1634話 家族は向かってきていた
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元王族転生者がゴーストタウンで暴れてから1週間。
ゴーストタウンで慰霊祭が開催されている。
3人の殉職者の家族と、同僚、上層部の人間が中心となって参加している。住民からも参加希望が多々申請があったが、際限なく許可を出すと人数の問題があり、生前付き合いの強かった人を一部参加させるにとどまっている。
この世界の特徴なのか、最初こそ日本の慰霊祭と同じでスピーチのようなものがあったが、その後は俺が思っている慰霊祭とは全く違った。
亡くなった人の魂が迷わずに死後の世界へ行けるように、悲しむのは最初だけでお酒や食事をみんなで食べ楽しい雰囲気づくりをするのだとか。家族や仲間が悲しみに暮れていると、魂がとどまってしまうと考えられているためだ、と言われた。
場所が違えば常識も違うのだろう。
日本でも慰霊祭はあったが、実際に参加したことは無い。なので、イメージでしか慰霊祭というものを知らないが、慰霊祭の中で食べて飲んで楽しい雰囲気を作る、ということは無かったはずだ。
ちょっと違うとは思ったが、この世界ではそういうものなのでルールに従って、慰霊祭を行うこととなった。俺は街の代表として挨拶をする以外は、グリエルたちに任せているので、流れに乗っているだけだった。
日本人の感覚では分からないが、これはこれでもありかもしれないな。
そういえば、若者2人の家族も慰霊祭に参加しているのは、既にゴーストタウンに向かっていたため、3日前と2日前に各家族が到着した。
住む場所はこちらで用意すること、勤務時間内で職務をまっとうしたことによる死亡、殉職なので、賞恤金を渡すための手続きを説明し、了承を得る。
死んだということを聞いたときは、絶望したような表情になったが、ゴーストタウンに住めることを伝えると安心した様子だった。
どうやらこの世界では、移住するときは元の街には戻ってこれない前提で、移住しなければいけないらしい。移住を受け入れる街としても、街で働いている家族がいない状況で受け入れれば、トラブルになることが多いので受け入れないのが一般的のようなのだ。
今回の件は、移住する際に良く起こるトラブルの1つなのだとか。家族が絶望した顔になったことが理解できた。
最後に出来る限り希望に沿った働き口を斡旋することを伝え、それ以上の支援は無くゴーストタウンの法に触れるようなことをすれば、住人と同じように裁くことを伝えている。
初めてゴーストタウンに入る際の説明会は続いているので、その辺は理解してくれていたようでよかった。
そういえば、元王族の転生者も説明を受けているはずなのに、何で凶行に及んだのだろうか? 自分たちの方が強いと思っていたのだろうか?
過ぎたことを考えてもしょうがないな。
殉職された2人の家族は、片方は両親と子どもが3人、もう片方は母親と子どもが2人、の2家族だった。
父親のいる方は、元々料理人をしていたようでこの街の料理に、興味を持って移住を決めたらしい。ブラウニーがチェックした際に、2~3日程この街のルールを勉強してもらえれば問題ないだろう、とのことだった。思っている以上にレベルの高い技術の持ち主だったようだ。
お金をためてから宿か食事処を創めたいと考えていたようだったので、箱モノを準備していたがなり手のいなかった宿を1つ任せることにした。1年間で軌道に乗ってから、この宿の代金を払ってもらう形で契約を結ぶ。
この際に軌道に乗らなかった場合は、違う職業についてもらうことになるかもしれないことも契約を結んだ。1年後の状況次第ということだな。
父親のいない方は、2人の子どももまだ幼く父親が半年前に死んだため、息子を頼り移住してきた形である。なので、孤児院に併設されている治療院への就職をお勧めした。
孤児院の周りには、同じような立場、夫が亡くなってしまい、職に就けずに困っていた人たちが集まっているので、心理的な支えがあることを話すと是非! とお願いされた。
治療院で働いているといろんな人と接する機会が増え、気の合った人と再婚している人もちらほらいるのだとか。
とりあえず、今回の迷惑なヤツが起こした事件が全て片付いた。
悲しむ家族がいるのに、騒ぐのはどうなのだろうか? と改めて思ったが、その家族たちも笑顔を見せているので、やってよかったのかな。
「グリエル、しばらくは家族のことを気にかけるように、周りの人間に言っておいてくれ」
「了解いたしました。何かあった際にはどういたしましょう」
「お前たちだけで済む話なら事後報告でいいけど、俺の判断が必要だと感じたら迷わず報告してくれ」
こんなことを言っても、俺の判断が必要になることはまずないと思う。俺がかかわる案件として多いのは、街のことに対する最終確認や貴族が係わる事件などが中心だ。最近は貴族の事でも出番が減ってきていたりするけどね。
俺の好きな場所、世界樹の木漏れ日を浴びれる池の畔で、野外用のリクライニングチェア、ハンモックのように包まれるようなタイプに座って黄昏ていると、顔の上に何か降ってきた。
この感触と顔を包んでいるこの自由自在に変形するこいつは、ニコだな。頭の上じゃなくて顔の上に降ってくるのは止めてくれよ。お前が顔の上に乗ってると、息が吸えなくなるんだよ。
引っぺがすようにニコを顔から剥がすと、俺の手の中でプルプル高速で震え始めた。お前は何を俺に伝えたいんだ?
縦に伸びたり横に伸びたり意味不明なんだが、とりあえず、引っ張られ始めたのでついて来いってことかな?
ピョンピョン跳ねるニコを追いかけていくと、ミーシャたちがハンモックで寝ていた。3人で同じハンモックに寝るのは無理がないか? それにウルは俺が先ほどまで使っていた椅子と、同じタイプの椅子で寝ていた。
ここで一緒に寝ろってことかな?
収納の腕輪にしまった椅子を取り出してウルの横に並べる。そこでのんびりとすることにした。
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