1880話 探り合い
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「ギルマンさん、制圧する前にフレデリクの領主と結んだ契約と関係書類を見せてください。もし、あちらの方が言っていたことが本当であれば、犯罪に加担することになります。それは私たちの契約には入っていません。確認ができない以上、今すぐに動くことは出来ないです」
制圧に動き出すかと構えていた、シュリとクシュリナが呆気にとられている。
どうやら、このシングルの冒険者たちは、グルという訳ではないようだ。半分だまされる形で、契約を結んだのだろう。冒険者ギルドに護衛依頼を出して、借金の取り立てのため危険が高いから、ランクの高い人たちに依頼を出したのだろうか。
「なっ! 危険が高く強引に取り立てる可能性があるから、ランクの高いお前たちに依頼したのに動かないのは、契約違反だぞ! 冒険者ギルドに通報してもいいのか!」
「契約違反も何も、あなたがしている行為が犯罪であった場合、あなたが虚偽申告をして冒険者ギルドに依頼を出したことになります。私たちには、あなたとフレデリクの領主が結んだという契約を確認する必要があります。どちらが嘘を言っているのか、判断をしないといけないのですよ」
かつてフレデリクの領主に頼まれたAランクの冒険者は、偽造……あれは偽造なのか? 奴隷商が作った本物の書類だったけど内容が嘘の書類だったので、帰った冒険者たちには大きな罪は無かったが、今回は書類を確認できていないので、手を出すなら確認しないと犯罪者になってしまう。
ギルマンの話が本当だったとしても、確認ができるまで動かないのは正解なので、冒険者ギルドは何も言わないだろう。むしろ、確認しないで動く方が問題があるな。多分、俺たちが先に手を出すから、反撃要因として連れてきた形だろうな。
冒険者ギルドで、そこまで細かく書類の内容を確認することも出来ないからな。ったく、もう少し厳密に調べてほしいもんだ。
ギルマンが書類をあさって、フレデリクの権利書類と証文を取り出した。
「これが、フレデリクの領主との証文と権利書類だ!」
「……何ですかこれ?」
思わずゼニスが、権利書類を指さして声を出していた。
「何って、フレデリクの権利書類じゃないか!」
「ありえないでしょ。なんでフレデリクの権利書類が、王国の書類形式で作られてるんですか? どう考えてもおかしいです。最低でも中立地域での書類形式で作りますし、ディストピア系列には、独自の書類形式があります。その書類は偽造ですね」
「なっ! 王国の領地内にあるのだから、王国の書類形式で作られているのが常識です! 勝手に書類形式を変えるなんて、王国への侮辱ですか!?」
「フレデリクとリーファスは、シュウ様の領地ですので、王国の領地内というのはやめていただきたい。場所的には周りを王国に囲まれていますが、ここは王国領ではないので独自の書類形式にするのが当たり前です。
誰に騙されたのか、こんな拙い書類でこちらを騙そうとしたのか、どちらか分かりませんが、これ以上シュウ様と問答するようでしたら、不敬罪が適用されますがどうなさいますか?」
「後、気になったんだけど、何で証文のサインが王国の言葉で書かれてるんだ? 俺は王国の文字使わねえぞ。領地に関係する書類はすべて俺の故郷の言語で書いているから、フレデリクの権利書類も王国の文字で書いてあるのはおかしい」
そうなのだ。日本語の宝珠は少ないDPで召喚できるので、庁舎や関係各所で働いている人は、日本語を強制的に覚えさせて働いてもらっている。一時的な頭痛だけで日本語を習得できるので、かなり重宝している。
他にも言うなら、書類などは手書きではなく、パソコンを使ってプリンターで印刷しているので、この世界の様式の時点でアウトだ。
「そうでしたね。最近色々な言語を使い分けていて忘れていましたが、シュウ様が領主をやっている街の書類関係は、全部日本語でしたね。経理関係の部署で働いていると忘れがちになってしまいますね。ちなみにこれが、シュウ様の故郷の文字で書かれた書類ですね」
どうせ日本から来た勇者でもないと読めないので、商人に見せている。
「さて、後ろの護衛の皆さんは、どちらを信じますか?」
「ゼニスさん、この街にも真実の瞳はありますよね? それを持って来てもらえませんか? 失礼だと思いますが、ギルマンさん、ゼニスさん、シュウさんに使っていただきたいですね」
「シュウさん? こちらが下手に出ているからと言って、領主をさん付けするとはいい度胸ですね」
「なっ! 俺たちはこの街の人間ではない、領主かも分からない人間に様を付けろと言われる筋合いは無いぞ」
「……最近のシングルは、質が落ちたのでしょうか? 他国の貴族でも貴族と分からなければ、様を付けないようですね。不敬にならないように様はつける物だと思いますけどね」
「ゼニス、煽るな煽るな。そして、2人とも落ち着け。2人が怒ったら領主館が壊れるぞ。後、後ろの護衛のリーダーっぽい奴、真実の瞳を使って俺の言っていることが事実だった場合、不敬罪として裁かれるのは分かっているんだろうな?」
真実の瞳を使って色々調べることは、国際的にも問題はない。だが、相手が貴族やそれに準ずる相手で同等の立場でない場合は、非常に不敬な行為に当たるのだ。誰かがそう言ってた。
「それはおかしいです。シングルの冒険者はこういった場合、冒険者ギルドの規定で伯爵相当の立場で交渉できるはずです。フレデリクとリーファスの2つの街の領主の立場であれば、子爵相当が妥当とされています。なので、今回においては不敬罪は適用できません」
「ふむ、あまり知られていないようですね。シュウ様は、フレデリクとリーファスの領主というだけではないですよ。他にも10ヶ所程街の領主を務めています。下手な小国よりは多くの領地を持っています。それでも不敬罪に当たらないと思うのであれば、どうぞこの街の冒険者ギルドでご確認ください」
そう言うと、護衛についていた5人の冒険者の顔が引きつった。どうやら、フレデリクとリーファスの領主として、派遣されているだけだと思っていたみたいだな。商人が故意的に隠していたのかは分からんが。
「失礼しました。シュウ様、ゼニス様に関しては、真実の瞳を使ってほしいという訳にはいきませんね。ギルマンさんが使って無実を証明出来たら、そちらはそちらで無実を証明してください」
初めから俺たちにも使わせようとするのが間違ってるんだって。
「私から1つ言っておきますが、今回に関してはまだ詐欺が成立していないので罰賞は付きませんよ。今回が初めての犯罪だった場合、その方の無実を証明することは真実の瞳ではできませんのでご注意を。
後、どういった内容で護衛を受けたかまでは知りませんが、護衛対象だけでなく交渉相手が分かっている場合は、もう少し情報収集するべきですね」
ゼニスが止めを刺すように、畳みかけたな。
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