1882話 疲れるな……
アクセスありがとうございます。
午後一番は、王国でフレデリクとは反対側に位置する、領主が治療師を攫って、スカルズが制圧したため俺の街になった街へ来ている。ソニエールという街の名前だったのだが、聞いても全く覚えがなかったため、ゼニスが俺の街になった経緯を教えてくれたので思い出せた。
「こいつは、バカなのか?」
俺がそう言いたくなるのも、現状を考えれば分かると言うものだ。
「バカなんでしょうね。戦争ができるくらいの数……500人ほどの冒険者を連れてきて、そいつらを街で好き勝手させたのですから、頭が悪いとしか言いようがありませんね。それも、何とか未遂で済ませられているのは、暗部の皆さんのおかげでしょう」
「まさか、こんなことになってるとはな……で、そこのお前、ここは自分の街だから多少の問題を起こしてももみ消す、みたいなこと言ったらしいな。どういうつもりなの?」
「この街の領主に向かって、その口の利き方は失礼だろ! お前たち、私じゃなくて向こうの嘘を言っている奴を拘束しろ!」
「……もしかして、うちの商会の治療院から治療師をさらったクズの親類か? 大半は奴隷に落ちたって話だけど、回避できた奴がいたのか?」
「私は、この街の正当な後継者だぞ! 早くこの拘束を解かんか! すぐに解いて、あいつらを拘束するなら減給で済ませてやる!」
「おぉ~ここまでくると、面白いな。正統な後継者って、前領主が犯罪を犯して俺の部下が制圧したんだから、この街は俺の物になったんだぞ。国王ともしっかりとやり取りをして、この街は中立地帯に変更され俺の街になったんだからな。何をどうすれば、正当な後継者っていえるんだ?」
「シュウ様、話が通じない人間と話しても時間の無駄です。冒険者たちは、素行の悪いのを集めて連れてきて、暴れさせたんだから犯罪者の親玉として捌けば問題ないです」
ん? 裁くじゃなくて、捌くに聞こえたのは気のせいか?
「護衛として雇って連れてきた冒険者に嘘を吹き込み、好き勝手にさせようとしたのですから、良くても悪くても死刑ですしね。あなたたち、暗部に引き渡してきてください。地下にいると思いますので、よろしくお願いします」
そんなこんなで、2つ目は金の話の前にすべてが終わってしまったかんじだ。
3つ目の街は、1つ目のフレデリクと同じように、街の権利を担保に金を貸したと言っており、書類関係は何故か元帝国の街なのに、王国の形式で書類が作られていて、笑ってしまった。金を貸したと言っている商人は、罰賞のオンパレードで護衛も若干ひいていたな。
Aランクのパーティーが4つで32人と大所帯だったが、戦力的に言えばフレデリクに来た冒険者たちの方が、圧倒的に上だったな。実力主義の帝国の街を奪った人間から奪い返そうとするのに、それだけの戦力じゃ足らないと思ったけどね。
フレデリクのシングル冒険者と同じように、ゼニスが説教していたな。
4つ目は、少し毛色が違った。話の流れは、1つ目と3つ目と大して変わりはないのだが、交渉に来た人間……商人に罰賞が無かったのだ。書類に関しては相変わらず王国形式で、中立都市独自の形式があると言っているのに、書類とサインがあるので! の一点張り。
そして今回の護衛は、フレデリクより上だった。ダブルの冒険者が率いている、クランの主力が総出で護衛に当たっているのだ。俺とシュリ、クシュリナだけでは、制圧に時間がかかる。多少被害は出るけど、制圧は可能ってレベルだけどね。
ただね、このダブルの冒険者が厄介。まさかのレベル500オーバーなのだ。物理に特化しているのか、ステータスアップ系のスキルも習得している。
「サインを見る限り、シュウ様にお貸ししたということですが……こちらに立っているお方を見て、反応が無かったということは、シュウ様の事を知らないんですね。あなたが私の御付きだと思っていたのが、この街の領主のシュウ様なのです」
