1758話 ワイン作り体験
アクセスありがとうございます。
物作りに情熱をかけるのは悪いこととは言わない。むしろ、老ドワーフたちの鍛造による武器は、1つの芸術品と言っていいだろう。
手に持って敵を攻撃する道具なら、女性の細い腕で作られているより、このドワーフたちのような太い腕と、長い経験によって作られた武器の方が頼りがいがあると感じるだろう。
だけど、それは手に持つ、身に着けるものだからそう思えるのだ。
肉の解体や魚の解体、加工品作りや野菜や果物は、誰がしていても衛生上しっかりとしていれば気にならないが、ワインのブドウ踏み手前だけはダメだ。爺やオッサン共の足汁が入ったワインなんて飲みたくねえよ!
ドワーフたちに話しを聞いて思ったが、物作りに情熱をかけているせいで、生産するときと消費するときを切り別けて考えている節がある。そして消費するときには、ブドウを踏んで絞り出した……という部分はカットされ、自分たちで作ったワインに変換されるため気付いてなかったようだ。
全く汗が出ずすね毛も全く生えていないなら、オッサンでも老ドワーフの爺様方でも文句は言わん。だけどさ、汗が出ないなんてことないだろ? そしてドワーフの男連中って、毛がスゲーんだよ。そんな奴らに踏まれたブドウから作られるワインとかマジで無理。
それに、足からにじみ出る汁も一緒に熟成されると考えただけで、サブイボが立つわ!
そだ、ドワーフの女性だが、服を着ていると男か女か分からんのだけど、腕まくりやズボンをまくり上げるとすぐに判明する。男は毛が濃いのだが、女性だと首から上以外はほとんど毛が生えていないのだ。そんな人たちならまだいい。だけど、ビア樽男ドワーフはマジで止めてくれ。
深く話をして、すぐに分かってもらえたからいいが、もし分かってもらえなかったらOHANASHIをしなければならなかっただろう。
そういえばさ、日本にいたころに昔ながらの製法にこだわっている、外国のワインセラーの特集があってその中で、日本人のおっさんと違ってカッコいいイケメンのおじさんが、海パンはいてワインを踏んでいたのを見て、将来酒を飲んでもワインだけは飲まない! って心の中で決めてたんだよな。
伝統的な方法で作っているワインなんてそう多くないが、あれは子どもながらに衝撃を受けた映像だったね。放送局もあれを良く流す気になったな、って俺は思ったよ。
説得できた爺様方は、ブドウ踏みには加わらず一生懸命、収穫と選別に精を出してくれていた。
俺はシンラを抱いて爺様方とお話をしていたのだが、その間にもブドウ踏みが行われていて、男性陣は一切近付けず女性だけで踏むことが決まっていた。
協力してくれた奥様方も、旦那の踏んだブドウのワインは、ちょっと……と言葉を濁していたので、ここにいる全員の共通認識になったようだ。
その中でも、俺は踏むことに参加できなくても近付くことは許可されているので、シンラと一緒に妻や子どもたちの活躍を見に行くことにした。
「……赤くないな」
女性陣が踏んでいるブドウを見て、そんな言葉が出た。
「シュウ、これは白ワイン用のブドウだから赤くないわよ」
カエデに突っ込まれて、やっと納得した。ワインって言うと赤のイメージだったから、色が薄くてビックリしたわ!
シンラの姉たちは、深い桶ではなく浅い桶で協力してくれている、家族の子どもたち(女の子)と一緒にブドウを踏んでいた。プラムとシオンはと言うと、さらに浅い桶の縁に母親に座らせてもらい、足をバタバタさせていた。あれは……使い物になるのだろうか?
