1660話 甘くなかった
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そっか、バリアを全損させなくても、勝敗が明確に分かれば問題ないじゃないか!
俺は、妻を叩かなくてもいいことに気が付いた。多少の攻撃は仕掛けるが、それは勝利宣言のための牽制みたいなものだから、許してほしい!
次の相手は、アリスかい!
転送され相対する。
アリスの装備はいつもの攻撃よりではなく、サブタンク仕様の小型のカイトシールド持ちか。小回りが利いて攻撃をそらされるか……武器は杖か大薙刀以外使ってはいけないと言われている。盾相手ってあまり好きじゃないんだよな……
力で押し込むか、連撃で押し込むか、どっちにしてもごり押しになっちゃうな。一応長物だから、あまり近付かれすぎると、攻撃の種類が限られてくるんだよね。
チビ神がノリノリで開始の合図をした。
アリスは様子を見ながら、俺を中心に円運動を始める。俺の構えが右が前になっているので、回り込むような形で右へ右へ移動している。合わせて回転を続けるのも思惑に乗せられている気がしたので、大薙刀の構えを変える。中段の構えから八相の構えに変えアリスを体の正面で捉える。
それでも円運動を続けるアリス。
しばらく続いたので、もう1度構えを変えることにした。下段の構えをして右に回り込もうとしているアリス合わせて、右へ移動する。そうするとアリスは円運動をするために、更に早く動くか逆回りをしない限り、壁に行き着くまで平行線をたどることとなる。
壁が近くなってきたところで、急に動きが変わった。今度は左に回り込もうとしてきたのだ。そうなると、クルクル回ることになる。それでもいいか?
逆回転の円運動を始めたかと思えば、急にこちらに向かって突進してくる。
崩しもできていない段階で距離を詰めてくるか。適度な距離を取って大薙刀の間合いで戦いたいが、5メートル程後方は壁なんだよね。受けるか、このまま回り込みながら背中に広いところが来るようにするか、考えている暇はなかった。
下段の構えから前に出ている右手を支点にして左手を下に押し込み、アリスの足元から切り上げるように大薙刀を動かす。
アリスは左手で持っている盾を大薙刀の軌道に置き、水泳の飛び込みのように体を前に投げ出して、右手に持っている剣を突き出してきた。
意表を突かれて首を刺されそうになった、首!?
自分でもびっくりするほどの動きを自分でやってのけた。大薙刀の遠心力も使って強引にブリッジをして、アリスの剣から逃れる。そのままだと追撃されるので、勢いのまま後方へ飛びバク宙の要領で中で回転して、5メートル程後ろにあった壁に着地する。
飛び込むような形で攻撃してきたアリスは、既に体制を整えており左手の盾を前にオーソドックスな構えだ。
着地したとはいえ壁なので、時間が経てば重力に引かれて地面に落ちてしまう。ならば、突進の力を最大限に引き出せるように、壁を蹴り最短距離でアリスへ向かう。
前宙の要領で大薙刀を巻き込みながら回転をして、アリスに叩きつける。
受けようと構えていたが、大薙刀の軌道を読んで回避された。
大薙刀が思いっきり地面に叩きつけられる。回避したアリスは左に回り込むように移動しており、上段から切り下すような構えになっていた。
それに対して俺は、地面を叩きつけた状態でまだ着地していない。
チビ神が同じ名前のアリスを応援している声が聞こえる。同じ名前でもこうも違うとはな……
もう普通には回避できない。
地面にめり込んだ大薙刀を使って、腕の力だけで体を移動させる荒業をした。
支点になる部分はこの場合、刃の部分でいいのかな? 柄を持っている左手を押し込み、右手を引くことによって体が回転して足がアリスの方へ向かう。そのまま蹴り飛ばす!
まぁ盾を構えている側なので、蹴飛ばすというよりは盾を蹴って距離を取ると言った方が正しいかもな。
真っ正直に蹴ると大薙刀を地面から引き抜けないので、そこは角度を変えて蹴りつけ移動する。
それから距離を変えながら何合も打ち合う。
手加減をしているつもりは無いけど、後ろを取って勝ち宣言なんていう甘いことはできないな。ライムの時だって、意表を突いたからできただけで。
時間まで戦って引き分け、みたいな消極的な戦闘をすれば、娘たちと話せなくなる。全力で戦っても傷つかないと分かっているが、本気の攻撃を仕掛けるのはためらわれる。
「シュウ様、そんな消極的な戦いをしていますと、私には勝てませんよ」
アリスが挑発してきた。しかも、消極的な戦い方をしているのがバレてる。戦っている姿はよく見ていると思うけど、知らない間にもっと強くなっていた。
「ふぅ……全力を出していないわけじゃないけど、勝ち方にこだわっていたせいで、消極的に見えるか……そんなに甘くないね。それと本気で行くけど、ズルいとか言わないでくれよ」
俺は少しの見栄を張り、頭を切り替える。暴力を振るう父親にはなりたくないが、妻とはいえ全力を出している戦士相手に勝ち方にこだわることを止めた。
上段の構えを取り、アリスの足元に向かって突き下ろす。
バックステップの要領で回避したアリス。
俺が突き下ろした大薙刀の刃が半分程地面に埋まった。それを見たアリスは目を見開く。
俺は刺さった大薙刀を強引にカチ上げ土砂を巻き上げて、アリスの方へ飛ばす。
身を小さくして盾に体を隠すように防御態勢を取る。
ステータスのおかげでほぼダメージはないのだが、今回はバリアを削られると負けになるので、土砂を避けることを選んだアリス。
どれだけバリアを削れたか分からないが、アリスが着地するタイミングに合わせて、大薙刀を投げる。
まさかの行動に慌てたアリスは、着地と同時に更に距離を取るためバックステップをして、剣を振り上げ大薙刀の軌道をそらした。
俺は、大薙刀を投げた瞬間にさらに前に出て距離を詰めている。
アリスは慌ててはいるが、冷静に振り上げた剣を振り下ろしに変えて俺に攻撃を仕掛ける。
だけどね、さすがに後ろに移動しながらの切り下しだと、威力は半減以下だよ。踏ん張りがきかない状態だから、剣の速度も先ほどより遅い。
振り下ろされる前に距離をゼロにして、剣を持っているアリスの右手に俺の左手を添えて、右手でアリスの右手首掴む。そのままねじるように引き込み、俺の背中をアリスの体に密着させ投げ飛ばす。
その際に剣を奪う、いわゆる無刀取りのようなことをした。
これで、アリスとの試合は決着する。
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