「そうなんですか? あの時は姿を偽られていたのですね。まったく気付きませんでした。お金を借りるために姿を隠すと言うことはよくあることですので、私が気が付かないのも仕方が無いですね」
「クックック。本物の金貸しだったら、姿なんて偽らせませんよ。徹底的に調べて変装していないかを見極めます。それに、真実の瞳やそれに準ずるものを使い、相手の素性をしっかり調べなければ、そこまでの大金は貸し出しませんね。
もう1つ言いますと……シュウ様は、王国の文字を上手に書けません。読むことは問題ないのですが、書くことは無いので字が上手くないんですよ。立会人もいないみたいですし、金を貸した相手が本当にシュウ様だったと言う証明は出来ませんね」
ゼニスと商人のやり取りが続いている中、俺は
「後ろの護衛の人、話は平行線なんだけど、どうするんですか?」
「私たちは護衛として雇われているだけなので、話の内容には興味ありません。どちらに正義があろうと、護衛としての役割を果たすだけです」
「おぉ、さすがダブルの冒険者だね。カッコいいセリフ! 契約内容までは話せないだろうけど、金の回収を頼まれているわけではなさそうだね。ひとまず、今は敵ではなさそうで安心したよ。敵にならないことを祈ってるよ」
「そちらが、理不尽にこちらを拘束したり、冤罪などを押し付けなければ、敵になることはありませんね。現状は、専守防衛ですから」
「専守防衛ね。確かにその通りだね。そこの商人さん、いくら話しても無駄だから帰ってもらえますか? その書類では、俺が借りたというお金を返すことは出来ません。そもそも、借りていないのだから返す必要も無いです。
まぁ、本当にお金を貸したのであれば、ご愁傷さまです。今度貸す時は、相手を証明できる書類なり証拠を得てから、貸し出したほうがいいですよ。犯罪が成立していないので罰賞は付かないから、真っ当な商売を続けてくださいね」
商人は色々叫んでいるが、このまま居座れば問題になるので、それを理解していたダブルの冒険者は、商人に帰るように促して領主館を後にした。
「ん~あの冒険者って、同じような体験でもあるのかね? 自分の役目を割り切ってて、私情を挟まない感じだったね」
玄関まで見送り、執務室へ戻ったときにポロっと口に出てしまった。
ドガンッ!
屋敷を震わすような衝撃と共に、大きな音がした。俺たちは走り出し、音の下場所を確認しにいく。
先ほど商人たちが帰っていった方だ。そこに砂煙のようなものが立ち込めている。現場へ走り状況を確認する。
通路が大きくえぐれ、怒号が聞こえている。状況が全く分からん!
「全員動くな! 許可なく動いたものは、拘束させてもらう。動くなよ!」
拡声魔法を使い、現場を支配する。魔法を使い煙を飛ばすと、商人とダブルの冒険者とその仲間3人が衛兵とにらみ合っている。
「商人の護衛に問う、何があったか説明しろ」
「護衛対象が通路にあった物を壊し、それを見かけた衛兵が護衛対象を捕らえようとしたので、交戦になった」
ん? こいつ、バカなのか? 遅れてきたゼニスに、現状が理解できなかったので、質問してみると、
「護衛対象が重犯罪以上の罪を犯さなければ、護衛は守る必要があるんです。物損は軽犯罪になるので、捕らえようとした衛兵と交戦になったのでしょう」
なるほど。護衛って、軽犯罪は目をつぶるのか。知らんかったわ。
「オーケーオーケー、状況は理解した。人への被害は? ない、了解。建物への被害は……かなりのもんだな。衛兵、拘束は無しだ。二次被害が出ないように、建物の状態を確認しろ。商人と護衛の皆さんは……あなたたちの借りている宿で、お話ししましょうかね。案内してください」
横を歩いているシュリから、宿の中や周囲にすでに暗部が待機していると耳打ちされた。もし暴れた際の鎮圧要因だ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




