1842話 問題は多い
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「思ったより、眠らされているケガ人が多いな……キリエ、眠っている人の大半は、治療済みの部位欠損者か?」
治療が落ち着いてきて、治療が遅れてもすぐに死ぬレベルの人たちはいなくなっている。その中で、錯乱して眠らされている人間が多かったので、キリエに状況を聞いている。
「やはり、部位欠損をしている人たちは、治せないものだと思っているようで、この先の人生に絶望をしており、死なせてくれ……という人が多かったですね。実際、部位欠損をしている人の人生は、ろくでもないモノが多いですからね。
働きたくとも雇ってもらえなくなるため、冒険者や商人として成功してお金を持っていなければ……遅かれ早かれ奴隷になるか飢え死にですからね……成功していても、家族に裏切られるという話も聞きますね。お金を持ち逃げされるとか……」
言いたいことは分かるのだが、特に最後の部分……家族に裏切られるって言うのは、人生に絶望するには十分すぎる理由だよな。
部位欠損でも、まだ歩けるなら話は違うだろう。まず歩けなくなれば、介護が必要になってくるから、お金も家族の負担も大きくなるか……冒険者として成功していれば、奴隷を買って面倒を看させることは出来るけど、限界はあるしな。
「部位欠損の少ない人たちなら、夢だったと言って眠らせている間に治すことは出来るけど、ある程度……そうだな、片足の膝下以上を欠損していたら、点滴していても口腔からの栄養摂取が無いと厳しかったよな?」
「そうですね。死刑囚の人体実験で、片足の膝を切り落とした状態から、点滴だけで部位欠損を直したところ、約半数が栄養失調で死んでいます。そして今回の爆発では、それ以上の部分を部位欠損している人が100名は超えています」
死者もでたが、予想以上に部位欠損者が多いんだよな……指の一部、とかなら俺たちの魔法でも問題なく治せるのだが、手足の先をなくしていたりすると、俺以外には治せないし、治したとしても栄養失調になるから、気軽に治すわけにはいかないんだよな……
「だけど、起こしたまま治療するのは、おそらく厳しいよな。治せると言っても信じてもらえるか分からないし、錯乱する人間の対応に手が取られるのは困るよな……起こさずに治療する場合、起こる問題って何がある?」
ネルも呼び、手の空いている妻たちも呼んで、問題を上げていく。
一番大きいのは、排泄問題だろう。100人以上の排泄管理をする必要が出てくる……この世界には、紙おむつやバルーンなどは無いので、かなり大変な作業になる。
他には、口腔摂取を強引にさせるのであれば、胃ろうのように直接胃に流し込む必要もある。それに点滴もする必要があるので、管理が大変になってくる。
他にも細々したものは出たが、最終的に排泄管理……衛生面の問題が一番大きいと言う結論になった。
自動で体をキレイにできるシステムか……粘液スライムだと、肉体まで食べてしまうから使うことは出来ないし。ニコたちなら可能かもしれないが、スライムにそれをさせるつもりは無い。
残りの治療は治療院の人たちに任せることにして、俺はバザールと綾乃に知恵を求めることにした。
「ん~排泄管理でござるか……確かに面倒というか、大変な作業でござるな。地球と違いステータスで力があるから、体位交換なんかは楽かもしれないでござるが、それでも寝ている人の下の世話はそれだけで大変でござる」
「確かにね。ベッドをゴーレム化して、全自動で体位交換をできるようにできたとしても、下の世話や点滴、胃ろうの管理もあるから……大変よね。バルーンに関しては、こっちの世界なら多少怪我をさせても後で治せるから、強引に入れたとしても何とかなるけど……大きい方はね~」
地球なら意思のない人にバルーンを入れる指示などは、医者が出すと思うが、この世界には的確に指示できる医者がいないからな。それに、バルーンを入れたことのある人間すらいない。そもそも、存在自体を知らないからな……
「そういえば、体位交換って言ってるけど、何で体位交換が必要なんだっけ?」
「えぇ……綾乃、マジか? 動けない人が長時間同じ体勢でいると、特に骨が突出している部分への圧迫が続くから、褥瘡になりやすいんだぞ。だから、定期的に体位を変えてあげないと、最悪体に穴が開くんだぞ」
特に高齢者や精神障がい者の場合は、しっかり体位交換を行っていたとしても、本人にとっては寝づらい体勢になることもあるので、自ら寝返りをうっていて褥瘡になるケースもあるのだ。できやすい部位としては、仙骨あたりだろうか……
「ふ~ん、じゃぁさ、体全体に均等に体重が分散されれば、体位交換が無くても褥瘡が出来ないの?」
「そういう訳じゃないだろうな。全身に等しく体重が分散されていても、他の部位より圧迫される部分はあるだろうし、血流の問題で褥瘡ができる可能性はあると思うぞ」
「じゃぁ、仮にだけど、首の下だけ水中にいるような状況なら、褥瘡にはならないのかな?」
「ぷかぷか浮いている状態でござれば……褥瘡にはならないと思うでござるが、人の体をずっと水に浸けておくことは出来ないでござるよ。いや、浸けておくだけなら数日は問題ないかもしれないでござるが、排泄を考えると危ないでござる。それに、手がめっちゃふやけると思うでござる」
常に水を入れ替えれば、衛生面の問題は解決するか……? 大きい方の排泄なら、多少強い水流を肛門付近に当てられれば、汚いまま……ということは無いよな。
「とりあえず、綾乃の案を一部採用して、水は常に入れ替わるようにして、排泄があったらキレイに洗えるような仕組みを考えてみよう」
「マジか? 自分で言っててどうかと思う意見が採用された……」
「水中って言うのは悪くないと思うし、もし皮膚に悪影響が出たとしても、点滴でポーションを流し続けているから、状態が悪いのなら回復するはずだ。とはいえ、いきなり試すことは出来ないから……グリエルに連絡して、人体実験のできる死刑囚が何人いるか確認しないとな」
人体実験か……日本にいたら絶対に無理だっただろうけど、この世界の死刑囚は人権なんてマジでないからな。どのように扱っても、誰にも文句は言われない……本人には文句を言われるか。
俺がグリエルたちに確認を取っている間に、バザールたちには循環システムを考えてもらうことにした。
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