1723話 予想外の連続
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英気を養った翌日、
50階への階段前に俺たちは集まっている。
昨日、中を確認すればよかったのでは? と思ったが、34階みたいに閉じ込められたら面倒なので、やはり確認しないで正解だったと考えている。
「レッドドラゴンの装備の確認は大丈夫ですか? 火山エリアということで、おそらくボスやトラップも火属性の物が多いと思います。火耐性の装備をしているからと言って、溶岩に油断しないでください。
ボスが複数か単体か分かりませんが、シュリさんがメインタンクになりますのでよろしくお願いします。他は、突入してから指示を出します。では、行きましょう」
キリエの指示に従って50階へ降りていく。俺の心の中に現れたモヤモヤが、どうにも不安な気持ちにさせる。
50階、ボス部屋の扉を開ける。
絶句した。
ここまで火山エリアだったのに、50階のボス部屋は雪山エリアで猛吹雪だった。装備を変えるために引き返そうと思ったが、階段が消えておりかなりの勢いで通路が狭くなっていた。
壊してもキリがないタイプだと思い、俺たちはすぐに猛吹雪の部屋の中へ入った。
このダンジョン作った奴、マジでいい性格してるわ。火耐性の装備って基本的に冷気への耐性が低いから、ダメージが貫通しやすいのだ。その点レッドドラゴンの皮と鱗は、火耐性がずば抜けて高いだけで他の耐性も普通にあるので、ダメージが貫通してくることはあまりないだろう。
だけど、地形効果を考えると不利なのには変わらない。耐性があっても、装備している人間が寒いのには変わりがないのだ。
「ボスは確認できますか?」
「魔物は確認できますが、ボスかは分かりません」
「同じく」
前に出て斥候を担当していたチェルシーとソフィーがキリエに答えた。自分たちでも索敵はしているので、答え合わせのようなものだ。
「敵は複数、ボスは不明。視界悪く敵の視認不可。密集隊形。タンクは前に、広範囲を守るためにフォートレスの起動準備を。私とネルは防御魔法の準備、ネルは冷気系を念頭に他の属性もガードできるようにしておきなさい。私は、結界魔法でマジックシールドを張ります」
キリエが矢継ぎ早に指示を出していく。
見えない敵に対して密集陣形は得策ではないが、視界が悪い現状でバラけるのは愚策だ。それなら、守りきれるように態勢を整えるべきだ。物理攻撃はタンクのフォートレス、魔法はキリエのマジックシールドで守りきれると考えた指示だろう。
魔法に頼らない属性攻撃に対しては、ネルに防御魔法を準備させていると言った感じか。フォートレスがあれば大体の物理系の攻撃は防げるだろうが、属性が乗っていると負担が大きくなるから、タンクが押さえている間にネルが防御魔法を使う感じかな。
「魔法組は、広範囲の火魔法は禁止。効果範囲の狭い火かそれ以外の属性で攻撃待機」
これだけの吹雪の中で広範囲の火魔法を使うと、更に視界が悪くなる可能性が高い。湧き出してくる溶岩の川に関しては凍らせれば止められたが、この吹雪は部屋の温度を上げても防ぐことはできない。
ダンジョン内の天候は壁や天井から発生するので、壁と天井をすべて埋めない限り止める事ができないのだ。温度を上げて積もっている雪や吹雪で吹き付ける雪を溶かしても、永遠に吹き込んでくるのでこの部屋が、スチームサウナみたいになってもおかしくない。
上手く調節すれば吹雪が暴風雨になるだろうが、魔法組が全員で取り掛かる意味はない。視界が多少良くなっても、悪い事には変わりはない。温度を維持するのに、こちらの手数が減るだけだ。
「敵の動きは見られませんが、視界内に違和感はありませんか?」
視界が悪いということ以外、特に無さそうだ。
それにしても、この部屋ってフィールドエリアっぽくなってるな。雪山エリアのように雪が積もってはいるが山のような隆起はなく、感知できる範囲は平面のような気がする。木があるわけでもなく、ただ雪が積もっていて吹雪いているだけ。
キリエは、待機するように命令を出してから、思考を始めた。
俺も自分なりに考え始める。いざという時は指揮権を奪えるようにしておかないとな。
敵の反応が動いていないのが気になる。それにゴーレムのことを考えると、俺たちが発見できていない敵がいてもおかしくない。しかもこの猛吹雪の中だと、動体索敵はほとんど機能していない。
ん? 索敵って基本的には、動体が中心じゃなかったか? いや、周囲の変化による感知に近かったか?
これは良くない気がする。
「キリエ、この吹雪の中、索敵スキルの効果を信じるのは拙い気がする。このダンジョンが裏をかいてくる、と言うのは言い過ぎかもしれないが、通常の思考では思わぬ落とし穴があるかもしれない」
俺の言ったことをしっかりと理解してくれた表情だ。
「索敵スキルに頼るな。厳しいかもしれないが、目視や魔力による感知に力を入れて!」
吹雪以外に動くモノが視界に無い現状、目視は有効な手段だと思うが……如何せん、視認距離が短い。
「ライムさん、着弾点で狭い範囲を激しく吹き飛ばすような魔法は使えますか?」
「問題ない」
「今、索敵で感知している所に向かって、左から魔法を使ってください」
膠着状態を脱するために、行動を起こすようだ。索敵に引っかかっている反応が気になるから、そこに向かって魔法を使うようだ。
ライムが反応のある方向に向かって指を指す。
魔法がはイメージが大切。視界の悪い中真っ直ぐに飛ばすための方法として、指を指した方向に飛ばすイメージを固めたのだろう。ちょっと中二病っぽいけど、この方法が俺もベストだと思う。
俺の感知している数は4つ。
ライムが放った魔法は5つ。
俺たちの中の半分以上が驚いた顔をしている。
ライムの放った魔法が、俺の感知していた場所とズレた場所に着弾している。
少し混乱し始めた妻たち、俺は落ち着かせるために声を上げようとした。
「傾注! チェルシー・ソフィー・シュリ・ライム・マリア・シュウ様、順番に感知している数を報告!」
「6」
「3」
「5」
「5」
「7」
「4」
半分以上揃っていない。この部屋に何か仕掛けがあるのだと思う。
「索敵スキルは禁止! 欺瞞情報に惑わされるな。原理は分からないが、索敵スキルに干渉している。当てにならない。タンクは状況が変化するか指示があるまで、フォートレスを維持!」
ここでSランクの魔物が出てきても負ける事はないと思うが、どれだけ負傷するか分からない。攻撃特化のSランクなら、ドッペルの体であれば……殺しうるかもしれない。
俺たちは、防御を固めた。
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