そんな顔をしていたら、みんなと同じことをさせる意味合いがあり、あの子たちがバタバタしているブドウは、選別から漏れた中でも品質の悪いモノを使っているんだとさ。元々商品になりえない、破棄する予定だったブドウとの事。それはそれでどうなのか? とも思ったが、2人は満足しているからいいか。
500リットル入る大樽に……五十数樽、25000リットル分程の踏んだ白ワイン用の原液とも呼べるそれを、今度は圧搾するようだ。
ここで活躍するのが、無駄に力の余っている男ドワーフたち。この日のためにコッソリと、500リットルを一気に圧搾できる、大型手動圧搾機を作っていたのだ。
それが運び込まれ、原液を流し込み蓋をして、ネジを回すように圧搾機の上部を回していく。圧搾機の中心からドワーフたちの歩いている所は、3メートルは離れているだろう。その位置で目の前にある、ネジの部分に繋がっている棒を一生懸命押している。
無駄に力の余っている、こいつら向けの仕事だな。
絞ったカスは家畜の飼料へ。
ドワーフどもはどんどんと絞っていく。その間に女性陣は、赤ワイン用のブドウを踏み始めていた。
様子をシンラと眺めていると、シンラがソワソワしだして、姉たちのいるところに手を伸ばすので行ってみると、自分も踏みたい! みたいな顔をした……困ったな。
そんな風に思っていたら、プラムたちと一緒に赤ちゃんたちが踏んでいる奴なら問題ないと、リンドが教えてくれたので、シンラよそこで我慢するのだ。
赤ワイン用の桶は、俺が思っているようなどす黒い赤とまではいかなかったが、これだこれ、この色だよ!
その踏まれたブドウは、白ワインと同じように大樽へ入れられていく……ん? 蓋が占められ、栓までされたぞ?
カエデの説明だと、赤ワインと白ワインは、作り方に若干の違いがあるそうだ。
赤は潰して発酵させてから圧搾のに対して、白は圧搾してから発酵させるようだ。ただ、白の場合は発酵の前にデブルバージュという工程があるそうだ。
デブルバージュとは、発酵前のブドウ果汁をキレイにする工程らしい。
圧搾した果汁を一日程静置しておくと、浮遊物が沈殿していき上澄みは綺麗で透明な液体となり、その部分を別の樽へ移して発酵の過程に入るのだとか。
赤ワインが渋いのは、圧搾しないで発酵に入るため、その発酵の過程で皮やタネの部分からタンニンが染み出てくるためらしい。他にも樽に使われるオーク材からも出ると言われているが、この世界にはオーク材は多分ないので、この世界のワインの渋みはブドウの持つそれだと思う。
おや? 赤は絞らないんじゃなかったか? と思ったが、どうやら子どもたちに飲ませるために絞ったらしい。とはいえ、そのままでは子どもたちは飲みにくいだろう。ということで、ブラウニーたちが原液を割る炭酸水や水を準備していた。
ワイン用のブドウって味が濃いらしいからね。
あ、白いのも飲ませるのな。一応綺麗にするために目の細かい布を重ねて漉していた。間に炭を入れていたけど、それって本当に効果があるのか?
子どもたちが冷やされたぶどうジュースを飲み始めるなか、大人たちはまた作業を開始する。
今度は、食用で作っていた日本で代表されるブドウの品種の1つ巨峰を使って、ワインを仕込むようだ。他にもいろんな果実を使って、果実酒を試すんだとさ。ブラウニーたちの真似をしたいってことか。
500リットル入りの樽を4人で軽々担ぐドワーフたちはどこへ行くのだろう?
シンラも興味があるのか、一緒に向かってみる……街に近いエリアにある、地下通路のような場所へ来た。その通路の両端には、500リットルの樽がちょうど入る穴が開いており、その中へ樽が収められていく。
それより、この樽を入れるこの部分……何やら魔力を感じるのだが?
老ドワーフたちは、アリス・ライムと協力して、ダンジョンマスタースキルで部屋に付与できる、発酵熟成加速を真似したエンチャントを完成させていたらしい。これで、飲み放題ってことな。わかったわかった、だけど次からもお前らは踏むなよ?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
ブクマや評価をしていただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。




