔法を当てている。
先ほどよりステータスが高くなっているようなので、一人頭のダメージ量が多いな。途中で反撃される場面もあったが、苦し紛れで力のない反撃をしっかりと防御して、ダメージは無い。
ブルムの担当していたオーガは、ほどなくしてドロップに変わった。
ブルムはそこで一度止まり、周りの様子を見ている。ミリーにオーガに集中していいと言われているが、不意打ちを警戒しての行動と思う。
「ムーちゃん、武器を持ち換えて手前のオーガをミーちゃんと一緒に攻撃。スーちゃんは1人だけど、今まで通り遅滞戦闘」
ウルの指示が飛ぶ。ミーシャとブルムで先に1体を倒すみたいだな。先ほどと同じで2人が膝にダメージを与え、ウルがサポートで上からの魔法攻撃だ。
さて、ミリーはオーガに集中していいと言っていたが、ここに1体魔物が近付いてきている。索敵の範囲外だが、俺の位置から視認できているだけで、ウルたち4人はまだ気づいていない。
ミリーもスパルタだな。出てきたところで、戦闘の教材にされるため、スライムたちに捕らわれるのだろうけどな。
娘たち以外は気付いているので、ミリーはコッソリとスライムたちに指示を出している。危険になりそうなら捕らえるように……木の上からね! みたいな感じだ。指示に従って3匹のスライムが、ウルたちの死角から木に登っている。
「ムーちゃん! 離れて! 周囲を警戒して! 何か音がする」
おぉ~ウル凄いな。俺たちでも意識しないと聞こえない、戦闘以外の音を聞き分けている。ウサミミは、やっぱり耳がいいのだろうか。索敵の範囲外……まだ50メートル以上離れているはずなのにな。
ミーシャとウルの火力が上がった。少し無理しても、早めに1匹倒しておきたい感じだな。ミーシャの渾身の突きが膝の正面に入った。立ち上がれなくなったオーガは、ミーシャにボッコボコだ。
ウルとブルムが周囲を警戒する。
初めに気付いたのは、近付いてきた魔物の一番近くにいたミーシャだ。索敵に引っかかったのだろう。オーガを叩きながら、
「ウー姉、11時の方角!」
ウルから見て、大体の方角を叫んだ。
「ムーちゃん、11時の方角へ移動。何体いるか確認して! スーちゃん、そっちだと接近してきている魔物に近いから、引きながらミーちゃんと合流。倒れている方を先に処理して。私は少し前に出る!」
ウルが武器を交換しているな。弓だ。少しゴッツイコンパウンドボウだな。俺が知らない武器なので、綾乃を見てみる。どうやら正解だな。地球の武器を参考に、レッドドラゴンなどのSランクの魔物の素材を使い、クリエイトゴーレムで作成した弓だった。
しかも動力もあるようで、Sランクの魔核が使われており、かなりの威力になるらしい。
この子たちの使っている武器は、シングルの冒険者も裸足で逃げ出すほど高価だな。素材があっても加工できる人間がほとんどいねえけどな……
ミーシャの担当していたオーガがドロップに変わり、最後の1匹に2人の攻撃が集中する。
「ムーちゃん、私が先制攻撃する。継続して、周囲の警戒をよろしくね」
ウルと近付いてきている魔物、こいつもオーガだな。あの巨体が動けば、それなりの音を出すだろうが……他の魔物との戦闘中に、実戦経験のほとんどないウルが気付けるものだろうか? こればっかりは、センスなのかな?
戦っている場所は森の中、距離はおよそ30メートルほどだろうか。ウルは赤黒い、レッドドラゴンコンパウンドボウとでも呼ぶ武器を引き絞る。おや? 少し魔法発動の兆候があるな……
ウルの撃った矢は、正確にオーガの右膝に突き刺さり貫通した。あちゃー、威力が強すぎて貫通しちゃったか。もったいない。綾乃を見ると、やりすぎた! って顔してるしな。
こういう場合は貫通して抜けるより、刺さった状態のままの方が行動阻害の効果は高い。ウルも初めて魔物に使うから、どれだけ威力が出るのか理解していなかったのだろう。少し手加減して撃てば、貫通しないと思うぞ。あ~でも、その貫通力はゴーレムに有効かもな。コアを狙った一撃とかね。
貫通したとはいえ膝に矢を受けたので、立つことが難しくなっている。おっと、ブルムまで弓を取り出した。こっちはレッドドラゴンクロスボウだな。威力の調節が出来なくなっている代わりに、ボルトをいろんな種類用意しているみたいだ。
えっ!? 普通は小指ほどの太さのボルト……矢だと思うのだが、ブルムのクロスボウにセットされているのは、普通の太さのボルトを十字に5本並べてくっつけたような形をしている。あれってまっすぐ飛ぶのか?
どうやらボルトを乗せるところに細工がしてあり、サイズの違うボルトでも問題なく撃てるようだ。無駄に高性能なクロスボウだ。そして、綾乃のドヤ顔がイラっとする。
あ~、威力調節できないとかバカ言ってごめんなさい。クリエイトゴーレム製なら、威力の調節可能じゃん。ブルムが数字を言って、その威力に調節される仕組みらしい。
ブルムのボルトが頭に刺さりのけぞる。そこへウルの矢が心臓を的確にとらえる。ドロップに変わり、2人で周囲警戒をしながら、ミーシャたちの方を見る。
突発的な状況で、4匹を倒すことになったが、危なげなく倒せたな。ミーシャたちは、まだ4歳になったばかりだと言うのに……恐るべきセンスかね?
そう言えば、ミーシャたちの成長って、他の子たちに比べると早いんだよね。遅いと思っていたスミレたちドワーフでも、ディストピアの同じ年代の子に比べると、少し身長が高いのだ。ブルムはリンドと同じロリドワーフになるかと思ったが、カエデっぽいドワーフとしては高身長になるのかね?
この子たちって、何種類の武器を使うんだろうか? 気になったので聞いてみると、一通り使えるんだとさ。俺と同じマルチなタイプになるのかね? 一通り使える理由は簡単だ、妻たちが自分の得意な武器を教えてるからだ。娘たちに合わせた武器のサイズでだけどね。
4人が警戒を解いて、ミリーに近付き褒めてもらっている。俺も頭をナデナデ。みんなから褒められてご満悦だな。少し褒めた所で、移動再開だ。
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