1817話 ただのクズだった
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「マイマスター、こいつを調教すればよろしいのですか?」
勇者と対峙していたオリバーが、渋い声で俺に話しかけてくる。さっきはブッヒッヒとか気持ち悪い声を出していたのと、同一人物とは思えない渋い声だ。
「そいつは、最悪死んでもかまわん。俺たちの集めた情報によると、そいつは食料を生み出す神授のスキルを持っているだけだから、注意するのは勇者の称号だけだからな。ステータス的に見ても、オリバー一人だけでどうにかなると思うけどな」
「了解です、マイマスター。すまないな、勇者の称号を持つ者よ。決して侮っているわけではないが、そなたは少し、隙がありすぎるのではなかろうか? 本当にサイレントアサシンを、四桁も殺した強者なのか?」
「……そうか、このダンジョンに飛ばされる前のあの襲撃、お前たちの仕業だったってことか! こんな卑怯なやり方しかできねえクズどもが!」
「私たちがクズですか……それなら、女性を攫い欲望のまま犯したり傷付ける行為は、卑怯ではないと?」
「敵国の人間なんだから、何をしても問題ないね。それのどこが卑怯だって言うんだよ」
「そうか、なら敵対している私たちが、敵国のお前たちに何をしても、卑怯と言われる筋合いはないな。ここまで自己中の屑は久々にみたわい。他のクズは、自分たちがしていることを悪いと思っているのに、お前はその欠片も無いんだな。見下げるぞ。
こんな問答は、もはや無意味だ。何を言っても響かんし、何を言われても共感できぬ。お前にできることは、今まで傷付けた人たちに謝り続けることだけだ。自分の身に同じことが起きれば、自分のしていたことが分かるといいな」
「たかがクソオークのお前に、俺をどうにかできると思うなよ!」
「勇者の称号を、万能だと思うなよ。確かに魔物やダンジョンマスターに対しては、特攻を持っているかもしれないが、強さに隔たりがあればその効果も意味がないのだ。さて、もういいだろう。敵を前にして、武器を出さないのか?」
「馬鹿が! すでに武器なら出してるわ!」
手に何かを握りこみ、オリバーに向けて手を突き出している……あ~、こいつって食料を生み出すだけじゃなったのか。ここにきて、俺たちはこいつの能力を勘違いしていたことに気付いたが……誤差の範囲だったな。
こいつの能力は、DPの代わりに魔力で物を召喚できるスキルのようだ。そして、手に握りこまれた物は、ハンドガン……銃だ。こいつ、マジでバカだろ。元の世界でも筋肉の分厚い人間なら、その程度の銃じゃ致命傷にならない奴がいるのに、ステータスのある世界で豆鉄砲が効くわけないだろうに。
それに神の能力で、銃の威力が弱くなるんだぞ。どう頑張っても、あの鋼のような肉体を貫通するとは思えん。おそらく、銃の威力が弱くならなくても、アンチマテリアルライフルを使っても、あの筋肉は貫通できないと思う。
この世界のルールにのっとって、スキルの力を借りてどうにかダメージを与えられるのではないだろうか?
ちなみに、リバイアサンのメグちゃんとシリウス君には、銃弾は当たることすらないぞ。正確には当たっているのだが、まったく効果が無い。俺でも銃で撃たれればチクッとするのだが、あの二匹は戦車の砲弾ですら無傷で弾くのだ。
体の周りを常に水が覆っていて、それが作用して戦車の砲弾でも、滑るように弾いてしまうのだ。もうね、訳が分からん。
っと、そんなこと考えている場合じゃない。
銃弾を撃ち込まれたオリバーはなんと! 漫画にあるように銃弾を手で受け止めて、すべてつかみ取っていた。おぉ~あんなことって、本当にできるんだな。
勇者は銃は無意味だと思ったのか、武器を取り出した。双剣のようだな。ん~でも、何か感じるものがあるな……この感じ、何か覚えがあるんだが……なるほどな。
「オリバー、その武器、おそらく神具だ。気をつけろよ。下手したら死ぬぞ」
「良く分かったな! 俺が本当の勇者だから授けられたこの神器、エクスカリバーとカリバーン、これにかかれば切れないものなんてないんだよ! 絶望して死ね!」
お前はそれしか言えんのかね……それにしても、エクスカリバーとカリバーンね……この世界では、別の武器として存在しているのか。一説には折れたエクスカリバーを打ち直したものが、カリバーンって言う説もあるのだが、まぁ神話だし解釈は人それぞれだな。
オリバーは、オーソドックスな剣と盾のスタイルだったのだが、盾は意味をなさないと思ったのか剣に持ち替えている。
「クソオークが俺の真似をしたところで、どうにもならねえんだよ! 実力の差を思い知るだけだ、諦めて死ねよカスが!」
Aランクの魔物なら、何もできずに負けるかもしれないが……相手はLvをカンストしたオリバーだぞ。
両手から繰り出される攻撃は、オリバーの華麗な剣捌きによって空を切るかのように逸らされる。
あいつは分かってないな。この世界でステータスが、どれだけ理不尽な差をもたらすのか……オリバーは勇者の攻撃を見てから動き出しているのに、完璧に攻撃を逸らしているのだ。どんなにいい武器を使っていても、切れなければ価値が無い。
受けるのではなく、剣の腹を叩き攻撃を逸らしているので、神具であろうが意味をなさないのだ。
番狂わせがあると思ったがそんなことも無く、オリバー1人によって簡単に制圧されてしまった。
「クソが、こっちは神器を持っているんだぞ! なのに何でこのクソオークに当たらねえんだよ!」
「武器がどんなに強くても、扱っている人間がこうも弱いと……武器が可愛そうだ。もう勝ち目がないことは分かっただろ、大人しく諦めろ」
そう言ってオリバーが、勇者に近付いていく。
「待った! 俺が悪かった! 今までのことは謝るから、許してくれ」
自分が不利だと悟ると、俺が想定していた言動をした。
「みんな、笑うなよ。俺が想定していた返答を返したからってさ……プフッ」
「そういう、シュウも笑ってるわよ」
カエデに突っ込まれてしまった。仕方がないじゃん、だって想定通り過ぎるんだもん。
「何笑ってやがる! こっちは謝ってるんだぞ!」
「そうだな、謝るってことは、自分が悪いって思ってるんだろ?」
「……そうだ、だから謝って、許してもらおうと思っているんじゃないか」
「許しを請う態度じゃないよな。まぁ土下座したからって、助けることなんてしないけどな」
「はぁ? 何で謝っているのに、許さねえんだよ!」
「じゃぁさ、何も悪いことをしていない、お前たちが犯したり嬲った人たちが助けを求めた時に、お前は助けたのか? お前は悪いことをしている自覚があるのに、助けを求めて許せって言ってるんだぞ。
悪さをしていない人が助けを求めたのに助けなくて、悪さをした奴が助けを求めて助けられる……そんな馬鹿な話あるわけないじゃん。お前らは、どれだけの数の人間をオモチャみたいに扱ったかは知らん。知りたくもない。だけど、自分がしてきたことを、身をもって体験する機会をやろう。
オリバー、これを首にはめて、ゴーストタウンのお前たちの仕事場へ連れて行っていいぞ。死にそうになったら、エリクサーを飲ませて良いからな」
両手両足を縛られ、ツィード君謹製の奴隷の首輪をはめられ、ゴーストタウンの公開調教エリアに連れていかれた。
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