1848話 綾乃暴走中
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ガリアとグリエルが追加で情報を、王国と聖国から引き出している間に、実験体を観察していたバザールから、面白いことになっていると報告が入る。言葉で説明しても良かったのだが、見てもらった方が分かりやすいとバザールの本体がいる場所へ向かう。
「これはグロイな……見てもらえば分かるってそういうことか。今まで治療した部位欠損って、手足だけだったもんな。腰から下をなくすと、こういう風に欠損部位が治っていくんだな」
生命活動の維持に必要な部位かは良く分からないが、バザールが八つ当たりをして腰から下をなくした実験体は、内臓から再生を始めていたのだ。DPで召喚している水だったので、真水なのだが内臓がむき出しになっているのにそれはどうなのかと、バザールが生理食塩水に代えてくれていた。
だから何だ……って話なのだけどね。にしても、内臓から治っていくって不気味な光景だな。普段ならお腹の中とかに収まっているモノが、むき出しになっているわけで……理科準備室にあった、人体模型みたいになってる。
俺が見て判断できる臓器なんて無いけど、たぶん俺たちが気にしていた排尿に関する臓器は、治っていると思う。腸っぽいモノの下に細い管のようなものが伸びているので、あれが尿道だと思う。あ、腸もというか、内臓系はかなりの勢いで治っているな。
そのせいか、胃ろうと点滴で栄養を補給させているのに、上半身が少しやせ細るくらいには、内臓を治すために栄養を使っているようだ。
「見た目はグロイでござるが実験結果としては、上々でござるな。正直、治る前に死ぬと思っていたでござるからな。この様子でござると、死ぬ前に栄養とポーションを点滴できれば、大きな部位欠損でも治せる可能性が高いでござるな」
バザールの言う通り命さえあれば、大半のことは何とでもなりそうだな……治療を始める前に死んでしまったら、どうにもならないけどな。
「他の奴らの治りが速い気がするのは……気のせいかね?」
「経口摂取する栄養の質の差で、治る速度が変わってくるかもしれないでござるな……どっちかの胃ろうの量を増やしてみるでござるか?」
「そうだな。胃に流す量が倍になったところで、死ぬわけじゃないし実験してみるべきだな。分かりやすいように欠損部位が大きい方でお願い。もし早く治る結果になったら、限界量を見極めたいな……」
「それなら、情報を持っていない襲撃してきた奴らを、実験に使えばいいでござる。どうせ、死刑か厳しい労働のどっちかでござるからな」
「それもそうだな。情報を持っていないやつらは、こっちに連れてきているからな。情報を持っていても、これ以上引き出せないなら人体実験に使ってもいいしな」
胃ろうで流し込む栄養の量を増やせば、治る速度が速くなるのなら……治療中にかかる本人の負担も減らせるし、介助をする職員の負担も減らせるということだ。
本人の負担というが、錯乱していたら昏睡状態にして治療するしかないのだが、それでも早く治るなら治療時間が短くなり、昏睡状態でいる時間が減るわけで、本人の負担は確実に減ることになる。
早く治すことによって、体にかかる負担が増えるかもしれないので、そこらへんは実験をして、適切な量を見極める必要が出てくるな……
「そだ、バザール。次の実験に入る時だけど、点滴するポーションにBとAランクも使ってみてくれないか。それによって差が出るかもしれないし、体にかかる負担が変わるかもしれないからな。いくつかに分けて、部位欠損を治してみてくれ」
「了解でござる。ポーションは……DPで召喚していいでござるか?」
ポーションの召喚用DPをバザールに渡して、俺は仮説病院のある広場へ向かった。
部位欠損をしているが、落ち着いて治療を受けている人の様子を見に来た。
順調に治っているようで、よかった。話を聞いてみると、腕や足が生えてきている部分が、ムズムズするみたいなことをみんなが言っている。俺が治療したときって……どうだったか覚えていないな。
「問題は、錯乱したから眠らせた人たちだよな……キリエ、ネル、どうしたらいいと思う?」
「私は、今の状態のまま治療を始めるべきかと……部位欠損の割合の多い人は実験の様子見をして、今までに治した実績のある欠損部位割合の人は、早めに治してしまった方が色々と都合がいいかと」
「私も、キリエさんと同じで、治してしまった方が良いと思います。治療中の衛生管理に問題が無くなったので、一刻も早く治してしまうべきだと思います」
2人とも、初めの計画通り、治せる人は先に治してしまう方が良いと……よし、今運び込まれている人は、比較的欠損部位の少ない人たちだから、治療を始めてくれ。人手が足りなかったら、他の中立都市から治療院の人を引っ張ってくる許可を出しておく。
実験の様子を見ている限り、欠損部位が多くても問題は無いと思うが、もしものことがあるので結果が出るまでは、治療を始めないように厳命しておく。
庁舎へ戻ると……庁舎の中庭が大変なことになっていた。
綾乃が作っていた、ストックしていた人造ゴーレムが全て並んでいたのだ。その数、人型が100体ほど、各種異形型が100体ずつほどいる。いや、ケンタウロス型の人造ゴーレムは、200体ほどいそうだな。
人型、ハーピー型、アラクネ型、ラミア型が各100体ほどで400体、ケンタウロス型が200体ほどで合計600体ほどの人造ゴーレムが、スタンバイ状態にある。いつの間にこんなに増やしたんだ?
うげぇ……異形型の人造ゴーレムが大きくて見えていなかったが、異形型に隠れてS級スケルトンが……300体くらいかな? マップ先生で検索すると、400体ほどいた。
Sランクの魔物と同等のポテンシャルを持つ、S級スケルトンと人造ゴーレムたちが合わせて1000体。綾乃は何と喧嘩をするつもりなんだ? そこまでの大戦力だと、俺が支配している都市すべての戦力をかき集めても、勝てないぞ……
もっと言うなら、三大国を同時に攻略してもお釣りがくるくらいには、戦力があると言っても過言じゃない。
鼻息の荒い綾乃に話を聞いてみたが、マジで1つの国を潰す勢いでキレているのが分かる。キレていても、重要な人物は捕らえるように言っているあたり、捕らえて何をするつもりなのだか……考えるだけでも恐ろしいな。
こいつらは、食事も必要ないので、情報が集まり次第綾乃が率いていくのだろう……早くても2~3日はかかると思うけどな。
「シエル、シールドとレオンを連れて、綾乃のガードをしてくれ。これだけの戦力があれば問題ないと思うが、もしもの時は綾乃の命が最優先だ。人造ゴーレムもS級スケルトンも放棄していいから、綾乃だけは連れ帰ってくれ」
チビ亀フォルムのシエルが、器用に敬礼をして領主館の地下にあるホームへ向かっていく。シールドを呼びに、いったんディストピアへ戻るようだ。
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