1584話 ダンジョンバトル直前
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「さて、やってきましたダンジョンバトル当日!」
「いったいなんでござるか?」
「いや、なんとなく気分を盛り上げるためにな」
「哀れな羊たちを笑うためでしょ? それにしても、申し込んだ側がダンジョンバトルをキャンセルできないって、本当にかわいそうなことよね」
「そもそもでござる。チビ神殿の話では、複数のダンジョンバトルを仕掛けられたからと言って、まとめて相手をすることなんてござらんかったようでござる」
「おぃ、さすがに今のござる口調は無理がないか?」
「そうでござるか?」
「そうね」
「そうだと思うっす」
ダンジョンバトルが始まる前なのだが、緊張感のかけらもなく、久しぶりに会話を楽しんでいるバザールが凹んでいる。
こいつ、基本的に農場にこもるか工房にこもるかここにこもるかの3択が、最近の行動パターンだったからな。会話ができないアンデッドを使って仕事をしているので、コミュニケーションに飢えているのかもしれない。たまに、ジェスチャーで抗議してくる変わり者がいるって言ってたっけ?
「それで、今回の対策はばっちりなのでござるか?」
「お前と話した通りだよ。今回は、水陸両用の3式装備で固めたS級スケルトンを50体準備したよ。予定では100体のつもりだったんだけど、自分たちで加工しているとはいえ、50体分しか3式装備を準備できなかったんだよね」
「ん? どうしてでござる?準備は早い段階で終わっていたでござるよね?」
「じゃぁ健司君、バザールの質問に答えてください」
「えっとっす。加工に自前の魔力を使っていても、原材料の段階で50体分までしか材料が揃えられなかったっす」
「なるほどっす……でござる。だけど、S級スケルトンは予備を準備しているでござるよね?」
「口癖が移ったか? まぁ、S級スケルトンは予定通り100体準備したから、残り50体は待機中だな。もしこの数で勝てないなら、今回は潔く負けるつもりだな。リスクなんてないしな」
「そうでござるな。今回のダンジョンバトルの怖いところは、ノーリスクハイリターンという馬鹿げた状況でござるよ。実質負けてもDPだけでござるからね」
「今回不安な点があるとすれば、バザールの指揮無しでS級スケルトンたちが戦うことだな。ここで憑依したら、お前が参加していることになって、負けた時のリスクが跳ね上がるから仕方がないんだけどな」
「大丈夫でござるよ。指揮官クラスの小隊長10体は、キングから情報共有してもらっているから、基本的な小隊行動は問題ないでござる。ただ、まとめる大隊長的存在がいないでござるから、横の連携が上手くいくか心配でござる」
「問題ないと思うっす。普通に考えてっすよ、Sランクの魔物が召喚できない状況で、Sランク相当の魔物が5体1組で動いていれば、正直悪夢っす。1体でも絶望的戦力だと思うっすよ」
「普通ならそうなんだけど、今回戦う7人のダンジョンマスターの何人かは、この状況にも対応できる魔物を準備していると思うんだ。そこで質問、DPの少ない状態でもSランク相当の魔物に対応できる魔物とは、どんな魔物でしょうか?」
「えっ!? いきなりっすか?」
チックタックチックタック……
「リバイアサンみたいな存在ですか?」
「隷属魔法で従えたなら可能かもしれないけど、俺みたいにダンジョンの中に入れてDPで支配した場合は、支配した時のDPの5倍が召喚した際のDPになるって話だな。それに隷属魔法も一応レアだから持っているダンマスは少ないかな?」
「他には……」
「というか、そんな存在なんているの? Sランク相当に匹敵する魔物ってさ」
「考えてみたら分かるよ。DPが少ないダンジョンバトルを仕掛けて来た相手のことを考えてた時に、手を貸したダンマスがいなかったら? って考えてたら、思い浮かんだんだよ。多分だけど、今回の奴は協力者がいると思うけどね」
「なるほどでござる。某たちも一度その方法を試そうと思ったでござるが、S級スケルトンの方が効率がいいと思い破棄されたあれでござるな」
「おっ! 多分、バザールのはあたりだな。あれはとにかく手間がかかるからな」
「えっ? なになに? 私にはわかんないんだけど!」
『ちょっと、あんた、どういうことよ』
おっと、うるせえやつが出て来たな。
「誰っすかこの声?」
「あ~、お前は初めてだったな。俺をこの世界に呼びやがった、チビ神だ」
『誰がチビ神よ! こちとら可愛さが天元突破したって、最近噂になってるんだからね!」
「はいはい、嘘乙。まぁ、こいつは放置しといていいわ。じゃぁ、ヒントを出そう。魔物の強さって生まれた時から死ぬまで一緒か?」
『ムッキー!「バナナくうか?」食わないわよ! って、このやり取り何回やるつもりよ! しかもご丁寧にバナナを取り出すんじゃないわよ!』
「あ~、うっせーからちょっと黙ってろや。今回も前回と同じで、全力は出すけどお前から見たら不満の多いバトルになるから、こっちなんて見てないで小説読むかゲームでもしてろ」
『えっ? マジで? 今回もくだらないバトルになるの?』
「相手のダンジョンの広さにもよるけど、おそらくは1週間もかからないと思うぞ」
『どういうことよ!』
「今回は、DP上限が低かっただろ? そのせいで用意できる魔物の数が、少ないんだよ。Sランクの魔物がいなければ、B~Cランクの魔物で物量作戦ってのもありだけど、こっちにはS級スケルトンがいる。そして今話している、今回対応できる魔物の数もそう多くはない。だから、戦闘は長引かない」
『ちょっと、ふざけんじゃないわよ! 私たちの楽しみ取らないでよ!』
「待て待て、今回の戦闘時間が短くなるのは、俺の所為じゃねえ。DP上限を低くしたやつが悪い」
『あんたがまとめて戦闘するのが悪いに決まっているでしょうが!「そんなに怒るなよ、禿るぞ?」禿ないわよ失礼しちゃうわね! あんたと話してると疲れるわ!」
そう言い残して、去っていく足音が聞こえた。何でわざわざ足音を伝えてくるんだか?
「分かったっす!」
静かだなと思っていた健司は、チビ神のことなど途中で忘れて考えに没頭していたらしい。
「多分っすけど、召喚した魔物に魔物を狩らせてLvをあげた! じゃないっすか?」
「正解。ダンジョンって作っても放棄できるんだ。そうすれば、自分の使ったDPとみなされなくなると思う。それがダメだったとしても、敵性ダンジョンマスターのダンジョンで、狩りさせればいいだけなんだけどね。まぁ、DPを使わなくてもLvをあげる方法はあるんだよね、面倒だけどさ」
「なるほどっす。シュウさんは、S級スケルトンがいるから個別にLvをあげた魔物は用意しないんすか?」
「いや、従魔たち以外にもLvをあげている魔物はいるよ。正確には、今現在も頑張ってるっていうべきかな? でもね、SランクとAランク以下の魔物ってポテンシャルが違うんだよね。どれだけ鍛えても同じLvだと、十中八九Sランクが勝つんだわ。相性の問題もあるけどな」
「そうなんすね」
「あんたたち、そろそろ始まるわよ! バザール、煎餅に漬物、熱い緑茶をお願い」
綾乃はバザールを召使のように扱っていた。
「あの、思ったんすけど、何でこの部屋ってわざわざ寒くしてまでコタツを置いてるんすか?」
「趣味みたいなもんだな」
「……」
健司よ、考えるな! 感じろ! だよ。
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