1814話 絶望への入り口
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3時間ほどだが寝て、深夜0時、俺たちはダンジョン農園に集まって、体を動かしている。俺たちは、食料を生み出せる勇者を捉えるための準備をしている。シェリルたちに連れられてシリウス君もここにいる。
シリウス君には、やってもらいたいことを伝えて、簡単にシミュレーションをしてもらっている。勇者たちがいる場所と同じ部屋を作り、出来る限り同じ状況を作り出して、何度か練習をした。
俺たち……勇者の代わりをする俺と妻たちに、シリウス君が襲撃と同じ状況を再現して、水で包み込んでもらうかたちだ。俺と勇者たちが違う理由は、襲撃されることを知っている状況からのスタートだ。
もしこれで俺たちが対応できないのであれば、勇者が対応をできると思えないと考えている。
襲撃するタイミングまで分かっている状態で、俺たちがどうにもできないのであれば……この世界で対応できる人間は、まずいないだろう。
5秒後……周囲に水が生まれる。窒息しないように俺たちは、小型の酸素ボンベを口に就けて横になっている。
きた! 周囲が水に包まれ、浮遊感が生まれる。水に囚われた。妻たちが俺を囲むように周囲を固める。魔法組の誰かが、周囲に土の壁を作る。
だが水を操っているのがリバイアサンのシリウス君だ、即席で準備した壁では役に立たず壁に穴が開く。そして、壁に2ヶ所穴が開くと……水流が生まれ体をまともに動かすことができなくなった。
魔法で水に干渉しようにも、もともとシリウス君の生み出した水だ。俺程度の魔力コンロロールでは、制御を奪うどころか干渉することすら不可能だった。
そうすると、水流に逆らって体が止まる……俺が何かをしたわけじゃない。俺は強制的にナニカによって止められたのだ。そしてこのナニカを俺は知っている。シュリのチェインによるものだ。
水流に逆らって体が引っ張られる。水の外に出たと思ったら、更に2つのチェインが体に巻き付く。動きが取れなくなった状態で、ゲートに運ばれる。
ゲートの先では、俺の従魔たちや全身アダマンタイト製の人造ゴーレムも待機していた。
俺は口から酸素ボンベを外して、
「やっぱり、分かっていてもシリウス君の生み出した水の中じゃ、どうにもならないわ。干渉しようにもどうにもならないし、襲われてから作った壁程度じゃどうにもならないね。あとあり得るとすれば、勇者のパーティーのタンクがチェインを使ったとしても……一緒に引きずり出されるだけだと思う」
今回の襲撃シミュレーションの総評をした。分かっていても防げないんじゃ、どうにもならない。それだけシリウス君……リバイアサンの能力が桁違いなのだと思う。もし、俺たちの想像を超えてきた場合は、シリウス君にすべてを流す勢いで水を生み出すようにお願いしている。
最悪を想定して、その対処をお願いしている。
「スプリガン、勇者たちの様子は?」
近くにいたスプリガンに様子を聞いてみると、夜番が待機を始め、その他の人間が眠りについているようだ。
「よし、あいつらのいる部屋の確認をするぞ。テントが3つ、ターゲットのいるテントは、俺たちが突入する通路から見て、右側のテントだ。だがそのテントには、もう1人の勇者もいるから間違えないように注意が必要だ。俺たちは、あいつらに絶望を与えるのが仕事だ」
「シュウ君の気持ちもわかるけど、少し気負い過ぎじゃないかな?」
「正直なところ、俺には無理やり女性を襲うと言うのが分からん。性欲を吐き出したいなら、金を払って色街に行けばいい。相手の尊厳を踏みにじり、心に傷を負わせる外道の所業を許せないんだ。金がないなら、仕事をして稼げばいい。それが出来ないのなら、死ねばいいと思う」
「……シュウにしては、過激ね。理由を聞いてもいいかしら?」
「過激かな? だってさ。自分の欲望を満たすためだけに、女性を犯すんだぞ。立場の弱い相手は、守るのが筋だと思うんだ。そのために平均して男が強いわけだからな。それなのに、自分勝手に動く奴に死ねばいいっていうのは……過激かね?
そういう犯罪を犯す奴の方が過激だと思うぞ。そして何より、そういう奴らに限って蹂躙される側になると、相手に許しを請い断れば、何故助けてくれない! とか、お前らに人の心が無いのかって言うのがパターンだからな。
自分たちが今までしてきたことを理解していない、クズばかりだからな。されたくないことを相手にするなってことだ。特に人の尊厳を踏みにじることなら、特にだ。もし、やられて喜ぶやつなら、生かして話を聞くのもありだと思うが……それは無いだろう」
良く分かったような分からないような、顔をしているが……俺に理論的な理由は無い。嫌悪感があるから、ぶっ潰す……それだけだ。
「さて、ヤロウカ」
自分が片言になったのが分かるくらい、自分の感情が荒れているのが分かった。でも、俺が相手にするのは、タンクがゲートの中に引っ張り込んでからだ。
「シリウス君、ゲートを繋げる。索敵に引っかからない位置から、部屋の中を水で満たしてくれ。マリアは、当たらなくてもいいから、矢でマーカーを対象に撃ち込んでくれ」
ゲートを開き移動を開始する。魔法組は、入り口の左右で待機。こいつらは、対象を引きずり込んだら入り口に蓋をする役目だ。その後ろに前衛陣が待機、魔法組への不意打ちがあった場合の対処要因だ。
全員配置に付いたところで、シリウス君が水を生み出し勇者たちの部屋に水を満たした。マリアがダンジョンマスターの監視映像と、自分の感覚を頼りに矢を放つ……対象には当たらなかったが、偶然にももう1人の勇者に当たる。
「シュリ、マーカーのついていない方の勇者が、今回のターゲットだ。行くぞ!」
シュリ、リリー、俺の順で通路に入っていく。
「対象の気配を確認。マーカーのついていない方に一応、ダンジョンマスターの監視能力で色を付けてある。もしターゲット以外を引っ張り込んだら、例のゲートに押し込め」
例のゲートとは、対象の部屋の天井に作ったゲートだ。俺たちは、ターゲットを捕まえられるまで続ける予定だ。不測の事態に陥ったら、撤退する予定だ。
「シリウス! 水流を起こし始めろ!」
俺の指示に従って、シリウス君が水に流れを作り、体勢を立て直そうとしていた勇者パーティーが、また崩れ始める。
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